製造業のスキルマップとは?項目例と作成手順、スキル管理での活用方法を解説

製造業では多様な技術や知識を持つ人材の育成と適切な配置が生産性向上の鍵を握ります。
そこで活用されるのが「スキルマップ」です。
スキルマップとは、業務に必要なスキルと、それに対する各従業員の習熟度を一覧で可視化する表のことを指します。
※スキルマップについては、こちらの記事をご参照ください。
本コラムでは、特に製造業におけるスキルマップの項目例や作成手順、そして実際のスキル管理における活用方法までをわかりやすく解説します。
製造業で必要とされる主なスキル
製造業で必要とされるスキルにはどのようなものがあるのでしょうか。
本項目では、主に必要とされる5つのスキルを解説します。
品質管理スキル
製造業における品質管理スキルは、製品の安定した品質を保つために欠かせません。
具体的には、品質基準や品質マニュアルの理解や、不良品の検出・判断スキルが求められます。
これらのスキルは、顧客満足度の向上やクレームの削減、生産効率の改善にも直結するため、製造業においては特に必要とされています。
生産計画・管理スキル
生産計画・管理スキルは製造現場の効率的な運営に欠かせない重要なスキルです。
具体的には、各作業工程や進捗状況の把握と適切な報告、生産スケジュールの理解と遵守をおこなうスキルが求められます。
このようなスキルを身につけることで、納期の遵守やリソースの最適化が実現され、製造現場全体の生産性向上に直結します。
機械・設備関連スキル
機械・設備関連スキルは、製造業において安全かつ安定した生産活動をおこなうための重要なスキルです。
具体的には、日常的に使用する機械設備の基本操作スキルや、設備保全に関する理解と知識が求められます。
これらのスキルが不足していると、機械の故障や生産停止といったリスクが高まり、生産効率や品質への悪影響をおよぼす可能性が高まります。
安全・衛生関連スキル
安全・衛生関連スキルは、製造現場での製品の品質の担保や、労働災害を防ぐために必要なスキルです。
常に職場の安全性を保つためにも、危険物を取り扱うための知識や、安全ルールの遵守が求められます。
これらのスキルが定着していないと事故やトラブルの原因となるため、安全・衛生管理のスキルを持つ従業員は製造現場において重宝される傾向にあります。
ヒューマンスキル・育成関連スキル
ヒューマンスキル・育成関連スキルは、製造現場での円滑なコミュニケーションやチームワークを支える基盤となるスキルです。
具体的には、報告・連絡・相談を適切に実践したり、後輩への指導、チームでの協働・問題解決の姿勢をもつ力などが求められます。
これらのスキルは、技術力と同様に現場を安定運営するうえで欠かせない能力であり、育成体制の強化にもつながります。
スキルマップが製造業で不可欠な理由
製造業においてスキルマップは不可欠なツールになっています。
本項目では、その具体的な理由を4つ解説します。
組織内スキルの可視化
製造現場では、特定の作業が一部の熟練した従業員に依存しやすく、業務が属人的になりがちですが、スキルマップを活用することで、その偏りを可視化することができます。
そうすることで、組織内で不足しているスキルが明確になり、どのようなスキルを強化するべきかを把握することができるようになります。
人材育成計画や配置を検討するためにも、組織内スキルの可視化は重要です。
人材育成の円滑化
スキルマップを活用することにより、従業員ひとりひとりのスキルレベルを把握することができます。
そうすることで、従業員に対して必要な研修や教育を適切に実施することができ、無駄なコストの削減にもつながります。
個々のスキルレベルに合わせた過不足無い教育を実施することで、人材育成の円滑化を実現することができるでしょう。
製造ラインの人材配置の最適化
スキルマップを活用することで、従業員のスキルの偏りを把握することができます。
そうすることで、生産計画に応じて、亜業者の得意・不得意を踏まえた最適な人材配置をおこなうことができるようになり、製造ラインごとの生産性・安全性向上につながります。
安定的かつ効率的な生産活動をおこなうためにも、スキルマップの活用は不可欠といえるでしょう。
ISO9001など外部要求への対応
ISO9001の認証を受けるためには、従業員の力量の明確化や実施証拠とする目的で、スキルマップの提出が求められます。
また、生産性の証明のために、取引先に提出する資料としてもスキルマップは活用される場合もあります。
このようにスキルマップは、単なる社内管理ツールにとどまらず、外部要求への対応手段としても重要な役割を担っています。
ISO9001については、こちらの記事をご参照ください。
製造業におけるスキルマップ導入のメリット
製造業におけるスキルマップ導入のメリットはどのようなものがあるのでしょうか。
本項目では7つのメリットを解説します。
属人化の防止
スキルマップを導入することで、各従業員のスキルが可視化され、誰がどの作業を担当できるかが明確になるため、特定の作業を一部のベテランだけができるような属人化を防ぐことができます。
特定の人物に業務が偏ることなく、業務を分担・共有できるようになるため、各従業員に対する教育の平準化や、業務の安定運用にもつながります。
人材育成の効率化
スキルマップを活用することで、従業員ひとりひとりがどの業務をどのレベルでできるかが一目でわかるようになります。
これにより、新人や若手社員に対して、何を教えるべきか、どのようなスキルを伸ばすべきかが明確になり、無駄のない教育計画を立てることができるようになるでしょう。
そうすることで、人材育成の効率化と質の向上が期待できます。
技術継承の支援
スキルマップを活用することで、ベテラン作業員の持つスキルやノウハウを可視化することができます。
そうすることで、退職や異動によって重要な技術が喪失することを防止でき、後継者の育成につなげることが可能になります。
また、可視化された情報はマニュアル整備の材料にもなるため、スキルマップの活用により技術継承がスムーズに進むようになるでしょう。
適材適所の人材配置
スキルマップを導入することで、製造ラインや工程ごとに必要なスキルと従業員のスキルレベルを照らし合わせて把握できるようになります。
これにより、業務内容に最適な人材を配置することができるようになり、適材適所の人材配置が実現しやすくなります。
また、急な業務変更にも即座に対応することができるため、業務の生産性向上につながるでしょう。
教育・評価の客観性向上
スキルマップを導入することで、誰にどのスキルがあり、どの段階まで習得しているのかが明確に可視化できます。
これにより、誰がどのように成長しているかを把握することができるため、透明性のある人事評価や、昇進・昇格の基準として活用することができます。
教育・評価の客観性を向上することにつながるため、従業員の納得感・満足度向上も実現することができるでしょう。
従業員のモチベーションアップ
スキルマップを導入することで、従業員は自分の現在のスキルレベルや、次に目指すべきスキル、評価基準を明確に把握することができます。
目標や評価基準が明確化されることで、自主的なスキルアップの意欲が高まるだけでなく、公正な評価にもつながるため、職場全体のモチベーション向上に貢献します。
ISO・外部監査対応の容易化
ISO9001では「力量の明確化と教育」が求められます。
スキルマップを活用することで、各従業員がどのようなスキルをどの程度習得しているかを明確にできるため、教育記録やスキル証明としても提出可能になり、監査対応をスムーズにおこなうことができるようになるでしょう。
ISO・外部監査対応の手間やコストを削減できることも、スキルマップ導入のメリットです。
製造業におけるスキルマップの項目例
各種業種におけるスキルマップの例については、厚生労働省が資料を整備しています。
ここでは一例として、製造業の中でも軽金属製品製造業のスキルマップの項目例を紹介します。
加工 | 機械加工 |
プレス加工 | |
表面処理 | マスキング |
機械的前処理 | |
ラッキング・アンラッキング | |
前処理 | |
陽極酸化処理 | |
後処理 | |
組立 | 組立 |
運搬・梱包 | 運搬・梱包 |
品質管理 | 品質検査 |
品質試験 | |
生産技術 | 仕様・工程設計 |
液管理 | |
環境管理 | |
設備管理 | |
工程管理 |
製造業におけるスキルマップの作成手順
本項目ではスキルマップの作成手順について解説します。
目的と対象者を明確にする
スキルマップの作成においては、まず最初にスキルマップ導入の目的と、対象者を明確にしましょう。
目的が曖昧だと、スキルマップを作成しても使われないまま形骸化してしまいがちであるため、関係部署とすり合わせながら、何のため導入するかを決めることが重要です。
人材育成の効率化、評価基準の統一、適材適所の実現など、目的を明確にすることでスキルマップの効果を高めることができます。
必要なスキルを洗い出す
スキルマップを作成するうえでは、必要なスキルを洗い出すことも重要な手順です。
各部署・各工程ごとに必要な作業・スキルをリストアップしていくことで、過不足ないスキルマップの作成ができるようになります。
この際には、現場の担当者やリーダーにヒアリングをおこない、抜け漏れがないように洗い出していきましょう。
評価基準を設定する
スキルマップを活用するためには、業務内容や組織文化に応じて、各スキルについて「どの程度できるか」を評価する基準の作成が必要です。
たとえば、「未経験」「指示があれば業務をおこなえる」「単独で業務をおこなえる」「他者に指導できる」といった段階をもうけ、スキルの習熟度を明確にします。
評価基準を明確に設定することで、管理者の運用の標準化や、従業員の納得感の向上にもつながるでしょう。
スキルマップをフォーマット化する
スキルマップは、Excel、Googleスプレッドシート、スキル管理ツールなどを活用し、情報を表形式で一覧化することが効果的です。
表形式でスキル項目と習熟度を一覧化することで、誰がどのスキルを持っているかが明確になり、運用の負担を軽減することができます。
効果的な運用を促進するためにも、スキルマップをフォーマット化することは重要です。
運用ルール下で定期的に更新する
スキルマップは一度作って終わりにならないよう、運用ルール下で定期的に更新することも重要です。
人事や現場教育担当と連携して、定期的に運用を見直すサイクルを回すようにしましょう。
現場の声を取り入れながら、スキルの評価基準や評価項目を見直すことで、実態に即したスキルマップの運用ができるようになり、組織成長につながるでしょう。
スキルマップをスキル管理に活用する方法
スキルマップはスキル管理に活用することができます。
本項目では具体的な活用方法について解説します。
スキルマップ中心に教育計画を立てる
スキルマップを活用することで、組織や従業員に不足しているスキルを明確化し、スキル管理の中で研修やOJTを設計することができます。
例えば、特定のスキルが不足している部署や従業員個人に対して重点的に特定の研修を実施し、効率的なスキルアップをはかることができます。
このように、スキルマップを中心に教育計画を立てることで、生産性の向上につながるでしょう。
スキルマップによるスキル管理の方法については、こちらの記事もご参照ください。
スキル管理の結果をスキルマップに反映する
スキル管理として実施した教育や研修後、従業員の評価やスキル習得状況をもとに、スキルマップのスキルレベルを更新することも重要です。
これにより、現時点でのスキルレベルが把握できるだけでなく、スキル管理の効果の確認、次の育成計画や人材配置の策定の材料にすることができます。
スキル管理とスキルマップを連動することで、より効果的なスキル管理が実現でき、組織の成長につなげることができるでしょう。
2つのサイクルを回す
前項、前々項のサイクルを回すことで、実際の製造現場に合った教育体制の構築や適材適所の人材配置が可能になります。
どちらか片方だけを運用するのではなく、スキルマップとスキル管理を連動させることで、従業員・組織の成長を効率的に実現することができるため、運用ルールを策定したうえで、関連性を意識しながら運用を進めていくことが重要です。
スキルマップ作成に便利なテンプレート
厚生労働省のホームページでは、製造業関係の13業種をはじめ、それぞれの業種のキャリアマップ、職業能力評価シートおよび導入・活用マニュアルがExcelシートでダウンロードできます。
スキルマップ作成に非常に役立ちますので、スキルマップの導入を検討している方はぜひ一度ご覧ください。
製造業におけるスキルマップの活用事例
本項目では製造業で実際にスキルマップが活用された事例を紹介します。
教育計画の立案
松本ナット工業株式会社ではスキルマップを活用して教育計画の立案をおこなっています。
作業者のレベルアップのために、自社の職務実態を踏まえた独自の技能チェックシートを作成し、タッピングやフォーマーなどさまざまな工程の技能習得レベルを評価し、作業者個々人の課題点を明らかにしました。
結果として、特定の項目が全社的に低い点数になるなどの課題が見え、通信教育の受講支援やOJT指導のテーマ策定などの教育計画の立案につながっています。
人事評価基準の改善
技術継承
トヨタ自動車は「多能工」を育成することを目的として、スキルマップを導入しています。
同社では、各作業者のスキルレベルを可視化することで、不足しているスキルを早期発見し、従業員ひとりひとりの育成計画に反映しました。
これにより、各工程での業務のムラを軽減し、高品質かつ安定した生産体制を実現しています。
製造業に合わせたスキルマップの構築と運用が重要
製造業におけるスキルマップは、現場で求められる多様なスキルを見える化し、人材育成や適切な人材配置、技術継承などに大きく貢献します。
ただし、汎用的なものではなく、自社の業務内容や組織体制に合った設計・運用が不可欠です。
継続的に更新・活用することで、教育の質や業務効率、従業員のモチベーション向上にもつながり、持続的な成長を支える基盤となります。
多様な技術や知識を持つ人材の育成と適切な配置の実現のためにも、スキルマップの構築と運用をしていきましょう。