人的資本開示とは?義務化される19の開示項目について解説!

現代ではITや科学技術の発達が目覚ましい中で、人が備える資本についてもあらためて注目されています。同時に、人的資本の情報開示が重要とされはじめたのです。では一体重要視される背景は何でしょうか。そこで今回は人的資本の情報開示が必要な理由と開示する際の注意点などを解説します。 人的資本開示とは? 人的資本とは人間が備えている知識・技能・資格などを指します。人的資本という言葉に聞き慣れないかもしれませんが、「人的資本への投資」と言われれば馴染み深いでしょう。学校での教育・職場での研修・子育てなど、人に対して投資を行う活動を言います。 人的資本に投資を行えば、一人一人が成長するだけでなく、実力を存分に発揮できるのです。例えば、社内研修を積極的に行うと、実践的なスキルが身に付きます。習得したスキルで成績が上がれば、さらに仕事に対するモチベーションが上がるはずです。最終的には企業全体の利益向上につながります。 実際、最先端技術を用いて事業成長を遂げている企業は、人的投資を積極的に行っているのです。結果、人の成長スピードが早く、技術を生む基盤が確立されています。以上のように、現代では表面上の技術に頼っていても、どこかで息詰まります。大切なのは中心にある「人」の力であり、人的資源への投資が不可欠です。 人的資本開示と人的資本経営の違い 人的資本経営とは、資本である人材の価値を最大限に高め、中長期的に企業の価値を向上させることを目指す経営手法です。 一方、人的資本開示は企業ごとに人的資本経営の考え方、取り組み等は施策実施をしたとにデータに基づいて情報を開示することを言います。人的資本開示は、人的資本経営の方針や取り組みがあるからこそ実現できるものです。 人的資本と人的資源の違い 人的資本と似た言葉に人的資源があります。混同されやすい言葉であるものの、両者の大きな違いは目的です。人的資本は人に対して研修や教育を行い「投資」を行っていきます。投資を行った結果、企業利益としてリターンが期待できます。 一方、人的資源は企業運営に必要なリソースであり、人を「消費」していくのです。企業運営に欠かせない要素にヒト・モノ・カネ・情報がありますが、そのうちのヒトに該当します。組織形成のために人を成長させるのが人的資本であり、一人前になった人を戦力として活用するのが人的資源。そのように例えると分かりやすいかもしれません。 人的資本は人を最大限活用するためにあり、人的資源は効率的に運用するためにあります。以前までは人に対する注目度が低いゆえに、人的資源と考えられる傾向にありました。しかし、現在は人に着目する企業が増えたため、人を人的資本と捉える傾向が出てきたのです。 このように、両者には大きな違いがあるため、まずは特徴や言葉の背景を把握しておきましょう。 人的資本開示を行う目的とは? 人的資本の情報開示は、企業がステークホルダーに人的資本経営を実践していることを伝えるために行われます。非財務情報可視化研究会による資料によれば、競争力や持続的な価値向上には人的資本への投資が不可欠であり、投資家も人的資本経営に基づく情報開示を期待しています。 また、ESG経営の一環としても、人的資本の情報開示は重要であり、企業のESG経営に関する情報を広く周知する役割も果たします。 人的資本の情報開示の義務化はいつから? 2023年度より、日本でも人的資本の情報開示が義務付けられるようになりました。 2023年から義務化 2023年3月以降、日本では「企業内容等の開示に関する内閣府令」の改正により、特定の金融商品取引法発行者に対して人的資本の情報開示が義務化されました。これにより、有価証券報告書などでの提出が必要とされます。 人的資本に関する記載必須事項は、サステナビリティ情報の「戦略」と「指標及び目標」の2つです。また、女性活躍推進法に基づき公表されている「女性管理職比率」「男性の育児休業取得率」「男女間賃金格差」などの指標も、これらの企業において有価証券報告書などでの記載が求められます。 義務化対象となる企業 人的資本の情報開示の対象は、金融商品取引法第24条に基づいて有価証券報告書を提出する約4,000の大手企業です。有価証券報告書は企業が自社情報を公開するための資料であり、金融商品取引法に基づいて内閣総理大臣に提出されます。 この書類は法律で義務付けられており、虚偽や不提出は罰則の対象となります。情報の正確性と適切な提出が重要です。 日本における人的資本の情報開示の動向 人的資本の開示が義務化されるまでに、様々な動きがありました。これまでの人的資本の情報開示の動向を解説します。 ISO30414 ISO30414とは2018年に国際機構が発表した人的資本に関する指針です。当指針は11領域49項目に分かれており、労働力の維持や社内外に向けた情報開示を求める内容となります。情報開示を行うことで、日本だけでなく世界的にも透明性を追求できるためです。 指標が定められた背景には世界的な人権・環境問題が大きく影響しているでしょう。SDGsへの関心が強まり、持続的成長が見込まれる企業が注目を浴び始めました。また、ESG投資に関心が寄せられる中で、人材育成や多様性への取り組みが注目を集めています。 さらに、前述した人材版伊藤レポートの中で「企業が成長するためには、人的資本の活用が不可欠である」と発表されたのも、ISO30414に関心を寄せられる一因でしょう。今後も人的資本の枠組みとして、ISO30414の活用が期待されます。 日本企業に求められる開示内容 日本企業は自社株が市場で広く売買され、企業の成長と共にステークホルダーの数も飛躍的に増加します。その影響で開示すべき内容や利害関係者が知りたい内容も増えていくのです。企業においては会社法・金融商品取引法などの制度に沿って開示していけば問題ありません。 とはいえ、範囲が広いゆえに要領を得ない開示を行う企業も増えています。そのため、次から解説するポイントを重点的に押さえておきましょう。 可視化と実践の連動 まずは情報の可視化と実践の連動を行っていきましょう。情報の可視化とは具体的に「企業が成長していくためにはどんな人材が必要か?」「業界で勝ち抜くために人材戦略をどう考えているか?」を見える化するということです。企業の人材に対するビジョンが明確化すれば、投資家は納得します。 また、実践の連動とは、可視化した情報における行動の移し方です。前述した例であると、獲得した人材の育成方法や考案した戦略の数値化などになります。より具体的かつ端的にステークホルダーが納得できるかたちで、開示する流れです。 可視化と実践の連動のポイントを押さえておけば説得力が増し、企業の信頼性はさらに上がっていくでしょう。 「価値向上」「リスクマネジメント」の2軸による項目化 情報開示にあたっては価値向上におけるプラスの面と、リスクマネジメントに関するマイナスを防ぐ面の両立化が必要です。価値向上に関しては教育実習・資格取得・スキル投資などが該当します。このように社員へ投資を行えば、ひとりひとりの価値は向上し、企業利益は大きく上がるはずです。 一方、リスクマネジメントは労働安全・身体的健康・サプライチェーンなど。主に社員が業務を問題なく行えるかに着目しています。言わば、価値向上は「攻め」であり、リスクマネジメントは「守り」です。 攻めだけの情報であると投資家は不満に感じるでしょう。反対に守りだけでは今後の成長に希望が持てないかもしれません。企業経営やスポーツ同様、情報開示においても攻めと守りの視点から、動いていく必要があるのです。 「人材版伊藤レポート」の公開 まずはじめに紹介するのが人材版伊藤レポートです。人材版伊藤レポートとは、経済産業省主催の人的資本経営検討会にて、座長である伊藤氏がとりまとめた報告書になります。現在は「人材版伊藤レポート2.0」(以降「レポート」と称する)が最新版であり、過去に公表されたレポートより詳しく追求したものです。 レポートがうまれた背景としては、時代の変化による、人的資本の重要性の高まりがあります。企業が成長するためには、長期的に見て人的資本への比準を高める必要があるのです。伊藤氏はそんな必要性を感じたからこそ、レポートにて公表しました。 具体的な内容は大きく「経営・人材戦略の連動」「働き方の多様性」について書かれています。経営・人材戦略の連動では経営と人材を一緒に考えるべきと説いています。ビジネスの成長には人材への投資が不可欠であり、人材戦略を経営戦略と同レベルで考えるべきと書かれているのです。時代の変化に伴い、社会の流れに沿った人材を育てる必要があります。 また、働き方の多様性については、働く環境への投資をメインに解説しています。テレワークやサテライト勤務をより普及させるため、社内PCの充実化・コミュニケーションツールの導入・オンライン研修の採用などを推進しているのです。人が場所を選ばず働ける環境になれば、より生産性が上がると伊藤氏は解説しています。現在はレポートの内容を実践している企業が増え、実際に結果が出ている会社も見受けられます。 内閣が「人への投資」の抜本強化を宣言 岸田内閣は人への投資について、大々的に取り組むとされています。まず大きな対策としては3年で約4000億円の施策パッケージの導入です。具体的にはオンライン研修導入による助成金制度導入や業務外セミナー参加の補助金制度などになります。 オンライン研修導入となれば、時間や労力が必要です。仕事とは別のセミナー参加となれば、お金も掛かってきます。そのような問題をクリアするため、政府は助成金や補助金を取り入れました。 また、内閣はIT人材不足に対する課題についても言及しています。例えば、IT未経験者を雇用し研修を行う場合、経費助成金を60%まで引き上げているのです(以前までは45%)。加えて、研修に伴い資格受験を受ける際も、受験料助成金の特例が適用されます。 以上のように、政府は人への投資を抜本的に強化しており、人的資本への取り組みに積極的です。 経済産業省「非財務情報の開示指針研究会」の開始 政府は情報開示について議論するため、非財務情報の開示指針研究会をスタートしました。背景としてはESGとも大きく関係しています。社員の健康状態・働き方の多様性・賃金の公正性について、投資家はより高いレベルを求める傾向になりました。 実際に米国では人的資本に関する情報開示について義務付けを行っています。欧州では今後情報開示の動きが広がる見込みです。そのような世界的な動きからも、日本でも人的資本の情報開示について議論されています。 そして、情報開示における多くの基準では、人材育成・従業員の安全・ダイバーシティに関する事項が盛り込まれているのです。「人材育成にどれだけ力を入れているのか?」「常に安全で働きやすい環境をつくっているか?」などが基準となります。 … Continue reading 人的資本開示とは?義務化される19の開示項目について解説!