コラム

人事関連でお役に立つ情報を掲載しています。ぜひご活用ください。

  1. トップ
  2. コラム
  3. 製造業
  4. 製造業の人事考課表は作成困難!? 詳しい書き方と人事評価をする際の注意点

製造業の人事考課表は作成困難!? 詳しい書き方と人事評価をする際の注意点

従業員のやる気や能力を引き出し、会社の生産性にも大きな影響を与える人事考課表。その導入効果を最大限活用するためには、具体的な書き方やポイントを押さえなければなりません。

特に製造業では、人事考課表の作成が難しいと感じる人事担当者が少なくありません。今回は、書き方の例や書く際の注意点、製造業において人事評価が難しい理由を解説します。

人事考課表とは?

人事考課表とは、従業員の個人評価シートです。人事考課制度では、従業員1人ひとりの仕事の成果や能力、仕事に対するやる気や態度などを会社ごとの基準に沿って評価を行います。

人事考課表をもとに従業員それぞれの賞与額やキャリアプランなどが検討されるため、従業員の人生を左右する重要な表です。

【管理職】より良い人事考課表の書き方や注意点とは?

ポイントは4つです。

できるだけ本人にとって将来プラスになる表現で評価をする

評価の結果、従業員の降格や減給につながるような表現は避けましょう。個人のキャリアにとって、プラスに作用する表現を心がけることが重要です。

感情的であまりに低評価では、従業員本人のその後のキャリアに大きな影響を与えかねません。評価は慎重に行いましょう。

成果については数字等で具体的に記載する

成果を評価する際は、管理職個人の主観を入れず、数字を盛り込んでできるだけ具体的に成果を記載すると良いでしょう。製造業では成果が数字に表れやすいため、日頃から従業員1人ひとりの成果や進捗をしっかりと管理しておくことをおすすめします。

できるだけシンプルかつ短文で書き、抽象的な言葉は避ける

意図が伝わりにくい長文や抽象的な言葉の使用はおすすめできません。なぜなら、抽象的な言葉などは読み手の解釈によって意味が異なる場合があるからです。評価があいまいになり、正確性や客観性が失われてしまうので注意しましょう。

本人が会社を辞めるまで一生残るという認識を持って記載する

管理職は多忙なので、深く考えずに人事考課表に記載することがあるかもしれません。しかし、従業員の人生に関わる内容である上、本人のキャリアプランを検討する際にはその時の人事考課表が常に参考にされます。熟考の上、「一生残る」という意識を持つことが大切です。

【評価される部下】より良い人事考課表の書き方や注意点とは?

ポイントは7つです。

客観的に評価する

部下はより良い評価を得ようと、ついつい高い自己評価を付けがちです。しかし、その根拠が明確で、第三者からみても納得感がなければ望むようなキャリアアップにはつながりません。客観的な内容を心がけましょう。

数字を用いるなど具体的に記載する

評価は「成功した」ではなく、「効率化に取り組んで生産性が5%上昇した」などと書きましょう。

自己評価は具体的であるほど説得力を持ちます。そのため、達成率や成約率などの数字を使って成果を表現するのがおすすめです。

定量化できないものは達成条件を立てる

製造業などの業務の中には、数値に表しにくく定量化できない成果があるでしょう。この場合は、達成条件を自ら設定すると良いでしょう。わかりやすいゴールがあれば、どの程度ゴールに近づいたか、具体的にどんな行動をしたかを記載しやすくなります。

失敗や課題、改善点も記載する

人事考課表が従業員のキャリアに影響するため、成功体験や成果ばかり記載する人が少なくありません。しかし、失敗経験や自身の課題も記載すると効果的です。

失敗を経て得た学びや改善案を含めることで、仕事に対する前向きな姿勢などが評価される可能性があるのです。

自己評価は一段階高く行い、前向きに書く

自己評価する際は、個人が感じるよりも1段階高い評価を付けるよう意識すると効果的です。

上長は従業員個人の記載内容を確認してから他己評価をつけるため、低すぎる自己評価は上長からの評価結果を低めにしてしまうおそれがあります。

自分が達成できた人事考課目標は徹底してアピール

人事考課表は従業員のキャリアビジョンを左右する重要な書類です。そのため、自身のアピールポイントは積極的に記載することをおすすめします。上長が評価を記載する際の参考にもなるでしょう。

断定口調を基本とする

断定口調は事実をわかりやすくするだけでなく、記載者の自信を感じさせるため上長へのアピールに効果的です。

さらに、結論から端的に述べることで過不足なく意図が伝えられるでしょう。

製造業における人事考課の書き方の例文

具体的な文例を紹介します。

管理職が書く場合

従業員のキャリアに影響を与えるものであるという意識を持ち、客観的かつ具体的な記載を心がけましょう。例えば、「製造工程におけるボトルネックを見つけ改善案を提案した。その結果、1日の生産数が3%アップした」などです。

定量化できない物事については、事前に立てていた達成目標に対する評価を行いましょう。例えば、「目標としていた資格の取得に向けて日々勉学に励んでいた。先輩社員に積極的に聞きに行く姿が見られ、資格取得後は将来の管理職として期待したい。」などの書き方があります。

一般社員(新入社員)が書く場合

自己評価は1段階高めに、できるだけ数字を用いて具体的に記載しましょう。例えば、「独自の工程工夫により1時間あたりの個人生産率が10%向上した。結果的に残業時間が前月までに比べ3時間削減できた。」などが良いでしょう。

また、良いことばかりではなく失敗から学んだことについても言及すると、成長意欲や前向きさをアピールできます。

中小企業における人事評価制度の現状

現状は2つの課題があります。

導入率が低い

新しい人事制度やシステムを導入する場合、どうしても時間や資金が必要になるものです。資金不足や人材不足が課題となりやすい中小企業にとって、人事評価制度を導入するのはハードルが高いとされているのが現状です。

2016年の論文に掲載された研究結果によると、1000人以上の従業員を雇用する企業では100%近くの企業が人事評価制度を導入していることが発表されました。その一方で、従業員数が100人に満たない中小企業では、人事評価制度を導入していない企業が6割にものぼります。

しっかりと運用されていない

2016年に発表された論文では、たとえ人事評価制度を導入している中小企業であっても、その評価制度がしっかりと運用されていないことが明らかにされています。

従業員からは、「評価結果に納得できない」「評価結果が自分の成長の糧にならない」などの声があがったのです。

企業はただ人事評価制度を導入するのではなく、公正な評価方法を確立することや評価を通して従業員の能力開発を実施することが求められています。

中小企業に人事評価制度が必要な理由

理由は4つです。

社員のモチベーションアップ、能力を引き出すため

従業員個人の能力を最大限発揮させ、生産性を高めることは、中小企業にとって大きな課題です。

従業員の能力を発揮させるためには、適材適所な人材配置はもちろん、従業員1人ひとりが高いモチベーションを維持することが重要です。モチベーションアップのために、人事評価制度を通して「しっかりと自分を見てくれている」と感じさせるように努めましょう。

昇進や昇給を適切に行うため

人事評価制度がなければ、昇進や昇給は上司のさじ加減で決まってしまう場合が多くありますが、人事評価制度の導入は客観的で正当な能力評価を可能にします。

客観的な評価は納得感があるため従業員からの不満も出にくく、能力のある人が適切なポジションに異動できるため生産性アップと企業の成長が期待できるでしょう。

定着率を上げ、離職率を抑えるため

新卒採用でも中途採用でも、新しい人材を採用する際はコストがかかります。特に製造業は機械の扱いや自社製品独自の特性を学習するため、採用後の教育にもコストを要するでしょう。

人事評価制度は、従業員のモチベーションアップにつながり離職率低下を実現できる場合があります。人材不足に陥らないためにも、従業員の離職を防ぎ定着率を上げることが重要です。

会社の方向性を示すため

人事評価制度を導入するということは、明確な評価基準を社内に周知するということです。これにより、会社がどんな人材を求めていて、どんなスキルが必要なのかといった会社の方向性を共有できるようになります。

会社の方向性に沿って従業員それぞれが能力を伸ばすことで、安定した組織風土の形成やビジョンに沿った成長戦略を実現しやすくなるでしょう。

中小企業が人事評価制度を導入する基準とは

4つの基準があります。

従業員が50名以上いる

従業員数が増えるほど、経営陣が従業員1人ひとりの頑張りや能力を把握しにくくなります。「見られている」という意識を持たせるためにも、50人以上の従業員を雇用するようになった頃を目安にしましょう。

働き方改革を行いたい

働き方改革では仕事とプライベートとのバランスが重視されるため、残業時間の削減や仕事の効率化に取り組むことが求められます。人事評価制度の導入は、適切な人材配置を行う指標となる上、生産性の高い人材を見抜く際に役立ちます。働き方改革を行いたい場合には人事評価制度の導入が効果的でしょう。

若手の採用に力を入れたい

若手の採用を検討している場合にも人事評価制度の導入がおすすめです。評価基準を策定するにあたって、企業はビジョンや求める人材像を見直すことになります。そのため、採用活動時にはその基準や企業風土に合った若手を採用しやすくなるのです。

社員の行動・考え方を変えたい

人事評価制度がなければ、評価内容に上司の主観が入っていても問題視されにくく、従業員にとっては仕事に対する意欲がわきにくい状況が生まれます。社員がより前向きに仕事に取り組むために、適切な人事評価制度を導入して社員に求める行動や考え方を周知しましょう。

人事評価制度を作る際のポイント

ポイントは2つあります。

目的の明確化

人事評価制度がなぜ必要なのか、導入の目的を明確化しましょう。制度の導入によって会社がどのように変化することをゴールとしているのかを意識しながら人事評価制度を作ることが大切です。

一般的には人事評価制度を作る目的は、大まかに「処遇の決定」と「人材育成」に分けられます。

「処遇の決定」とは、従業員の給与や賞与額、昇給額や昇進の有無などを決定付けることを目的に、一定の評価基準を作成するものです。

「人材育成」を目的とする場合、従業員が成長を実感できるように達成目標を立てたり、取得してほしい資格やスキルを周知したりしておくと良いでしょう。目標と評価を繰り返すことで、従業員の能力開発が期待できます。

評価項目の決定

人事評価制度を作成する上で、評価項目の決定は重要です。評価項目が明確で具体的であるほど、評価者による評価基準のブレが少なくなります。

評価基準が一定であれば、従業員は納得感を得られ、より高い評価を得ようとモチベーションを高められるでしょう。

人事考課表の作成のポイント

3つのポイントを紹介します。

3つの評価要素を入れる(成果基準、能力基準、情意基準)

人事考課表の作成にあたっては、3つの評価基準を網羅して含めるようにしましょう。3つの評価要素は、「成果基準」「能力基準」「情意基準」です。

  • 成果基準

「成果」は数値化しやすい指標が多く、仕事の結果を評価する項目です。例えば、目標に対する達成率や、製造個数などが評価の指標になります。

  • 能力基準

「能力」とは、従業員個人の持つ能力をどれほど発揮できたかを評価する基準です。例えば、提案力や実行力、問題解決力などが指標となるでしょう。

  • 情意基準

「情意」は勤務態度や仕事へのやる気など、数値化しにくいものの人材評価にあたっては重要な要素が評価指標です。積極性や協調性など、企業が求める人材像に合わせて、具体的な項目を作成すると良いでしょう。

導入事例の多い目標管理制度(MBO)を活用する

ゼロから人事考課表を作成するのは手間や時間が膨大になってしまうため、成功事例を参考に人事考課表を作成しましょう。おすすめは導入している企業の多い「目標管理制度(MBO)」です。

これは、人材マネジメントの仕組みとしてピーター・ドラッカーにより提唱されました。

具体的には、最初に立てた目標に対して一定期間を置いてから達成度を評価し、フィードバックを行う仕組みです。

自社に特化した情意評価を行う

情意評価は仕事へのやる気などを評価する指標ですが、経営理念やビジョンによって評価基準は大きく変わってきます。会社の雰囲気を反映しやすい情意評価では、「らしさ」を表しやすくなるので熟考して作成しましょう。

自社が重視する素養を周知していれば、従業員の目指すべき人材像が明確になり、会社風土も養われるでしょう。

賃金制度との紐付け

紐付け時には2つの基準を持つと良いでしょう。

成果評価して賞与に反映させる

仕事においては、より大きい成果を生み出した人により高い評価を与えたくなるものです。しかし、タイミングによってうまく成果に表れない場合もあるため、成果だけに着目して評価を決定しないようにしましょう。

評価に値するような大きな成果に対しては、賞与額に反映させると納得感もあり従業員のモチベーション維持にも役立ちます。

成果と情意から昇給昇格を判断する

昇給や昇格は成果だけでなく情意基準も参考にして決定しましょう。どれだけ大きな成果があっても勤務態度に問題があっては高い評価は得にくくなります。

評価をする際は局所的な見方をするのではなく、総合的に評価できるような評価基準の作成が重要です。

製造業の人事評価が難しい理由

理由は3つあります。

評価表がない

製造業は大手ではない限り、社長が一代で築いた会社や、昼夜問わず働いて生き抜いてきた零細企業などが多くあります。そのため、適切な人事評価制度が確立されておらず、評価表がない企業が少なくありません。

しかし、評価表がなければ昇進や昇給の決定権は社長など経営陣が持っているため、キャリアアップしたい従業員にとっては社長に気に入られることが重要になってしまいます。しっかりと評価基準を定めた上で評価表を作成しましょう。

業務定義書がない

業務定義書とは、それぞれの業務の内容を文章で定義してまとめた書類です。社内にいくつかある部署ごとの担当業務や、個人レベルで担当するような細かな業務内容まで定義することで、仕事の範囲や何を目的に仕事をするべきかが分かります。

製造業では業務定義書が作成されておらず、口頭での説明だけで業務の引き継ぎをしている場合があります。しかし、業務定義書がなければ、従業員は自分の仕事に求められる成果が何か判別できず、高い人事評価を得ようという意欲があっても行動に移せないのです。

キャリアパスがない

従業員にとって、「会社で働いている意義」は仕事を続けるモチベーションとなるため軽視しないように注意しましょう。特に、将来のキャリアビジョンが見えないまま仕事をしているとやる気は失われやすくなります。

自社のキャリアパスを明確にして、どんな人材をどのポジションに配置するのかを考慮すると良いでしょう。

製造業の人事評価における失敗例

2つの例を紹介します。

評価表の項目に納得感が持てない

評価表に含めるべき項目は、会社の特色や目指す将来像、経営理念などによって異なります。そのため、一般的な評価項目を流用しただけでは納得感が得にくいといえるでしょう。

納得感を高めるためには、評価項目を作成する前に自社の理念やビジョンと向き合って本当に必要な項目を厳選する必要があります。

業務定義書やキャリアパスがない中で評価表に基づいて評価してしまう

失敗しやすい例として、評価表だけに依存した人事評価を実施するパターンがあります。作成が簡単な評価表に頼り切らず、業務定義書の作成やキャリアパスの明確化を行いましょう。

業務内容や将来像などを社内の共通認識として持てば、評価者ごとの認識の違いや主観的な評価を防ぐことができます。

ポイントを押さえ、自社に合った人事考課表の作成を

製造業では人事考課表の作成が難しいとされており、せっかく導入した人事評価制度が失敗に終わる例が少なくありません。

人事評価制度の導入時には、自社らしさを追求し、人事考課表や評価項目を作り込むことが大切です。人事考課表の書き方に注意しながら効果的に活用し、自社の発展につなげていきましょう。