コラム

人事関連でお役に立つ情報を掲載しています。ぜひご活用ください。

  1. トップ
  2. コラム
  3. 製造業
  4. 多能工化(マルチスキル化)とは?導入のメリットとデメリットや具体的な導入の進め方を解説!

多能工化(マルチスキル化)とは?導入のメリットとデメリットや具体的な導入の進め方を解説!

労働人口の減少などから、人材不足に苦しむ企業は少なくありません。限られた人材が持つ能力を最大限発揮させるために、「多能工化」に取り組む企業が増えています。

多能工化は生産性向上や人材不足の解消、就業環境の改善につながる取り組みです。今回は、具体的な導入事例や導入のメリットとデメリット、具体的な導入方法を解説します。

多能工化(マルチスキル化)とは

「多能工化」とは、従業員の1人が社内の業務を複数受け持つことができるようにすることです。例えば、営業担当者が営業活動だけでなく、事務業務も行うといった場合です。一般的に知られている言葉では「マルチタスク」と言い換えも可能です。

もともと「多能工」は製造業など、工場の製造現場で使われていた言葉です。工場にはいくつかの生産ラインがあり、流れ作業で製品を製造します。2つ以上の生産ラインを担当することを多能工と呼んでいたのが始まりです。

これまでの企業での既存体制は、1人の従業員が1つの作業に集中するのが一般的でした。多能工化に取り組むと、従業員それぞれの能力を多角的に伸ばすことができる上、生産性向上が期待できます。

多能工が生まれた背景

「多能工」は、現在のトヨタ自動車の前身、トヨタ自動車工業が発祥です。当時の副社長だった大野耐一氏が考案したこの概念は、「トヨタ生産方式」として社内に浸透し、現代になって多くの企業から注目を集める考え方となりました。

多能工が誕生したきっかけとなったのは、大野氏が在籍していた紡績工場との違いに気づいたことです。紡績工場では1人が複数種類の機械を扱っていたのに対し、自動車工場で操作する機械は1人1台でした。

「従業員が特定の機械しか使わない状況が、生産性アップを妨げている課題だ」と感じた大野氏は、複数種類の機械を操作する仕組みづくりに注力しました。これが、多能工化の始まりです。

多能工と単能工の違い

「多能工」と相反する言葉に、「単能工」があります。複数の業務を1人の従業員が掛け持ちするのが多能工である一方、単能工は1人の従業員が1つの業務に専従することを意味します。

単能工は1つの業務に関して知識や経験を積むので専門性を高めやすいメリットがあります。しかし、業務が属人化しやすく専従者が急な休暇を取得したら代わりに業務を任せられる人がいなくなるリスクがあるので注意が必要です。

昨今では多種多様な商品を必要最低限数だけ生産するのが主流なので、単能工よりも多能工が重要視され始めています。

多能工が必要とされる業界・業種

多能工化は製造業を中心に知られている言葉ですが、近年は製造業界以外でも多能工化に取り組む企業が増えています。実際に多能工化に取り組んだ企業が生産性アップや業績アップなどの成果を生んでいることで、さらに注目を集めています。

多能工が必要とされる業界や業種を紹介します。

  • 製造業

多能工の発祥が自動車メーカーであるように、製造業における多能工化は重要な課題です。製造業では、製品の品質やコスト、納期の3つが企業の競争力を左右するとされています。

この3つの項目で企業が競合他社よりも優位に立つために、多能工化が役立ちます。例えば、製品の納期を短くするために機械の稼働率を高める方法があります。機械稼働率の上昇には生産ラインの機械を止めることなく稼働させ続けることが大切です。業務が属人化して、思わぬトラブル時に誰でも対応できる状況を準備しておきましょう。

多能工化によって、トラブル対応だけでなく柔軟な配置転換ができるようになります。従業員個人の適性や希望に沿った人材配置をすれば、製造品目の増加や従業員のモチベーションアップができるでしょう。

  • 流通業

流通業とは、生産したものを消費者に届けるまでの仕事のことで、一般的にはスーパーマーケットなどの小売業や仕入れ業者などの卸業が該当します。

スーパーマーケットは扱う商品によって惣菜や鮮魚、精肉部門に分かれています。また、レジ打ち業務や経営業務など、店舗運営に関わる業務は多岐にわたります。部門や担当業務ごとに繁忙期が異なるスーパーマーケットで一部の従業員に業務負荷が偏らないようにするには、繁忙期に合わせて即戦力を各部門に配置できる多能工化が有効です。

  • 宿泊業

旅館やホテルなどの宿泊業界では多能工化によって、各業務のピークタイムに合わせた柔軟な対応ができるようになります。宿泊業ではチェックインとチェックアウトの時間や食事の時間がある程度固定されているため、フロントやレストランが混み合う時間に合わせてスタッフ数を調整しやすいでしょう。

多能工化で従業員同士が互いの業務内容を理解すれば、社内コミュニケーションや連携が強固になり、質の良いサービス提供が可能になります。

多能工化するメリット

多能工化するメリットは5つです。

生産性の向上

多能工化・マルチスキル化の推進は、企業の生産性向上の一因として注目されています。一人の従業員が複数の業務や技能を持つことで、業務の流れがスムーズになり、無駄な時間やリソースの浪費を削減することができます。例えば、営業担当者が事務業務もこなせる場合、情報の伝達ミスが減少し、顧客へのレスポンスも迅速になるでしょう。

また、従業員が複数のスキルを持つことで、繁忙期や人手不足の際にも柔軟に業務調整が可能となります。これにより、業務の停滞を防ぎ、継続的なサービス提供や生産活動を保つことができるのです。

複数の業務や技能を経験することで、従業員の視野が広がり、新しいアイディアや改善提案が生まれやすくなると言われています。これは、企業のイノベーションを促進し、長期的な競争力の向上に繋がる要因となります。

チームワークの向上

多能工化を進めると、必然的に部署間やチーム間でのやり取りが増えます。お互いにサポートしあいながら業務を進める体制が整うにつれて、チームワークの向上が見込まれるでしょう。

他部署の人がどんな業務をしていて、自分の仕事とどのように関係しているか知ることは、他者への理解を深め思いやりの心を育みます。会社が1つの組織として強固になるために多能工化が効果を発揮するのです。

業務の可視化によるリスク回避

業務を誰でもできる状態にするには、具体的な業務フローや注意点などを洗い出してから従業員に共有する必要があります。多能工化の過程で細かい業務が可視化された結果、生産ライン上のボトルネックや業務効率化を妨げる課題が見つかるかもしれません。

企業にとってはそれまで隠れていたリスクを発見し、事前に回避するチャンスだといえます。

柔軟性の高い組織作り

企業が競争力を維持して成長を続けるためには、時代の変化に合わせて顧客ニーズを正確に把握した上で商品開発や販促活動をしなければなりません。企業独自のやり方や型にはまった方法では成果が出しにくいので、柔軟に対応できる組織であることが大切です。

単能工だけでは応用力や臨機応変さを求められる場面で対応しきれないため、企業の経営方針や戦略を実行できるだけの組織力を培っておきましょう。多能工化をしていれば、変化に柔軟に対応しやすくなります。

働き方改革に繋がる

日本政府が働き方改革を推進していることは広く知られており、企業は働き手が自由に働き方を選択できる体制づくりやプライベートを尊重した就業環境を整えるよう求められています。

多能工化を進めると、従業員がお互いにカバーしながら仕事を進められるため残業時間短縮が実現できます。それまで属人化していた業務が標準化され、従業員満足度の向上も期待できるでしょう。

多能工化するデメリット

4つのデメリットを紹介します。

実現するまでは生産性が低下する

多能工化の取り組みを始める際、その実現に向けての初期段階で生産性が一時的に低下することが考えられます。新しいスキルや業務を習得するための教育やトレーニングは、時間とコストを要します。特に、現場での実践的な教育、通称OJT(On the Job Training)を行う場合、教育を受ける従業員だけでなく、教育を行う側の業務量も増加することが予想されます。この結果、教育期間中は業務の効率が落ち、生産性が一時的に低下する可能性が高まります。

多能工化の取り組みは従業員に新しいスキルの習得を求めるため、その負担やプレッシャーが増加することも無視できません。このような状況下で、十分なサポートやフォローアップが行われない場合、従業員のモチベーションの低下やストレスの増加が生じることも考えられます。

多能工化の取り組みを進める際には、初期の生産性の低下を予測し、それに対する適切な対策やサポート体制の構築が必要となります。

適正な人事評価制度が必要

多能工となり、どの場面でも活躍できる優秀な人材は、適切に評価しなければその人材のモチベーションの低下や離職を招きかねません。

担当する業務それぞれにおいて、正当な人事評価基準を設けて人事評価を行うように注意しましょう。

モチベーションの維持が難しい

多能工化を進める上で、従業員を多能工にするまでの過程におけるモチベーション維持は大きな課題となるでしょう。例えば、右も左も分からない状態の新入社員に多能工化を求めると精神的な負担が大きくなります。多能工化のためといって、あれもこれも仕事を任せることは従業員の不満の種になります。

多能工化を進めるなら事前に導入目的や評価制度を社内に周知し、従業員が「やらされている感」を持たないように配慮することが大切です。

現場の統制が必要

多能工が増えると、誰もが業務上の判断をしやすい状況になります。各自の判断で仕事を進めてしまうと、他人と同じ作業を繰り返したり、責任の所在が不明瞭になったりしやすいので注意が必要です。

部署や部門ごとに多能工を統率する現場のリーダー的存在を配置し、仕事が円滑に進むよう工夫しましょう。

多能工化の進め方

4段階のフローに従って進めましょう。

フロー1:必要な業務の洗い出し

まずは現行の業務の詳細を把握することが重要です。業務量や必要なスキルや資格、業務フローや優先度を洗い出して、多能工化すると効率的に業務が進むと考えられる仕事を見つけます。

人事部や上層部の主観で業務の洗い出しを行わず、現場のスタッフの声を聞きながら検討するとスムーズです。

フロー2:業務の可視化

業務の可視化は多能工化する上で欠かせません。対象の業務がどのような手順を踏み、どんな人が関わって進められているのか、必要なスキルや所要時間などの詳細を確認します。

工程の途中に作業の無駄が生じていないかを検討しながら、マニュアルにするなどして誰でも習得しやすい環境を整えます。

フロー3:育成計画の作成

多能工化は時間と根気が必要です。無理なく従業員が複数の業務を身につけられるように、誰がいつ何をどのように習得するのかという育成計画は綿密に立てることをおすすめします。

大切なのは、多能工を目指す従業員の体調やモチベーションを悪化させない配慮を怠らないことです。

フロー4:評価・振り返りの実施、定着

育成計画に沿って多能工化を進める過程では、定期評価と振り返りを実施しましょう。計画通りに育成が進んでいなかったり、想定外の問題が浮上したりするため、適切な対処を実行しながら定着を目指すことが重要です。

今、多能工化・マルチスキル化が求められている背景

労働人口の減少と働き方改革の推進が進む中、企業は生産性の向上と労働環境の改善を目指しています。このような背景から、一人の働き手が複数の技術・技能を持ち、さまざまな業務に対応できる多能工化・マルチスキル化が急速に求められるようになってきました。従来の製造・施工現場だけでなく、サービス業や事務職でもこの取り組みが進められており、柔軟性の高い組織づくりや業務の効率化が期待されています。

多能工化の導入事例

実際に多能工化を成功させた企業はどのように導入を進めたのでしょうか。具体的な導入事例を紹介します。

  • 株式会社星野リゾート

宿泊業で全国的にホテルを展開している星野リゾートでは、フロントから清掃、給仕、調理など宿泊サービス全般を担当できるスタッフ育成に尽力しています。それぞれの業務のピークに合わせて配置先を変更し、従業員1人ひとりが暇を持て余す時間がないような仕組みづくりを行いました。

その結果、顧客との接点が増え会話の機会が増加。会話中に得られた要望をサービスに反映することで顧客満足度の上昇を実現したのです。

従業員の評価を細かく数値化できる仕組みにしたため、人事評価の透明性が高く、従業員の納得感が高いのも特徴です。

  • トヨタホーム株式会社

住宅部材工場を運営するトヨタホーム株式会社では、製造工場だけに留まらず現場に出向いて作業できる人材の育成を進めています。

部材の製造に関わる機械の取り扱いはもちろん、建築した住宅のインターネット回線の配線もできる人材を増やすことで、シーズンに合わせた人材配置を実現。無駄なく効率的に業務を進めています。

  • ヤオコー

ヤオコーというスーパーマーケットでは、従業員にレジ業務から品出し、惣菜製造の手伝いまで幅広く教育しています。これにより、レジ待ちの列ができた際にはレジ係を、惣菜製造の手が足りない時にはサポート係を増やすことで店内業務を円滑に進めています。

この取り組みは、従業員の業務内容を需要に合わせて柔軟に変えることで、業務の効率化を図る多能工化の一環です。

  • リコーインダストリー株式会社

リコーインダストリーは、部門ごとにスキル情報の引継ぎに課題を抱えていました。これを解決すべく、エクセルを活用した管理画面を導入し、社員のスキルを可視化して複数の部門で共有することで、スキルの消失を予防しました。

さらに、年代別のスキル分布をグラフ化することで経年変化を把握し、退職者のスキルを早期に把握する取り組みも効果を上げています。

これにより、スキルの共有と経年変化の把握を通じて、スムーズな情報の引継ぎと人材の管理を実現しています。

組織のマルチスキル化を成功させるポイント

ポイントを3つご紹介します。

組織に必要なスキルを明確にする

組織のマルチスキル化を進める際の最初のステップとして、組織にとって必要なスキルを明確にすることが不可欠です。このステップは、組織全体の方向性を定め、従業員一人ひとりがどのようなスキルを習得すべきかの指針を示す基盤となります。

スキルを明確にすることで、効果的な人材育成が可能となります。どのスキルが組織にとって重要かを特定することで、人材育成の方針やプランを具体的に策定し、必要なスキルの習得を効率的に進めることができるのです。また、スキルの明確化は業務の効率化にも寄与します。従業員がどの業務にどれだけのスキルを持っているかを把握することで、業務の割り当てやチーム編成を最適化することが可能となります。

さらに、組織が求めるスキルが明確であれば、従業員は自らのキャリアパスを明確に見据えることができます。自分の成長やキャリアの方向性を感じることで、モチベーションの向上や職場への帰属意識を高める効果も期待できます。

このように、組織に必要なスキルを明確にすることは、マルチスキル化を成功させるための基盤となる重要なステップであり、組織の成長と従業員の満足度向上にも寄与します。

各メンバーのスキル管理を徹底する

組織がマルチスキル化を実現するためには、従業員のスキル管理が欠かせません。スキル管理は、従業員の持つスキル、経験、資格などの情報を詳細に把握し、それをもとに最適な人材配置や育成策を考える活動です。

この管理をしっかり行うことで、組織はメンバーの能力や特性を深く理解することができ、それぞれのメンバーを最も適した役割や業務に割り当てることができるようになります。これは、業務のスムーズな進行や生産性の向上に直結します。さらに、スキルのギャップを早期に発見し、適切な研修や教育を提供することで、組織全体のスキルの質を高めることが可能です。

具体的なスキル管理の方法として、スキルマップのような視覚的なツールが役立ちます。これにより、組織内のスキルの状況やバランスを一覧で確認でき、戦略的な人材計画の策定に活用することができます。

要するに、従業員のスキルを的確に管理することは、マルチスキル化の成功の鍵となり、組織の持続的な発展を後押しする要素となります。

評価制度を適正かつ明確にする

組織のマルチスキル化を成功させるための重要なポイントとして、評価制度を適正かつ明確にすることが挙げられます。マルチスキル化を進める中で、従業員が新しいスキルを習得する努力をしても、それが評価されない場合、モチベーションの低下や取り組みへの疑問を持つことが考えられます。

評価制度を適正かつ明確にすることで、従業員は自らの成果や努力が正当に評価されると感じることができ、新しいスキルの習得や業務の多様化に前向きに取り組むことが期待されます。また、明確な評価基準を設けることで、従業員同士の公平性が保たれ、組織全体の士気やモチベーションの向上にも寄与します。

さらに、評価制度を明確にすることは、組織の目標やビジョンと従業員の目標を一致させるための手段ともなります。従業員がどのような行動や成果をもって組織の成長に貢献しているのかを明確にすることで、組織全体としての方向性や目標達成に向けた取り組みが強化されるでしょう。

したがって、マルチスキル化を進める組織において、評価制度の適正化や明確化は、従業員のモチベーション維持や組織の目標達成をサポートするための不可欠な要素となります。

多能工化で生産性向上を目指す

複数種の業務を兼任できる人材を育てる多能工化。1人につき1つの業務しか担当しない単能工に比べ専門性は下がりますが、多能工は多種多様な商品を少しずつ製作する現代に求められている人材です。

スタッフの多能工化に取り組むなら、適切なフローに沿って進め、従業員に過度な負担をかけない配慮が必要です。スムーズに実現できれば、生産性向上やコスト削減などのメリットが得られます。デメリットにも注意しながら、導入してみることをおすすめします。