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ジョブ型人事制度とは?メリット・デメリットや導入時のポイントを解説

現代の社会は昔と比べて大きく変化しており、コロナウイルスをきっかけに多様な働き方が生まれました。企業もその時代の流れに乗るために「ジョブ型人事制度」への切り替えが進んでいます。これは人材の確保が難しい今、企業が成長するための大きなきっかけになるでしょう。

今回はジョブ型制度の特徴や導入時のポイントについてご紹介します。

ジョブ型人事制度とは?

人事制度には大きく分けると以下の2種類があります。

  • ジョブ型
  • メンバーシップ型

こちらではそれぞれの種類について説明します。

ジョブ型とは

ジョブ型人事制度とは、企業が求めている職務に適した人材を採用する制度です。この制度は業務内容や責任範囲が事前に決められており、その役割で給与が変動することが特徴です。つまり会社員のような一定の収入ではなく、業務量や責任の大きさによって左右されやすい制度といえます。中途採用はこの形式であることがほとんどで、マーケティングに関連する職種に多いです。

このように企業の特定の業務に適した人材を運用することで、チーム運用を行います。またジョブ型は契約時に、業務内容や条件を記載した「職務記述書」が交わされます。

メンバーシップ型とジョブ型の違い

メンバーシップ型人事制度は人材の業務内容や勤務場所、労働時間を事前に決定しません。新卒の採用後にさまざまな業務を経験させたあと、スキルに適した業務を担当してもらう形式です。世界的にみるとジョブ型を導入している企業が中心ですが、日本はメンバーシップ型の企業が多いです。この制度は1つの企業で長期間働けるメリットがありますが、業務配置の変更や残業、転勤など、企業の都合にあわせて仕事をする必要があります。

メンバーシップ型は「人材を育ててから適切な業務を配置する」形式であるのに対して、ジョブ型は「業務に対して適切な人材を配置する」形式のため、真逆の制度といえます。

ジョブ型人事制度が注目されている理由

近年ジョブ型人事制度が注目されていますが、その理由は主に以下の3つです。

  • リモートワークの普及
  • 終身雇用制度の崩壊
  • 専門職の不足

それぞれ詳しく説明します。

リモートワークの普及

コロナウイルスの感染で、リモートワークが普及するようになったことが理由の1つです。リモートワークで対面でのマネジメント管理が困難となったことから、働き方や管理方法について見直しがされました。

コロナウイルスの影響がなかったときは「会社に行かないと仕事はできない」という認識でしたが、今では「会社に行かなくても仕事はできる」ということがわかりました。同時にリモートワークで企業に貢献する人としない人が浮き彫りになり、ジョブ型が注目されるようになっています。働き方の多様化が進み、勤務場所や時間帯の制限が少なくなった現在、実力を重視したジョブ型を採用する企業が増えてきています。

終身雇用制度の崩壊

時代の流れにより、日本の終身雇用制度が崩壊したことも注目された要因です。今まで日本は終身雇用や年功序列が当たり前であり、メンバーシップ型がほとんどでした。人材も豊富だったので、大量採用の後に職場で経験を積ませて長期間働いてもらうスタイルが基本的な流れです。

しかし高齢化が進み、労働人口の減少にともない人材を安定して確保することが難しくなりました。このことから、戦力として時間がかかりやすいメンバーシップ型よりも、即戦力となる人材を確保しやすいジョブ型の人事制度が注目されるようになりました。

専門職の不足

専門職の競争率が激しく、人材が不足していることによりジョブ型が注目されはじめました。とくにエンジニアやデータサイエンティストなど、新しいスキルを保有している人材は顕著といえるでしょう。そのためスキルに応じて報酬が変動するジョブ型を導入しないと、人材の確保が難しい状態となっています。

また介護職は特別なスキルを保有していなくても業務を行えますが、離職率が高く人材不足となりやすいです。以前からエンジニアの採用をジョブ型で行う企業が増加し、年号序列に応じて収入が大きく変化した時代での採用率は低かったです。ここ2〜3年で大手企業が新卒の初任給の一定化をやめ、業務に適した人材の採用を積極的に行ったことから、ジョブ型が推進してきています。

まとめると、ジョブ型人事制度が注目されている理由は以下の3つです。

  • リモートワークの普及
  • 終身雇用制度の崩壊
  • 専門職の不足

企業も時代の流れにあわせて、最適な制度を導入することが大切です。

国際競争力の強化

ジョブ型人事制度を語る上で欠かせないのが国際競争力です。

スイスのビジネススクールが発表した国際競争力順位では、2022年日本の順位は現在34位と過去最低。1980年代まで4年連続1位であった順位は年々減少しているのです。

ちなみに2022年現在の1位はデンマーク、アジアトップはシンガポールとなっています。

原因として考えられるのはデジタル化への大幅な遅れです。世界がデジタル化へと進んでいる中、日本はいまだにアナログな面が残っているのも事実。となれば効率は悪くなり、ビジネスにおいて他の国には勝てません。

そのような背景もあってジョブ型人事制度が進められています。例えば「ITに特化した人材を採用する」「DX化を加速できる管理者を採用する」などの動きが見受けられるでしょう。

日本が世界で活躍する為にはジョブ型人事制度の活用が不可欠なのです。

ジョブ型人事制度のメリットとデメリット

ジョブ型人事制度について説明しましたが、実際にどのようなメリット・デメリットがあるのかがわからない方もいると思います。こちらではジョブ型を導入するメリットとデメリットについて説明します。

ジョブ型人事制度のメリット

ジョブ型人事制度のメリットについて、まずは求職者目線で考えていきましょう。

企業が求める人材が明確であるため、自分自身が何を求められているのか明確になります。能力に適した仕事ができ、モチベーションアップにつながるでしょう。加えて、自分の能力とかけ離れている仕事をやらなくても良い安心感がうまれます。

一方、企業目線で考えると、目的に沿った人材を適切なタイミングで獲得可能。一から育成したり、結果的に求める能力を持ち合わせていなかったりするケースも防げるでしょう。

また、企業は評価面においても効率化が実現します。能力に合わせて評価を行っていけば良いため「どの面を評価すればよいか分からない」「評価制度をつくりづらい」などの悩みも軽減できるはず。

このように、ジョブ型人事制度には求職者と企業側それぞれにとってメリットがあります。

ジョブ型人事制度のデメリット

ジョブ型人事制度のデメリットについて、まずは求職者目線で解説します。

企業が求める能力が決まっているため、分野内のスキルしか身に付きません。他分野に携わる機会も減るため、対応力に乏しくなる可能性もあります。

さらに勤務部署や事業所が閉鎖した場合、転職を検討したり、他のスキルを一から身に付けたりする必要も出てくるでしょう。

一方、企業側で考えると、契約外の仕事を与えられないデメリットがあります。ジョブ型人事制度は「社内システムを構築してほしい」「セキュリティ環境を万全にしてほしい」など専門的な分野を任せるべく採用しているため、イレギュラーが発生した際に対応できないかもしれません。

また、分野外の仕事を依頼して断られるケースも。一般的にスペシャリスト採用であるため、専門外の仕事には取り組まない可能性が高いです。

ジョブ型人事制度を導入する場合はそのようなデメリットも念頭に置いておきましょう。

ジョブ型人事制度を導入するには?

ジョブ型人事制度の導入方法について、よくわからない方もいるのではないでしょうか。今回はジョブ型を導入するためのポイントを3つに分けて説明していきます。

  • 職務・職務要件を定義する
  • 管理職から導入をはじめる
  • 報酬水準を決める

職務・職務要件を定義

まずは業務内容と責任の範囲を明確に決めておきましょう。業務を決定するためには、従業員に内容を記述してもらう方法とヒアリングする方法があります。記述してもらう方法では従業員が行っている業務を書き出すだけなので、短時間で職務の定義が決まりやすいです。しかし従業員が虚偽申告をする可能性もあるので、注意が必要です。

もう1つのヒアリングでは従業員の虚偽申告は防ぎやすいですが、上層部のスタッフの負担が大きくなってしまうデメリットがあります。企業の規模やチームの構成にあわせた方法を選択しましょう。職務の定義が完了したら、最後に業務に求める人材のスキルや能力をまとめた職務要件を作成します。

管理職から導入をはじめる

日本は今までメンバーシップ型を導入してきたため、すべての従業員をジョブ型に切り替えると混乱してしまう可能性が高いでしょう。そのため、まずは業務内容と責任範囲がはっきりしている管理職から導入することをおすすめします。管理職が新しい形式に慣れてきたタイミングで、段階的に従業員に波及させると混乱は少なくなります。

また制度が大きく変化する影響で、従業員から不満や不安の声が出ることもあるでしょう。従業員の心理的負担を軽減させるためにも、ジョブ型の説明を詳しく行い、理解を深めてもらいましょう。

報酬水準を決める

職務要件の定義が完了したら、業務ごとの報酬水準を決めましょう。報酬の基準は企業や職種、市場価値によって異なります。まずは技術職や人事といった職種から決定し、そこから業務内容と責任範囲を考慮しながら調整しましょう。

まとめると、ジョブ型人事制度を導入するときのポイントは、

  • 職務・職務要件を定義する
  • 管理職から導入をはじめる
  • 報酬水準を決める

よく考えずにジョブ型を導入してしまうと、かえって自社に悪影響を与えてしまいます。以上のポイントをしっかりとおさえつつ、導入を進めていきましょう。

ジョブ型人事制度の導入事例

ジョブ型人事制度の導入事例について解説していきます。

解説するのはKDDI株式会社です。KDDI株式会社は携帯電話「au」を中心とした大手電気通信事業者になります。

創業者である稲盛和夫氏が執筆した「生き方」「アメーバ経営」は多くの人に読まれた本であり、企業の土台を築くために必要な内容が書かれているのです。

そんなKDDIは2020年に「KDDI版ジョブ型人事制度」を導入しました。本来のジョブ型人事制度にKDDIオリジナルの要素を組み合わせた制度です。

導入した背景には時代の変化がありました。新規事業へ取り組むにあたり、専門人材の外部採用や育成へのシフト転換が求められたのです。人事ビジョンが大きく変われば制度も変更しなければいけません。そこで新たなKDDI版ジョブ型人事制度を導入しました。

新制度は勤続年数や勤務時間ではなく、能力・成果・挑戦する姿勢に重きを置いたものに変更。結果的に社員が好意的に受け止めており、モチベーション高く働く社員が増えたとのことです。

現在も新制度の理解を深めてもらうため、社員に対して説明会やミーティングを行っています。

ジョブ型人事制度を構築する流れ

ジョブ型人事制度を構築する流れを解説します。

適用範囲の検討

ジョブ型人事制度を導入する場合は、まず適用範囲を検討していきましょう。

抜本的にジョブ型人事制度へ切り替えるのは困難を極めます。なぜなら知識や経験のない状態からジョブ型人事制度へ舵を切ってしまうと、仕事がスムーズにまわらないケースも出てくるからです。

そのためにも最初は管理職限定で適用したり、中途採用で試したりすると失敗も少なくなるでしょう。

実際に前述したKDDIも当初は中途採用に限定し、徐々にその幅を広げています。成功体験が得られるまでは、試験的に範囲を限定して導入するのがおすすめです。

ジョブ・ディスクリプションで職務を洗い出す

適用範囲を検討したら、次はジョブ・ディスクリプションでイメージを具体化していきます。

ジョブ・ディスクリプションとは職務記述書であり、業務において必要な項目を複数に分けて書かれた書類です。具体的には職種・ミッションと目標・雇用形態・福利厚生などの項目があります。

そのジョブ・ディスクリプションをシンプルかつ具体的に書いていきます。内容に関しては今後時代や環境の変化で変更や修正が必要になるケースもあるでしょう。そのような事態に備えて柔軟性を保っていくのがベストです。

尚、ジョブ・ディスクリプションはあくまで採用手段の一つに過ぎないため、あまりにも運用負荷が大きくなる場合はジョブ・ディスクリプションを導入しなくても構いません。実際に導入しない企業も存在します。

職務の評価

ジョブ・ディスクリプションで職務を洗い出したら実際に評価を行っていきます。職務評価には直観法と要素比較法があります。

直観法はその名の通り、評価者の感覚を最優先して評価を行う手法。自分の感覚で評価を行っていくため、評価時間を大幅に削減できます。しかし、評価対象者への説明にやや苦労する場面も。抽象的な判断ゆえに評価対象者を困惑させてしまうかもしれません。

一方、要素比較法は各職務に対して点数付けを行っていく手法です。

例えば、5点満点とし「人材育成 5点」「営業成績の達成度 4点」「クレーム対応 4点」などと点数化していきます。レベルを明確に数字へと落とせば、評価対象者に対しての説得力が増すでしょう。その反面、評価に時間が掛かるデメリットもあります。

職務価値を等級に分ける

職務の評価が完了したら等級に分けていきましょう。

等級においてポイントとなるのが幅の持たせ方です。等級の幅にはナローバンドとブロードバンドがあります。

ナローバンドは等級の幅を狭く、より細かく設定する手法。レベル別に職責を分けやすいものの、降格になる人事異動はしづらいと言えます。

一方、ブロードバンドは等級の幅を広くし、等級をおおまかに分ける手法です。降格になる異動はしやすいですが、等級の明確な差がうまれにくいデメリットもあります。

どちらを選ぶかは自社の従業員数や職務内容によって決めていきましょう。

職務に応じた賃金を決定

等級に分けたら職務に応じて賃金を決定していきましょう。

例えば「営業職1級 40万円」「営業職2級 30万円」などのように決めます。とはいえこの例であると、営業職1級に上がらない限り給料は30万円のままです。

とくに大企業の場合は従業員が多いため、よほど頑張らない限り40万円に上がるのはむずかしいでしょう。そこで前述したナローバンドをうまく組み合わせるのもポイントです。

例えば、営業職1級の中でもABCに分け「営業職1級-A 40万円」「営業職1級-B 37万円」「営業職1級-C 33万円」などに分割するのも良いでしょう。

営業職の等級自体を大きく分けたわけではないため、ナローバンドのデメリットである「降格のしづらさ」も防げます。

このように、賃金を決める際は果たした役割を明確にするのがポイントです。

適切な頻度で見直す

ジョブ型人事制度を構築したら適切な頻度で見直していきましょう。なぜなら、時代や環境の変化によって求める内容が大きく変わるからです。

例えば、現在はDX推進が進められているものの、今後はAIの導入が抜本的に進められます。そうなれば、今後求められるのはAI技術に長けた人材やAIを駆使して創造できる人間です。

結果的にジョブ型人事制度の見直しも必要になってくるでしょう。制度の見直しは可能であれば1年に1回、最低でも2~3年に1度は行っていきたいところです。

また、メンテナンスする際は現場の声も確実に反映させていきましょう。実際に業務を行うのは現場であるため、最先端にいる人材の意見を取り入れることこそが成功の近道です。

ジョブ型人事制度導入で企業成長の可能性

ジョブ型は従来の制度と大きく異なる制度といえるでしょう。そのため導入前は注意深く計画を構築する必要があります。しかし導入が成功すれば企業として飛躍的に成長する可能性もあります。ジョブ型の導入を検討している企業は、メリット・デメリットをしっかりと踏まえたうえで決めていきましょう。