社員教育の目的や内容は？種類や成功のポイント、事例を解説
人手不足や働き方の多様化が進む中、社員教育は企業の成長に欠かせない取り組みとなっています。
社員一人ひとりのスキルや意識を高めることで、組織全体の生産性や競争力向上につながります。
本記事では、社員教育の目的や内容、代表的な研修の種類に加え、成功させるためのポイントや企業の事例を交えながら、分かりやすく解説します。
社員教育とは
社員教育とは、社員ひとりひとりの知識やスキル、意識を高め、組織全体の生産性や競争力向上を目的として計画的におこなう人材育成の取り組みです。
本項目では社員教育が注目される理由を解説します。
社員教育が注目される理由
社員教育が注目される背景には、深刻化する人手不足があり、帝国データバンクの調査では、企業の51.4％が正社員不足を感じており、4月としては過去最高水準となりました。
「2024年問題」から1年が経過した現在も、建設・物流業では約7割の企業が人手不足を抱えているというデータが示されています。
社員教育の主な5つの目的
本項目では社員教育をおこなう主な5つの目的を解説します。
スキルアップで生産性を高める
社員それぞれが所属する部署や担当業務によって、必要となるスキルや知識は異なります。
そのため社員教育では、職種や役割、成長段階に応じたスキルアップの機会を提供し、業務の成果を向上させることが重要な目的となります。
ビジョン共有で価値観を揃える
社員教育を通じて経営理念やビジョンを伝えることは、社員の企業理解を深め、組織への所属感を強めることにつながります。
会社が大切にする価値観が浸透することで、社員は組織の一員としての自覚を持つようになり、その結果、お客様や社会に対しても主体的な行動が取れるようになるでしょう。
トラブル予防で安全性を高める
近年のITデバイスの進化により、大容量のデータを手軽に持ち運べるようになりました。
利便性は大きく向上した一方で、企業の情報漏えいリスクも高まっています。
こうしたリスクへの理解を深め、対策を身につけるための教育をおこなうことで、情報漏えいや個人情報流出の防止につなげることも、社員教育の重要な目的のひとつです。
法令順守で企業の信頼を守る
コンプライアンス（法令遵守）は、企業が法律や社会的ルールを守って行動することを指しており、社会全体に広く浸透しています。
社員教育を通じて法令順守や情報管理に対する意識を高めることで、コンプライアンス違反や不正、トラブルのリスクを未然に防ぐことが可能です。
結果として、企業の信頼性やブランドイメージの向上にもつながります。
社員のモチベーションを高める
社員教育には、従業員が会社に対して愛着や信頼を持ち、長く働き続けたいと感じられる環境をつくるという重要な目的があります。
教育を通じて企業理念やビジョンを共有することで、社員一人ひとりが自身の役割や仕事への貢献を実感し、結果として組織への帰属意識やエンゲージメント向上にもつながります。
社員教育の代表的な研修・学習手法一覧
それでは社員教育はどのようにおこなえばいいのでしょうか。
本項目では社員教育の代表的な手法を解説します。
集合研修
集合研修とは、社員が一か所に集まり、セミナーやワークショップ形式でおこなわれる研修スタイルです。
同じ空間で意見を交わすことで、社員同士の交流が生まれ、人脈づくりやモチベーション向上につながりやすい点が特徴です。
近年ではコロナ禍をきっかけに、オンライン形式での集合研修も一般的になっています。
OJT
OJT（On the Job Training）とは、実際の業務を通じて知識やスキルを身につけていく教育手法です。
日々の業務の中で学んだ内容をその場で実践できるため、理解が深まりやすく、即戦力となる人材を育成しやすい点が特徴です。
また、特別な設備や高額なコストをかけず、柔軟に教育を進められる点も大きなメリットです。
OJTに関しては、下記記事もご参照ください。
eラーニング
eラーニングとは、インターネットを通じてスライドや動画などの教材を使い、社員が自分のペースで学習できる教育手法です。
従業員にとっては、時間や場所を選ばず受講できるため、学習の継続性を高めやすい点がメリットです。
企業側にとっても、人件費や会場費を抑えながら多くの社員に教育を行える点が大きなメリットとなります。
外部セミナー
外部セミナーとは、社外の専門機関や研修会社が主催する講座に参加し、知識やスキルを学ぶ教育手法です。
専門性の高い分野では、プロの講師から直接指導を受けることで、社員がより効率的かつ実践的にスキルを習得できるでしょう。
越境学習
越境学習とは、他社への出向や社外プロジェクト、ボランティア活動など、自社とは異なる環境で経験を積むことで、新たな視点や知見を得る学習手法です。
自身の視野を広げるだけでなく、自社の強みや課題などの在り方を客観的に見直す機会にもなり、転職せずに新しい挑戦ができる点も大きな魅力です。
通信教育
通信教育とは、外部の教育機関が提供するテキストや動画などの教材を使って、社員が自分のペースで学習を進める教育手法です。
資格取得支援など福利厚生の一環として導入されることも多く、社員の自主的なスキルアップを促し、満足度向上や離職防止にもつながると期待されています。
社員教育の主な分類とその内容
社員教育の中で代表的なものが研修です。
本項目では研修の主な分類とその内容について解説します。
階層別研修
社員教育を効果的におこなうためには、対象となる社員の階層に応じて、適切なタイミングで適切な内容プログラムを設計することが重要です。
ここでは、それぞれの階層に応じた研修について解説します。
内定者・新人・若手向け研修
内定者・新人・若手研修の主な目的は、ビジネスマナーや基本業務の習得です。
企画側と参加者の世代差を踏まえ、参加者の価値観に合った内容を考えることが重要となります。
中堅・リーダー向け研修
中堅・リーダー社員は企業の中心として、後輩指導や管理職のサポート、組織への貢献が求められる存在です。
そのようなスキルを伸ばすためにも、コーチングや組織運営に関する研修を実施するとよいでしょう。
管理職・幹部向け研修
経営幹部は変化の激しい環境で的確な意思決定をおこなうため、会社のビジョンを示す力や人を動かす力など、多様なスキルが求められます。
これらのスキルは短期間で身につくものではないため、中長期的な取り組みが必要です。
目的別研修
階層別だけでなく、目的別の研修を実施することで、社員のニーズや役割に合わせた学習が可能となり、より実践的で成果の高い教育が期待できます。
ここでは代表的な例を解説します。
マネジメント研修
マネジメント研修とは、管理職やリーダー層向けに実施される研修です。
チームと組織を動かすための目標管理やリーダーシップのスキル、部下の評価・育成など、総合的な管理運営スキルを学ぶことを目的としています。
ビジネススキル研修
企業が持続的に成長するには、社員一人ひとりのビジネススキルを向上させることが不可欠です。
ビジネススキル研修では、課題発見・解決、ロジカルシンキング、コミュニケーションなどのテーマに合わせてさまざまなスキルを向上させることができます。
DX・ITスキル研修
近年、デジタル化が進展する中では、全社員が一定のITリテラシーを身につけることが非常に重要です。
DX・ITリテラシー研修では、クラウドの基礎知識やセキュリティ意識の向上、データの活用方法に加え、AIやDXの基本的な概念を習得することができます。
DXに関しては、下記記事もご参照ください。
コンプライアンス・ハラスメント研修
コンプライアンス・ハラスメント研修は、社員が安全で快適に働ける職場を守るために重要な取り組みです。
法律遵守の意識や、パワハラやセクハラといったハラスメントの具体的なケース、そしてそれらを防ぐための具体的な対処法を学ぶことを目的としています。
キャリア支援・自律型人材育成研修
キャリア支援・自律型人材育成研修は、社員が自己分析やキャリアプランニングを通じて自身の強みや価値観を理解し、主体的にキャリアを設計する力を育むことを目的としています。
また、その中でもDX人材育成研修では、デジタル知識だけでなく、コミュニケーション力や柔軟な思考力などの総合的なスキルを養い、自社に合った方法でDXを推進できる人材の育成を支援します。
社員教育計画の立て方と進め方
効果的に社員教育を進めるためにも、綿密に計画を立てることが重要です。
本項目では社員教育計画のための5つのステップを解説します。
1.組織課題と教育ニーズの整理
社員教育を進める第一歩は、組織の現状を正しく把握し、教育によって解決すべき課題を明確にすることです。
教育の目的をはっきりさせるためには、人事・経営・現場といった各部門の視点から課題やニーズを洗い出し、組織全体として何を強化すべきかを整理することが重要です。
2.育成目標と評価指標の設定
解決すべき課題をもとに、具体的な教育目標を定めることも重要です。
これにより、いつ、どのような内容の研修を実施すべきかが見えてきます。
課題によっては一度の研修だけで解決できない場合もあるため、教育の範囲や達成すべき成果を具体的に決めて計画を立てることが重要です。
3.研修の実施計画
設定した教育目標を達成するために、具体的な研修の実施スケジュールを組み立てましょう。
教育のタイミングには、定期的におこなう研修のほか、新入社員の入社時や昇格・配属などの人事異動時、資格取得のための教育など、社内のさまざまなイベントと連動させる方法があるため、目的に応じた計画を立てることが重要です。
4.教育施策の選定
教育の方法は大きく分けて、実際の業務を通じて学ぶOJTと、業務から離れておこなうOFF-JTがあります。
OFF-JTには、対面でおこなう集合研修や、場所や時間を選ばず学べるeラーニングなどがあり、それぞれにメリット・デメリットがあるため、教育の目的に合わせて適切な施策を選定することが重要です。
5.アフターフォロー計画の策定
社員教育は実施して終わりではなく、その後のフォローが成果を左右します。
研修後には、学んだ内容が日々の業務でどのように活用されているか、スキルの向上に結びついているかを参加者に確認することが大切です。
社員教育を実施する際のポイント
本項目では社員教育を実施する際に気を付けるべきポイントを解説します。
時代や環境の変化を反映させる
社員教育は時代の変化に合わせて見直さないと効果が薄れてしまいます。
時代によって、求められるスキルや、教育を受ける社員の特性は変わるため、毎年同じ内容を繰り返すのではなく、最新のトレンドを踏まえて教育内容を改善することが大切です。
ブレンディッド・ラーニングを活用する
ブレンディッド・ラーニングとは、対面・オンラインなどの様々な学習方法を組み合わせて、学習効果を最大化する手法です。
社員はさまざまな学び方を通じて知識やスキルを深められ、柔軟かつ効率的に成長を促すことができるため、ぜひ活用しましょう。
効果的なフォローアップをおこなう
社員教育は実施するだけでは効果が最大に発揮されません。
教育後は繰り返しの確認やサポートをおこない、知識をしっかりと身につける仕組みを作ることで社員教育の効果をより高めることができるため、社員教育実施の際には留意が必要です。
必要に応じて外部リソースを活用する
自社の人事担当者の状況に応じて、社員教育を外部に任せることを検討するのも有効です。
外部委託を利用すれば、社内では不足しがちな専門知識や技術を持つ研修が受けられ、教育の質を高められます。
社員教育の成功事例
本項目では、実際に社員教育を実施し、成功した事例を紹介します。
株式会社LIFULL
株式会社LIFULLは、「失敗を恐れずに挑戦しやすい風土づくり」を社内に根付かせることで、従業員の仕事への意欲向上に成功しています。
社員一人ひとりの挑戦を後押しするため、人事施策を実践して、新しい取り組みに挑戦する機会や、必要な成長を支援する制度、環境づくりをおこなっています。
LINEヤフー株式会社
LINEヤフー株式会社では、社員が個々の能力を最大限に発揮し、自律・主体的に成長できる環境づくりを人材開発の方針としています。
この目標を支える人材育成施策のひとつとして、社員と上司が定期的に対話する「1on1ミーティング」を導入し、業務の振り返りやキャリアの相談をおこなっています。
これにより、社員の成長とプロダクト双方の持続的な成長を実現しています。
株式会社ニトリホールディングス
株式会社ニトリホールディングスでは、人材育成の取り組みの一環として社内に「ニトリ大学」を設立しています。
従業員は年2回、自身のキャリアアッププランを作成する機会が設けられており、将来の目標を見据えながら現在の課題や不足しているスキルを整理します。
こうした仕組みにより、主体的なキャリア形成と組織力の向上を実現しています。
社員教育のポイントを押さえ自社に生かそう
社員教育は、人手不足が深刻化する中で、企業の持続的成長を支える重要な取り組みです。
目的や課題を明確にしたうえで、自社に合った研修手法や教育計画を設計することが成果につながります。
本項目で解説した成功のポイントや成功事例をもとに、社員の成長と組織力向上を両立させる社員教育を実践していきましょう。
