製造業における生産性向上とは?目的、課題、取り組み方、事例を解説

製造業では、生産性向上と品質管理は企業競争力の基盤となります。
近年少子高齢化にともなう労働人口の減少により、特に製造業においては人材不足が大きな課題となっており、効率的かつ安定した生産体制を構築することが重要です。
一方で、製造業の生産性向上はなかなか進まないケースも多くあり、注意すべきポイントがいくつもあります。
本コラムでは、製造業における生産性向上の目的や課題、具体的な取り組み方を解説します。
製造業の生産性とは?
生産性とは、ヨーロッパ生産性本部によると「生産諸要素の有効利用の度合い」で、生産要素の投入で得られる産出物との相対的な割合のことであり、製造業においては、投入した「ヒト・モノ・カネ」に対して、どれだけの製品を生み出したかを示す割合をさします。
生産性は主に「労働生産性」「設備生産性」「資本生産性」の3つに分類され、製造業では、単に生産量を上げるだけでなく、現状の生産量を維持しつつ、労働力や設備の効率を向上させることが重要とされています。
生産性については、下記の記事もご参照ください。
製造業における生産性向上とは?
製造業における生産性向上とは、単に労働生産性を高めることだけでなく、製造量や設備、資本の効率を総合的に改善することを指します。
製造業では製造量が急激に増加することは少ないため、労働生産性の向上だけでなく、製造量の維持や設備生産性、資本生産性の改善も重要であり、これらの改善が生産性の評価に大きく影響します。
製造業で生産性を向上させる目的
製造業で生産性を向上させる目的はどのようなものがあるのでしょうか。
本項目では大きく4つの目的を解説します。
人手不足の改善
経済産業省「2022年版ものづくり白書」によると、2002年から2022年にかけて、非製造業では就業者が約400万人増加したのに対し、製造業においては就業者が約160万人減少しており、人手不足が深刻な課題となっています。
こうした状況下では、業務効率の向上が重要な解決策となります。
業務効率を高めることで、新規採用に頼らず、自社内の限られた人材で業務を回すことが可能となり、人手不足への対応力を高めることができます。
製品の品質安定
製造業における生産性向上は、単に効率化を図るだけでなく、製品の品質安定にもつながります。
現場作業の手順や工程などが標準化されることで、従業員ごとの作業のばらつきが減少し、製品の品質を安定化しやすくなります。
また、安定した品質は不良品の削減や顧客満足度の向上にも寄与し、結果として生産効率や企業の信頼性向上にもつながります。
企業の利益アップ
製造業での生産性向上は、企業の利益アップにも直結します。
ムダやロスが減って生産性が向上すれば、少ない資源でより多くの製品を製造できるようになります。
その結果、商品コストだけでなく人的コストもふくむ製造コストが抑えられ、収益性が高まります。
また、効率的な生産体制は安定的な供給や納期遵守にもつながり、顧客満足度の向上を通じて長期的な利益確保にも寄与します。
企業競争力の向上
生産性向上によって、現在の資源を最大限に活用してより高品質な製品を効率的に生産できれば、コスト・品質面での競争力が向上します。
市場のグローバル化が進む中で、こうした生産性の高さは顧客からの信頼や取引機会の拡大につながり、他社との差別化要素となります。
結果として、企業はグローバル市場での競争力を高めることができるでしょう。
製造業の生産性向上が進まない理由
製造業の生産性向上は様々な要因によって妨げられます。
本項目では4つの要因を解説します。
非効率的な業務フロー
製造業で生産性向上が進まない一因として、非効率的な業務フローが挙げられます。
人的資本だけに頼った従来の生産体制では、作業のばらつきやムダが発生しやすく、生産性が向上しません。
そのため、業務の機械化や自動化、作業手順などの最適化を通じて、非効率的な業務フローを改善し、限られた人材や設備で効率的に生産できる体制を整えることが重要となります。
不適切な人員配置
不適切な人員配置も製造業で生産性向上が進まない要因のひとつです。
従業員が自身の適性や能力に合わない業務に配属されていると、作業効率が低下するだけでなく、ミスや手戻りも増えます。
また、やりがいや達成感を感じにくくなるため、モチベーションの維持も難しくなります。
結果として、個人の生産性だけでなく、組織全体の生産性向上も妨げられてしまうため、人員配置を最適におこなうことが重要です。
従業員のスキル不足
従業員のスキル不足も製造業で生産性向上を妨げる要因のひとつです。
社内教育が不足していたり、最新技術への理解不足や設備・システムの未活用などがあると、作業効率や品質などの生産性向上が妨げられます。
また、スキル継承もより難しくなり、スキルの偏りや人材不足が生産性向上の阻害要因となります。
そのため、計画的な教育・研修や技術導入の際のサポートを通して従業員のスキルを高めることが重要です。
現場のコミュニケーション不足
最後に解説する製造業で生産性向上が進まない要因は、現場のコミュニケーション不足です。
従業員同士のコミュニケーションや部門間の情報共有が不足していると、業務進行が遅れたり、トラブルが発生したりするリスクがあります。
これにより、工程全体の効率が低下し、生産性向上の取り組みも十分に効果を発揮できません。
そのため、現場での情報共有や報告・連絡・相談の仕組みを整備することが重要です。
製造業における生産性向上の取り組み方
製造業における生産性向上の取り組み方にはさまざまなポイントがあります。
本項目では7つのポイントを解説しますのでぜひご参考にしてください。
①生産性向上の目標を設定する
生産性向上に取り組む前に、KPI(重要業績評価指標)を設定し、どの程度生産性が改善されたかを定量的に計測できるようにしましょう。
作業時間の短縮や設備稼働率の向上、歩留まり改善など、測定可能な指標を設定することで、改善活動の進捗や効果を評価しやすくなり、組織全体で効率的かつ計画的に生産性向上を推進することが可能となります。
②施策の対象業務を絞る
施策の対象業務を絞ることも重要です。
例えば「作業者の人件費」や「製品の出来高」といった特定の分野に絞ることで、施策内容が明確になり、施策の成果につながりやすくなります。
また、目標達成度や成果に関するデータを取得しやすくなり、継続的なモニタリングや改善活動のPDCAサイクルを回す際にも役立ちます。
③業務フローを可視化する
現状の業務フローを可視化し、自社の「ムリ・ムダ・ムラ」を分析することで、改善ポイントが把握しやすくなります。
さらに、業務管理ツールやフローチャートなどを活用することで、部署ごとの作業内容だけでなく、企業全体の業務状況も把握しやすくなり、効率的な改善施策の立案や効果測定にもつながります。
④課題に優先順位をつける
可視化した業務フローやデータなどの情報をもとに改善点を抽出し、目標にに合わせて優先順位を設定しましょう。
すべての課題を同時に改善するのは困難なため、目標達成に直結する課題や影響の大きい工程から着手することで、効率的に成果を上げられます。
優先順位を明確にすることで、リソース配分や改善施策の進捗管理もスムーズになり、計画的な生産性向上が可能になります。
⑤改善策を実行する
生産性向上の取り組みでは、抽出した課題に応じて改善策を実行することが重要です。
生産現場の技術が不足している場合は、教育研修プログラムを追加したり、システムで業務を自動化したりする方法があります。
また、設備やシステムの見直しを行い、IoT技術や、RPA、ロボット、AIなどを導入することで、業務の自動化や生産効率の向上が期待できるでしょう。
⑥成果が出た改善策を標準化する
一定の効果を見込める改善策は、他の製造現場でも取り入れられるように、従業員に具体的な手順やポイントを説明した上で、現場ルールとして標準化するようにしましょう。
これにより、他の製造現場でも同様の改善策を再現可能となり、組織全体の生産性向上につながります。
また、標準化は改善の定着や新たな改善策の検討にも役立ちます。
⑦継続的にモニタリングする
事前に設定したKPIに基づき、施策の成果を定点観測することで、改善効果を数値で把握でき、有効性を検証しやすくなります。
また、モニタリングを通じてデータを蓄積することで、問題点や新たな改善余地を早期に発見できるため、PDCAサイクルを回しながら、継続的に生産性を高める体制を構築することが可能となり、生産性向上につなげることができるでしょう。
製造業の生産性向上は企業力の強化につながる
製造業における生産性向上は、単なる作業効率の改善にとどまらず、企業全体の競争力や利益、製品の品質安定にも直結します。
限られた人材や設備を最大限に活用し、業務フローの最適化や自動化、スキル向上を進めることで、持続的な成長が可能になります。
継続的な改善と標準化、モニタリングを通じて、生産性向上を組織全体に定着させることで、企業力の強化につながるでしょう。