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メンタリングとは?コーチングとの違いや運用時のメリット・デメリットについて解説

労働人口の減少にともない、人材の育成方法も少しずつ変化しています。流動性の高い今の時代で優秀な従業員を確保するためには、一人ひとりを考えたアプローチが必要です。今回紹介する「メンタリング」では、昨今で課題となる離職率の防止だけでなく、企業の成長にも大きく関わる手法といえるでしょう。

メンタリングとは?

メンタリングは人材育成として行われる1つの手法であり、アメリカで導入がはじまりました。この手法は1on1で実施することがほとんどで、指導する側を「メンター」、指導される側を「メンティー」といいます。新しい従業員の研修として実施されることが多く、聞き慣れている人もいるのではないでしょうか。

メンターはベテランや中堅ではなく、新人と年齢が近い若手の従業員からピックアップされます。この理由として、お互いが学べる環境を作るためです。一方通行の指導ではなく、メンター自身も新しい知見を得られやすいので、両者ともに効率的に成長を促せます。

メンタリングとコーチングの違い

類似する言葉としてあげられるのは「コーチング」です。この手法も同様に、一方通行での指導ではなくお互いの意思疎通を図り、課題達成のために具体的なアクションを計画して実行します。一方メンタリングは全体を包括した1on1でのサポートを行うため、仕事だけではなくライフスタイルにも影響を及ぼします。

  • 実施する対象者の違い
  • サポート方法の違い
  • サポート範囲の違い

どちらも方向性は同じように感じられますが、上記のように異なる点があることをおさえておきましょう。

メンタリングマネジメントとは

1on1でのコミュニケーションでお互いの信頼性を築き、チームの生産性を高める戦略がメンタリングマネジメントです。立場や権力を利用した一方通行での指導では、かえって従業員を困惑させてしまう原因になるでしょう。

自分で気づき、意欲的に成長を促すためには、一人ひとりと意思疎通を図ることが大切です。時間がかかる戦略でもありますが、企業として飛躍するためには従業員が何に困っているのか、何をしたいのかをよく傾聴する必要があります。

メンタリングのメリット

メンタリングを導入するメリットとして、おもに以下の点があげられます。

  • メンタルケアが可能
  • 信頼性向上につながる
  • 自主的な行動ができる
  • お互いの成長のきっかけになる

このように相談しやすい環境が整っていると、指導される側としては安心感が生まれます。さらにコミュニケーションが密になるため、先輩・上司との信頼性も向上し高いパフォーマンスの発揮にもつながるでしょう。

指導する側としても、ヒアリング力やマネジメント力といった育成に必要なスキルを身につけられます。お互いが切磋琢磨することで、効率的な成長のサイクルが生まれます。

メンタルケアが可能

メンタリングを行うと精神的なケアが可能となります。メンタリングはメンターがメンティーに寄り添って答えを導き出していくもの。メンティーにとっては「話を聞いてくれる存在」「一緒に悩みを相談できる味方」などと感じ、安心感がうまれるのです。

たとえその場で答えが見つからなくても、話を聞いてくれた事実が心の支えとなります。とくに新入社員は右も左も分からない状態で毎日を過ごしているのが現状。仕事で失敗したり、上司から叱られたりするのは日常茶飯事です。

そんな日常の中でメンターが寄り添ってくれれば、精神的負担も減っていくでしょう。心のよりどころとなり、一緒に居るだけでメンタルケアにつながるのです。

信頼性向上につながる

メンタリングによって日々会話量を増やしていけば信頼性向上へとつながります。会話量と信頼関係の深まりは比例するとはならないものの、会話を増やしていけば少なからず認識のズレは無くしていけるでしょう。

お互いの考え方が分かってくれば「この考え方は自分と一緒だな」「仕事に対する価値観が似ていそうだな」などと理解し合えるのです。

結果、一緒に仕事をして安心感が芽生え、心地良さがうまれてきます。自然体で働ける関係になれば憧れの気持ちも出てくるでしょう。「将来はあんな風になりたい」となれば、仕事に対するモチベーションも上がるはずです。

自主的な行動ができる

メンタリングを行えば自主性がうまれます。メンタリングは一方通行のコミュニケーションではありません。上司から部下へアドバイスを押し付けるのではなく、メンティーの自発的な行動を促すのが目的です。

そのためにメンターは会話によって気付きを与えていきます。「今回失敗した原因は何だと思う?」「次成功させるには何が必要?」など精神的なケアを行いつつ、新しい発見を与えていくのです。

自分自身で答えが見つかったメンティーは今までよりも行動が自主的になるでしょう。積極性が身に付き、自分で考えて行動できるまでに成長します。

これが一方通行のコミュニケーションであると、部下は受け身になります。失敗を怖がってチャレンジせず、何も学べず日々を過ごすでしょう。

お互いの成長のきっかけになる

メンタリングによってメンティーはメンターから多くの学びを得て、大きく成長できるでしょう。成長を実感できれば仕事へのやる気も一層上がってきます。

実はメンタリングで成長するのはメンティーだけではありません。成長を支える側と思われがちなメンターも大きく成長できるのです。

メンタリングは相談役やカウンセラーなどの役目であるため「誰でもできるだろう」「簡単な仕事だよね」と認識される機会が多いのも事実。とはいえ、詳しくは後述しますがメンタリングに必要な能力は実に多いです。

ヒアリング力にはじまり、指導力・パフォーマンスを引き出す力・モチベーターとしての力などが最低限不可欠。逆に言うと、メンタリングを通じてこのような力を身に付けられるのです。メンティーだけでなくメンターも成長できるのは大きなメリットでしょう。

メンタリングのデメリット

もちろんメリットだけではなく、以下のようなデメリットも存在します。

  • 指導に必要なリソースの確保
  • 効果の検証が困難

メンタリングを実施するためには、時間と人員の確保が必要不可欠です。計画なしにこの手法を実行すると、新人だけでなく先輩の負担が大きくなり業務にも悪影響をおよぼすリスクがあります。

また実施結果の有無も定量的に判断ができないため、どの程度の効果があるのかが不明瞭となります。うまく運用するためには、指導者の仕事量をうまく調整したり、離職率や業績などの数値として判断できる評価を参考にしたりする必要があるでしょう。

指導に必要なリソースの確保

メンタリングによって信頼関係を構築するのは簡単ではありません。時間や労力が今まで以上に必要になるのは念頭に置いておきましょう。

例えばメンティーと話し合いの場を設ければ、1回1時間以上へと及ぶ可能性もあります。面談の機会を週3日設ければ、1週間に3時間以上費やす結果となるのです。

メンター自身の業務に支障が出るのは言うまでもありません。業務に集中できる時間がないと成績を落とす場合もあるでしょう。結果的にメンターの評価が下がる可能性もあります。メンタリングを実施する際はそのようなデメリットも加味しなければいけません。

あらかじめメンターの業務を減らしてメンタリングに注力させたり、メンタリング実施時間を評価項目に入れたり。今まで以上に運用の対策が必要です。

効果の検証が困難

コーチングの場合は問題点や目標に対してアプローチするため、効果の検証がしやすいです。

例えば「指導したら今まで月間販売数10台が30台へと上がった」「営業目標1,000万円の壁を一緒に乗り越えられた」など、数字やデータなどでリアルに分かります。

とはいえメンタリングはメンタルにアプローチするため、真偽を判定するのがむずかしいです。「なんとなく表情が明るくなってきたな」「最近自分から話しかけるようになった」などで判断するケースも多くなります。

実際にいざメンタリングを導入しても効果検証で苦労する企業は多いです。そのため、離職率のようなデータで検証しても良いかもしれません。

メンタリングに必要な能力とは

メンタリングを実施するにあたって、求められるスキルは以下のとおりです。

  • ヒアリング力
  • 指導力
  • パフォーマンスを引き出す力

お互いのコミュニケーションを円滑に行い、うまく能力を引き出すためにはこれらのスキルが大切です。しかし普段の業務ではヒアリングや指導の方法を身につける機会が少ないため、事前にマネジメント関連を学ぶことをおすすめします。指導される立場から指導する立場にステップアップするためにも、少しずつ勉強していきましょう。

ヒアリング力

メンタリングに最も必要な能力はヒアリング力と言っても過言ではないでしょう。メンタルと名付けられている背景からも、精神的な部分に寄り添う必要があります。

悩みや疑問を解消するためには聞く力が不可欠です。「なぜ悩んでいるのか?」「どんな行動を取ればモチベーションが上がるのか?」などを考えてヒアリングしていきます。メンティーの話をよく聞くのはもちろん、質問の中で本質を見抜く力も必要になるでしょう。

さらにメンティーから話を引き出すには雰囲気づくりも大切です。このようなスキルをトータルしたのがヒアリング力。メンティーの話をただ聞くだけでなく、様々なスキルが求められるのです。

指導力

メンタリングはメンティーの精神面に寄り添うのはもちろんです。とはいえ本来メンターの役割はメンティーの指導です。会社の求める仕事をメンティーが遂行させるためにサポートしていきます。

そのためメンティーにとって指導力は欠かせません。指導力とひとえに言っても、部下に仕事を教えるだけではありません。メンティーは一般的に社歴が浅いため、社会人経験はほぼありません。挨拶・電話対応・メールコミュニケーションなど、基礎から教える必要があるでしょう。

メンティーがミスやトラブルを起こした場合、メンターがサポートしなければいけません。中には失敗を繰り返す部下もいるはず。そのような場合でも辛抱強く寄り添っていく必要があります。

このようにメンタリングにおける指導力は一般的な指導力と異なるのが分かるでしょう。スキル指導以外にも人間力の強化も行っていきます。

パフォーマンスを引き出す力

メンタリングでは部下のパフォーマンスを100%引き出すのが重要になります。持っている力を最大限発揮できれば、本人のモチベーションは上がるでしょう。従業員全員のやる気が上がれば売上もアップします。

そのためにもメンティーは腕の見せどころです。例えば部下の長所を分析し、強みを伸ばす方法は有効。部下の持ち味を活かせば実力が発揮できます。

反対に短所をうめる指導に注力しても、メンティーはモチベーションが上がりません。仕事が楽しくなくなりパフォーマンスを発揮できないのです。

そのため現代は「短所をうめるよりも長所を伸ばす」指導方法へ徐々に切り替わっています。

メンタリング制度の導入方法

メンタリング制度の導入方法を解説します。

社内メンターの設置

メンタリング制度を導入する方法として、社内メンターの設置があります。新入社員に近い年齢、例えば2・3年目の社員をメンターに抜擢するのが一般的でしょう。

メンタリングはメンターの育成も目的としているため、若い社員をメンターにする価値はあります。加えて同世代であるとメンティーも話しやすい雰囲気がうまれるのです。この後紹介する社外メンターとの大きな違いは導入ハードルの低さと言えます。

プロのメンターを採用する必要がなく、導入コストが掛かりません。また、社内事情やメンティーの性格を熟知しているケースも多く、スムーズに設置できます。

デメリットは本音が言いにくい点。「本当のことを言ったら評価が下がりそう」「不満を伝えたら気まずくなりそうだな」などと関係性を気にしてしまうかもしれません。社内メンターを設置する際は話しやすい雰囲気づくりが大切です。

社外メンターの設置

社外メンターを設置する方法も一つの手段です。社内メンターではなく、あえて社外メンターを設置する企業も増えてきています。

大きなメリットは作業負担が大幅に減る点です。とくにベンチャー企業や中小企業は作業人員に限りがあります。メンターを設置しようにも人手が足りないケースも多いでしょう。そのような場合に社外メンターを設置し、社員は今まで通りの業務に集中させるのです。

加えて社外メンターであると、関係が深まれば本音を言いやすいメリットもあります。評価や評判を気にせず話せるため、悩みや不満を引き出しやすいと言えるでしょう。

反対にデメリットは効果を発揮するまでに時間が掛かる点です。社外メンターは社内事情や社員の価値観を知らないため、一から状況を把握しなければいけません。

また、社内人材を活用するわけでなく、プロのメンターを雇用します。それだけコストも掛かるのは念頭に置いておきましょう。

メンタリング制度を導入する際の注意点

メンタリング制度導入時の注意点を解説します。

フロー1:守秘義務の遵守

メンタリングはお互い本音で意見を伝え合う場のため、ときにはプライベートな内容まで踏み込む場合もあるでしょう。そのようなケースでもメンターは秘密を守らなければいけません。

例えば「一時的に地元の関西支社へ戻りたい」「育休取得を考えている」などの重要事項をメンティーが知った場合、もちろん上層部には情報共有しなければいけません。

その場合はメンティー本人から管理職へ伝える流れを取りましょう。間違っても重要事項をメンターから直接上層部へ伝えてはいけません。

とはいえ、なかなかメンティー本人から伝えにくい場合もあるでしょう。その場合は部下から許可を取り、本人に代わって情報共有する必要があります。

フロー2:必要なアドバイスのみ行う

メンターはメンティーよりも知識や経験が豊富です。社歴もメンティーより長いため、ついアドバイスしたくなる場面もあるでしょう。とはいえ必要以上の助言は控えるのもメンタリングのポイントです。

メンタリングはあくまで部下の精神面へ寄り添い、本人のやる気を引き出すのが目的になります。メンターがあれもこれもアドバイスしてしまうと、メンティー自身で考える習慣がなくなってしまうのです。

結果的に本人のモチベーションが下がってしまいます。そのためメンターはあくまで黒子役に徹していきましょう。場合によっては部下自らの行動で失敗する瞬間も出てくるかもしれません。失敗も成功のうちです。失敗を重ねて得られるものも多いです。

フロー3:評価に直結させない

メンタリングは業務の一部であるため、話した内容はつい評価に入れたくなります。とはいえメンタリングは評価と切り離して考えるのがポイント。なぜなら信頼関係に大きく関わるからです。

例えばメンティーが「今の仕事内容は自分に合わない気がする」「もっと自分の好きな仕事をしたい」と言ってきたとします。そこで「仕事に対してやる気がない」とメンターが評価したらどうでしょうか。メンティーは評価に直結させた事実に不信感を覚えるだけでなく、最悪の場合離職してしまうかもしれません。

評価に直結させず二人の中でとどめておけば、解決の方向へ向かう可能性もあります。そのためにも、評価に関わらない人材をメンターへ抜擢する方法も検討していきましょう。

フロー4:中長期的な視点で考える

メンタリングは日々追われる業務の課題解決に注力しがちです。しかし、中長期的な視点で考えなければいけません。

例えば業務の相談に乗るだけでなく「今後どのような仕事をやりたいのか?」「そのために今積み重ねている努力はあるか?」などを聞いていくのもポイントです。タイミングによっては本人の意向に沿い、社内でキャリアチェンジできるかもしれません。夢が実現すればメンティーのモチベーションは一層上がるでしょう。

結果的に会社の売上に大きく貢献する可能性は大いにあります。このように、中長期視点で考えていけば本人だけでなく、会社の成長につながるのです。

メンタリングの実践方法

メンタリングの実践方法を解説します。

具体的な目標を設定する

まずはメンタリングによって何を成し遂げたいのかを決めていきましょう。例えば「従業員のモチベーションを上げたい」「若手の積極性につなげていきたい」など、目標を明確にしていきます。

目標がはっきりすればメンタリングの軸が出来上がり、後に紹介する行動決定やメンター・メンティーの選定もスムーズにいくでしょう。メンタリングにおいて土台となる部分のため、時間をかけて丁寧に目標を設定するのがポイントです。

反対に「今メンタリングが流行っているからとりあえず導入してみたい」「効果があるみたいだから試験的に実践してみたい」などのあいまいな理由であると失敗するかもしれません。目指したい方向性を最初の段階で明確に決めていきましょう。

どのように実施するのかを決める

具体的な目標が決まったら次は行動内容を詰めていきます。「どのようにメンタリングを行っていくか?」「どのくらいの頻度でメンタリングを実施するか?」などを決めていきます。

現在はメンタリング支援ツールが多く開発されており、目的に合わせて活用可能です。例えばオンラインで気軽にメンタリングできたり、数万人の中からスキルに合ったメンターを選べたり。テーマに沿って決められます。

また、オンラインでメンタリングができれば面談頻度も増やせるはずです。時間や場所を選ばずに実施できるため、頻度を考えるならオンラインも検討しても良いかもしれません。

メンティー・メンターを決める

次はメンティーやメンターを決定していきましょう。メンティーは一般的に新入社員とイメージされているものの、転職して間もない方や異動直後の社員を対象としてもかまいません。

いずれにしても「現職場に馴染んでいない方」を対象とすれば効果が高いと言えます。なぜなら環境に慣れない時期は精神的な負担も大きいからです。またメンターはメンティーと年の近い方が抜擢されやすいです。新入社員であれば2~3年目の社員がベストでしょう。

30代以降で転職されてきた方であれば、同じく世代が近い方をメンターに選定すると効果も高いです。30代以降の方をメンターにする場合は業務負担過多が予想されます。その場合は外注を検討しても良いかもしれません。

実施中の課題点を改善する

メンタリングを実施するとさまざまな問題が発生します。例えば「メンターとの相性が合わないから代えてほしい」「メンターの指導が的確ではない」など、予期せぬトラブルが発生する瞬間もあるでしょう。

とくにメンターとメンティーの組み合わせが適していない報告は多いもの。メンタリングはお互いの人間関係が良好であった場合に最良の結果をうみだします。信頼関係がうまれなければメンタリングの意味をなしません。むしろメンタリングの時間が無駄になってしまいます。

そのため、実施中に起こった問題点はすぐ解決していきましょう。今回の場合はメンターかメンティーを入れ替えるか、上司が間に入って問題点をヒアリングする必要もあります。

メンタリングでパフォーマンスの向上へ

メンタリングは単に業務だけをサポートするものではなく、従業員のライフスタイルや今後のあり方などにも影響する手法です。うまく運用するためには、メリット・デメリットを理解したうえで人員を配置することが重要です。

また指導を受けた従業員の成長だけでなく、指導者のマネジメントスキルの向上にもつながるので、お互いの効率的な研鑽が期待できるでしょう。