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人事異動の成功に必要なポイントは?手続きや抑えておくべきことを紹介

人事異動の成功に必要なポイント

なぜ多くの企業は「人事異動」を行うのでしょうか?

一つの業務を続けた方が、プロフェッショナルとして活躍できるのではないか、と疑問に思った経験がある人がいるかもしれません。

人事異動を行うメリットは数多く、優秀な人材を上手に扱えば流出防止にもつながります。しかし、やり方によってはデメリットが強く表面化しやすいため、人事異動のポイントを押さえて成功に導きましょう。

今回は、人事異動を成功させるための重要なポイントや人事労務担当者が行うべき事務手続き、実施のメリットなどを解説します。

人事異動はなぜ必要?その目的とは

一般的には3つの目的があります。

適切な人材配置のため

人材の適材適所を実現するために、人事異動は簡便でスピーディな方法です。

従業員が入職した当初は、過去の経歴やスキル、面接での印象からしか適性を判断できません。そのため、最初から適材適所が実現できる可能性は低いといえます。

また、企業によっては「まず営業職」「まずは現場仕事」というように、企業文化を知るために最初の配属が決まっているケースがあります。

入職後の従業員の働きぶりから適性の見極めをしたり、本人にキャリアについてヒアリングをしたりして、従業員が個性を発揮できる場所を探しましょう。そこに配属することで、適切な人材配置が実現します。

人材育成のため

一つの部署で長年経験を積むと、その道のプロとして成長できます。しかしその状態は、「それしかできない」と評価されかねません。

昨今はプロフェッショナル人材の需要が高まっていますが、オールマイティーに活躍できる人材の需要もまだまだ高い状況にあります。だからこそ、企業にはさまざまな経験とスキルを持った人材が必要なのです。

人事異動を行うと、従業員は新しい環境と業務内容を経験できます。その結果、それまで気づいていなかった適性や性質が見つかるかもしれません。スキルアップだけでなく能力開発にもつながるのは大きな特徴です。

事業戦略のため

企業の存続と成長のためには、現状維持をせずに新しいチャレンジを続ける必要があるでしょう。新規事業の立ち上げやプロジェクトの立案時には、その事業の立ち上げメンバーを選定しなければなりません。

スタートする事業の内容や期間などを考慮して、事業を軌道に乗せられる人材を選び、人事異動を実施しましょう。

新規事業の準備だけでなく、業績による事業撤退時などにも人事異動を行います。さまざまな事業戦略の実現を目指す際は、人事異動が必ず必要になるといえます。

人事異動のメリットとデメリット

メリット・デメリットを解説します。

人事異動のメリット

メリットは数多くあり、適切な人事異動を実施すれば、企業と従業員双方に大きな成長がもたらされます。

ここでは、4つのメリットを紹介します。

  • 適材適所が実現できる

企業が成長するほど、部署や業務内容が細分化されます。それぞれの業務分野で求められるスキルやレベル、性質は異なるため、業務をスムーズにこなせる人材を配置することが生産性アップの鍵となります。

例えば、デスクワークで集中力が保ちにくい人に事務職を任せると、ついだらだらと仕事をしてしまう可能性があります。逆に、外回りの営業職を任せると本来の能力を発揮して、予想外の成果を生むかもしれません。

企業は本人の適性だけでなく、性格や仕事への向き合い方、本人の希望などから総合的に判断して配置を検討する必要があるのです。

  • 属人化防止につながる

特定の従業員しか進められない業務はないでしょうか。普段の担当者が急病などで突然休職したら、途端に業務がストップしてしまうといった状況は、業務の属人化に陥っているといえます。

人事異動は、従業員に多くの経験をさせて担当できる業務の種類を増やせる方法です。そのため、業務経験のある従業員が増え、業務属人化しにくい状況が起きにくくなります。

従業員にとっても、業務負荷や精神的負担が過度にかからないのは大きなメリットです。何かあれば周囲に仕事を頼める安心感を得られます。

  • 社内活性化につながる

人事異動を行うと、社内の空気を入れ替えて新しい人間関係構築の機会をつくることになります。部署内やチーム内のメンバーが変わると、新しい視点や考え方に触れながら議論できるようになるでしょう。

さらに、部署間のつながりやコミュニケーションが生まれやすくなります。部署だけで完結する閉鎖的なコミュニケーションではなくなるので、社内全体が活発化します。

  • 従業員のやる気アップ

適性のある部署や業務を任せると、従業員本人がやる気を持って仕事に取り組めるようになります。適性のない業務では思うように成果が上がらず、仕事を楽しめなくなってしまいますが、適材適所が実現されれば状況が一転するケースは多いものです。

やる気を上げるには、従業員の適性やスキルだけに着目した人事異動を行わないことがポイントです。本人が「やりたい」と希望している業務を任せれば、よりモチベーション高く仕事に向き合ってくれるでしょう。

人事異動のデメリット

適切に実施しなければ、デメリットが表面化しやすくなります。従業員が不満を蓄積したり、優秀な人材の離職を招いたりする可能性があるため、運用は慎重に行いましょう。

人事異動のデメリットを3つ解説します。

  • 一時的な効率ダウンのおそれがある

人事異動によって経験のない部署に異動すると、誰しも最初は不慣れなので業務に遅れが生じるものです。異動した従業員だけでなく、指導にあたる従業員の時間も消費する必要があるため、人事異動後は想定以上に業務効率が悪化するおそれがあるでしょう。

業務の遅れ以外にも、ミスの発生率が高まります。そのため部署の生産性に大きな影響を与える可能性がある点に注意が必要です。マニュアルを整備したり、チェック体制を整えるなどして対策しましょう。

  • 従業員満足度が低下するおそれがある

企業に雇用されている場合、たとえ納得できない人事異動であっても会社の指示に従う必要があります。企業はある程度自由に人材配置を決められますが、従業員の気持ちに配慮しなければ企業への不満が蓄積してしまいます。

人事異動に納得できない従業員は、異動後の仕事に対してやる気を持つことができません。積極的に取り組めないまま離職をする可能性もあります。そうなっては、指導した従業員の時間と労力が無駄になるため、会社自体への不信感が高まってしまいます。

  • 人材の離職リスクが高まる

人材不足を課題に抱える企業が多い昨今、優秀な人材はできるだけ自社で確保しておきたいのが企業の本音です。

多くの企業では自社人材が社内でさらに活躍できるように、さまざまな部署を経験させたいと考えるかもしれません。

特に優秀な人材は高いポテンシャルを持っているため、どのような仕事でも活躍できる可能性が高いといえます。一方、高いポテンシャルは他社にも必要とされるため転職を選びやすいのが実情でしょう。

本人の望まない人事異動や、同じ業務しかさせないといった状況は、従業員の不満の種になります。不満が募った結果、人材の離職が起こりやすくなるため注意しましょう。

優秀な人材に関する人事異動についての詳細は「人事異動は優秀な社員だけが対象?実態と配置転換を成功させるポイントを解説」でも紹介しています。

人事異動のパターン

人事異動は3パターンに大別されます。

人事主導型

「中央集積型」とも呼ばれるパターンです。特徴は、人事部が全体の管理を行って異動先の選定なども担う点です。

企業の事業展開や経営理念などを実現するには、判断に一貫性を持たせる必要があるでしょう。そういった意味で、人事部が配置決めを行うのは理にかなっているといえます。

ただし、現場の生の声が反映されにくくて従業員満足度が低下するリスクが高いのが懸念点です。大企業で実施されやすいパターンですが、従業員一人ひとりの希望や能力、適性の見極めが欠かせません。

現場主導型

人事異動の影響を大きく受けるのは、実際に現場に立つ従業員である場合が多いでしょう。本社や人事部からは判別できない悩みや不足している人材は、人事部よりも店舗や工場、支店などの現場の方が明確に認識しています。

そのため、実際に現場で働く人の声をヒアリングした上で人員配置を決めるのが現場主導型です。

現場の声が反映されやすいのがメリットですが、企業の経営理念と大きくズレないように人事部による介入も必要です。

玉突き異動型

「玉突き人事」とも呼ばれます。穴が空いたポジションを埋めるように人員を補充する異動パターンです。官公庁や銀行が多く実施しており、一般的な企業ではあまり見られません。

穴が空いたポジションを埋める性質から、現場の声を反映するケースより人事が主導するケースが多いでしょう。

計画的であれば長期的な事業展開を見据えた人材育成に取り組めます。

ただ、従業員の不祥事などを理由にした突発的な玉突き異動型はネガティブな印象が強く、従業員のモチベーションが下がりやすいので注意が必要です。

人事異動を成功させるポイント

重要なポイントは3つです。

社員の情報を把握する

従業員が人事異動の内容に納得ができなければ、離職を決意してしまうかもしれません。昨今は個人が好きな働き方を選択できる時代であり、転職するのは当たり前になってきました。

企業が優秀な人材の流出を防ぐためには、従業員個人の希望や適性に合った人員配置の実現が重要です。そのために欠かせないのが、従業員の情報をあらかじめ把握しておくことでしょう。

必要な情報の例は、

  • 入社時のキャリア志向
  • 過去の経験
  • 保有スキル
  • 所有資格
  • 異動を希望するか
  • 異動先(エリア、支店、業務内容等)の希望
  • 過去の人事評価結果

などです。

本人の希望をヒアリングする際は、従業員が自由に発言できる雰囲気づくりに尽力しましょう。管理職のコーチング能力を高めておくのも重要です。

さまざまな情報を日頃から収集しておき、整理しておきましょう。

人事異動のルールを明確にする

人員配置の納得感を高めるためには、企業が一貫した対応をする他、はっきりとルールを定めておくべきです。

例えば、就業規則に人事異動が拒否できない旨を記載する、入社時にルール説明を行う、人事評価制度を詳しく伝えておくといった対応を徹底しましょう。

一般的に企業に雇用される従業員は、企業の指示に従う必要があります。異動命令も同じく拒否できるものではありませんが、頭ごなしに「拒否は許されない」と伝えるのは従業員満足度を下げる要因になります。

人事異動のルールは必要ですが、従業員の気持ちを無視しないような仕組みづくりや配慮を忘れないようにしましょう。

本人に理由をしっかり伝える

人事異動で失敗しないために重要なのが、従業員本人へ異動理由を伝えることです。

人事部としては将来のキャリアを鑑みての異動だとしても、従業員からすると「能力不足だったから」「期待に応えられなかった」とネガティブな印象を受けるケースがあります。これでは、異動後の仕事に打ち込めずモチベーションが低いまま離職を選びかねません。

人員配置が納得できる結果となるように、異動理由をはっきりと伝えておきましょう。誤解を招くリスクが下がり、やる気を持って新しい業務にも取り組めるはずです。

人事異動情報の内示とは

人事異動から切っても切り離せないものが「内示」です。具体的に何を指すのか、どのような役割を持つのでしょうか。

人事異動情報の内示を詳しくお伝えします。しっかりと内容を把握しておいて、適切に運用できるように意識すると良いでしょう。

内示とは

「内々にしめすこと」を意味する言葉です。公式に周知するのではなく、対象の人物のみに必要な情報を共有するため、本人以外の人には知らされません。

伝える内容は、

  • 人事異動
  • 昇格
  • 降格

などさまざまです。

重要なのは、これが「最終決定」ではないことです。社内で手続きをしてようやく正式決定となります。

内示の役割は、

  • 該当者の意思確認
  • 該当者の気持ちの準備
  • 転勤等に伴う準備期間

などです。

内示を伝える時のポイント

内示は、従業員にとって初めて異動先を知るタイミングです。従業員が混乱したり、不満を募らせたりしないような配慮を心がけましょう。

大切なポイントは3つです。

  • 内示と辞令を区別する

内示は該当者にだけ伝えられる内容で、秘密裏に実施されるのが通例です。

内示を受けた従業員が承諾してから正式決定し、「辞令」が出されます。「内示」と「辞令」は混同しやすい言葉なので注意しましょう。

  • 一方的な説明をしない

異動命令は原則拒否できるものではありませんが、企業側から一方的に異動を命じないような配慮が必要です。

異動後の不安を軽減できるように、業務内容や異動の理由を明確に伝えましょう。従業員が納得して異動を受け入れられるように配慮すれば、企業への不満がたまりにくく離職防止が期待できます。

  • フォローを実施する

異動後の従業員は、環境や業務内容の変化による不安が大きくなっています。ストレスが過多になると離職や休職を招くため、予防策としてできる限りのフォローを実施しましょう。

例えば、異動前の上司と面談する機会を設けると、関係性ができているので悩みを話しやすいといえます。面談を行うと、従業員のモチベーションの上下が確認しやすくなります。

人事異動があった時の公的変更手続き

3種類の手続きが必要です。

住民税の変更

都道府県や市区町村に支払う住民税は、個人に代わって企業が支払う「特別徴収」を行います。そのため、転勤を伴う人事異動により従業員の居住地が変わる場合の扱いを知っておきましょう。

転勤で納税先が変わるときは、「給与所得者異動届出書」を作成して提出しなければなりません。届け出るのを忘れると、税金の滞納として処罰の対象になる可能性があります。

社会保険の変更

社会保険は、5種類あります。そのうち企業と従業員が折半して支払いを行う保険料は3種類です。

その3種類とは、

  • 健康保険
  • 厚生年金
  • 介護保険

です。

人事異動に伴う事務手続きは、必要な場合と必要ない場合があります。仮に転勤で所属事業所が変わるときは、変更手続きが必要です。

ただし、転勤先に事務担当者が不在で本社で一括加入しているときは手続き不要となります。

労働保険の変更

社会保険のうちの労働保険には、

  • 労災保険
  • 雇用保険

が含まれます。

労働保険は事業所単位で申請します。そのため本社で一括加入したり、特別な申請をして「事業所非該当承認」を受けていない限りは、事業所が変わる度に申請が必要です。

変更する際は「雇用保険被保険者転勤届」を、管轄の職業安定所へ提出しましょう。人事異動をした翌日を起算日として、10日以内の提出が求められます。

適正に人事異動を行いましょう

人事異動は企業では当たり前に行われていますが、成功させるためにはさまざまなポイントを押さえなければなりません。適切な人員配置を実現するためには、企業の事業展開や将来像だけでなく、従業員個人の希望や適性も考慮する必要があります。

適切な人事異動は、企業にも従業員にも多くのメリットをもたらします。メリットを最大限に享受するためにも、実施の際は目的意識を持って取り組みましょう。