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エンパワーメントとは?【意味や使い方、導入方法】看護・福祉分野での意味を解説

エンパワーメントとは?

「社員の能力開花の方法がわからない」「従業員自らが積極的に行動してほしい」といった思いをお持ちの人事担当者は多いのではないでしょうか。

これらの悩みの解決にはエンパワーメントが効果的です。社員一人ひとりの積極性や自主性を高められるため、導入する企業は増加しています。

今回は、言葉の意味や導入のメリット、導入方法や導入時の注意点を詳しく解説します。

エンパワーメントとは? 

英語では「empowerment」という言葉で、「エンパワメント」と表記されるケースもあります。

エンパワーメントを直訳すると、「力や権限を与える」となります。ビジネスにおいては、従業員の一人ひとりが裁量権を持って自発的に行動することを指します。

本来は、市民運動でよく用いられていた言葉ですが、昨今はさまざまな場面で使われる様になりました。

ビジネスでは人材育成や人材マネジメントに役立つことから、エンパワーメントを導入する企業が増えています。

企業では、

  • 権限委譲
  • 能力開花

と同じ意味で使われる言葉です。

権限委譲とは、管理者の持つ権限を部下に与えることであり、部下自身の積極性や意思決定力を養うことが目的とされます。

エンパワーメントの文中での使い方

「エンパワーメント」は名詞なので、動詞として使わないように注意しましょう。

具体例としては、

  • 従業員のエンパワーメントは、継続的な企業の発展に欠かせない
  • エンパワーメント経営を実施して、社内の活性化を促す
  • 人材育成のためにエンパワーメントの導入を検討する

などが挙げられます。

日常生活で使われるシーンは多くありませんが、人事担当者や管理職となると耳にする機会が増えるでしょう。正しい使い方を知っておけば、いざ使おうとしたときに迷わずに済みます。

エンパワーメントが注目されている理由

エンパワーメントは、ブラジルの教育思想家パウロ・フロイレが提唱した言葉です。もともとはビジネスと関係のない分野で生まれた言葉ですが、なぜ今さまざまな企業から注目されているのでしょうか。

エンパワーメントが注目されている背景には、時代の変化と労働人口の減少があります。

2020年に世界的に流行した新型コロナウイルスの影響や働き方改革などによって、テレワークや在宅勤務といった新しい働き方が普及しました。同時にAIやIT技術が急速に発達して、企業はDX化に取り組む必要性が増しているのが現状です。

また、日本は超少子高齢化社会であり、労働人口は減少の一途を辿っています。少ない人材を企業が取り合う構造になっているため、多くの企業が人材不足に悩んでいるのです。

このような背景から企業に求められていることが3つあります。

それは、

  • 高い意思決定力
  • 後継者世代の若手人材の育成
  • 中途採用者の戦力化促進

です。

変化の激しい現代社会で企業が長く存続するには、状況に応じてスピーディに判断を下す必要があります。高い判断力を養うには、エンパワーメントを導入して日頃から判断する機会を設けると良いでしょう。

人材不足が続く昨今、企業は既存の従業員の能力を最大限引き出し、効率的に事業を進めなければなりません。そこで重要なのが、若手人材の育成と中途採用者の早期育成です。

エンパワーメントによって人材に裁量権を持たせると、指示を待つよりもスピーディに成長が見込めます。重要な仕事に携わることで責任感が増したり、将来の管理職候補として活躍できる人材に育ったりするでしょう。

ビジネス分野以外でのエンパワーメント

分野別の意味を解説します。

介護・看護でのエンパワーメント

介護や看護といった福祉および医療現場では、患者自身の意思の強さで回復スピードが変わるケースがあります。

患者一人ひとりが自ら進んで介護や看護を受ける積極性が、介護・看護でのエンパワーメントです。「患者エンパワーメント」と称されることもあり、現場で重視されている要素の1つだといえます。

介護や看護スタッフは、患者の気持ちを前向きにするような声掛けやサポートの実施を求められます。単なる生活のサポートで終わらず、心のケアまで行うのが、介護・医療現場の難しいところでしょう。

 障がい者福祉でのエンパワーメント

障がい者福祉は、身体に障がいを持つ人の機能回復や不自由のない日常生活を実現することを目的としています。障がいを乗り越えるためには、障がい者本人が意欲的に機能回復訓練やリハビリテーションに参加することが大切です。

そこで重視されるのが障がい者福祉でのエンパワーメントです。昨今は、本人の能力を発揮するには、障がい者として扱うよりも、本人の自主性を尊重することが重要だと考えられています。

身体が不自由だからといって何でも「やってあげる」のではなく、本人の「やりたい」という意思を重要視した対応が必要です。

エンパワーメントを取り入れるメリット・デメリット

メリットとデメリットを解説します。

メリット

導入するメリットは複数あります。エンパワーメントの導入は、企業にとっても従業員個人にとっても大きなメリットとなるでしょう。

導入のメリットは5つです。

  • 業務効率化が実現し、生産性がアップする

エンパワーメントによって一般社員がある程度の権限を持っていると、現場の状況に合わせた意思決定をスムーズに行えるようになります。

現場で問題が生じたときや上長に指示を仰ぐとき、上長が多忙で連絡が取れない状況が続くと、現場の仕事がストップしてしまうでしょう。

この際、権限委譲された従業員がいれば、即時判断が可能となります。必要以上に時間を浪費せずに仕事を進められるため、業務効率化が期待できるでしょう。効率的に業務が進めば、企業全体の生産性向上にもつながります。

  • 顧客満足度が向上する

企業が長く愛されるためには、顧客満足度を高く維持することが重要です。自社の顧客がどれだけ満足できたかによって、リピーターになる可能性や口コミの評価が変わってくるでしょう。

顧客満足度を高める方法の1つは、顧客対応のスピードアップです。エンパワーメントの導入で部下に裁量権を与えれば、上層部の判断を待たずして顧客への対応を決定できます。そのためスピーディな問題解決が可能になり、顧客満足度が高まるでしょう。

  • 責任感を持って仕事に向き合える

エンパワーメントで権限を委譲する相手は、一般社員の中でも信頼が厚く、将来の管理職として期待される人であるケースが多いのではないでしょうか。

権限委譲された従業員本人も「信頼されて任された」と認識できるため、期待に応えようと努力するでしょう。

権限を委譲すると、権限の大きさに伴った責任が生じます。従業員は、自分の意志決定に対して責任を取れるように、当事者意識を持って仕事に向き合えるようになります。

  • 従業員満足度アップが期待できる

従業員からすると、常に上長の指示を仰ぎ、自分の意見が反映されない状況は「楽しくない」と感じるものです。この状態が続くと、いわゆる「指示待ち人間」になってしまい企業の生産性が下がる要因となるので注意しましょう。

エンパワーメントによって従業員が自発的に考える機会を増やすと、仕事に対するやりがいを感じられるようになります。高いモチベーションを持つと仕事を楽しめるようになるため、従業員満足度が上昇します。

  • マネジメント力が向上する

裁量権を持った従業員は、その現場におけるリーダー的な立ち位置に置かれるケースが多くあります。上長に代わってチームメンバーに指示を出したり、意思決定をするようになるため、リーダーとしての素養が養われるでしょう。

また、裁量権を持って初めて、上長の判断基準や指示出しの工夫を知るかもしれません。それによって、マネジメント力が向上し将来の管理職候補として成長できます。

デメリット

エンパワーメントの導入はメリットばかりに注目しがちですが、デメリットもある点には注意が必要です。良い面と悪い面の両側面から自社に必要かどうか見極め、導入の可否を検討すると良いでしょう。

導入のデメリットを3つ紹介します。

  • 行動基準にズレが生じる可能性がある

権限を委譲したときに注意すべきは、判断基準は従業員個人の主観に一任されないようにすることです。個々の価値判断基準で自由に意思決定がなされると、企業の意思に反した方向に話が進むおそれがあるでしょう。

社内での対応ならまだしも、顧客や取引先への対応に一貫性がなければ、会社の信用問題に発展します。

導入する前に、会社の方向性や考え方、行動指針を明確化しておくようにしましょう。

  • 生産性が下がるおそれがある

権限委譲する相手を慎重に選ばなければ、生産性の悪化を招きかねないため、人選には注意しましょう。

権限を持ったからといって、自己判断で適切な対応を選択できる人材は多くありません。経験が足りないために判断が遅れる場合や、リーダー的な立ち位置が性質に合わない人である場合があります。

適切ではない人に権限委譲すると、過度なプレッシャーや業務量を抱え込み、逆に業務効率が低下しやすくなります。

  • 損失が発生するリスクがある

エンパワーメントを導入すると、生産性アップや従業員のモチベーション向上などのメリットが見込めます。しかし、導入すれば必ずしもメリットを得られるわけではありません。権限委譲する際は、判断を間違えた場合に損失が発生する可能性があることに留意すべきです。

エンパワーメント導入時は、権限を持った従業員が、状況に応じて適切な判断ができるようにサポートしてあげましょう。部下に任せっきりにするのではなく、体験を通して成長を促す人材教育の視点を忘れないことが大切です。

エンパワーメントを導入する方法

4段階にわけて解説します。

①エンパワーメントを導入することを宣言する

導入時にとても重要なのが、社内への周知です。エンパワーメント導入を進める考えを、社内のマネジメント層だけでなく一般職の従業員に対しても伝えましょう。

周知する際は、会社が導入に踏み切った背景や思い、目的がはっきり伝わるような工夫が必要です。会社の熱意が従業員全員に伝播するように「宣言」する意識を持つと良いでしょう。

宣言時に伝えるべきことは以下の内容です。

  • 自社に必要になった理由
  • 企業側、従業員側のメリット
  • 導入の流れ、導入までの期間といった目安
  • 導入による変化
  • 個々の従業員への影響

社内制度が変わるとき、従業員は少なからず不安を覚えるものです。一人ひとりの不安や疑問解消を重視して、丁寧な説明を心がけましょう。

②まずは小さな業務から権限委譲をスタート

業務効率化を早く達成したいあまりに、エンパワーメント導入当初からすべての業務権限を委譲したくなるかもしれません。

最初から大きな裁量権を与えると、慣れていない従業員にとってはプレッシャーとなり得ます。さらに、急に業務量が増えるなどの負担過多になる可能性が高まるので注意しましょう。

導入当初は、上長の業務すべてではなく、業務の一部についてのみ権限委譲することをおすすめします。任せる業務は、できるだけ精神的負担が少なくなるような配慮も必要なので、優先度や重要度の低い業務から権限委譲すると良いでしょう。

③業務をサポートしながら裁量を上げていく

エンパワーメント導入で上長の業務を部下に任せるといっても、最初から業務を丸投げするのはリスキーです。部下が意思決定権を持っていたとしても、その判断が誤りであったり、より良い選択肢があったりする可能性があるためです。

権限委譲した上長は、部下の意思や考えを否定することなく、適切なフォローを続けなければなりません。判断が間違っているからと頭ごなしに否定しては、せっかく導入したエンパワーメントの効果がなくなってしまいます。部下のモチベーションを保ちつつ、管理職候補として成長できるようなサポートを心がけましょう。

部下の成長を感じられたら、裁量を上げていきます。過度なプレッシャーを与えないように、権限委譲する業務の内容と量は吟味する必要がありますが、任せられる業務が増えることで部下のやる気は高まっていくでしょう。

④全ての業務を任せる

部下が徐々に担当できる業務が増えてくると、上長の業務をすべて任せられるタイミングがきます。このとき、部下は高い判断力と十分な経験値を持っているはずです。

そのため、上長は自身の業務を部下に一任して、より重要度の高い業務や判断力が求められる業務に注力できるようになります。

企業にとっては、未来の管理職に必要な経験と知識を蓄えた優秀な人材を獲得できたといえます。

エンパワーメント導入の際の注意点

注意点は4つあります。

権限を委譲する線引きを明確に

エンパワーメント導入時、権限を持たせた部下が想定よりも大きな裁量権を持たないように注意しましょう。

導入をスムーズに進めるためには、最初から全業務の権限委譲をするのではなく、業務の一部から権限を委譲する必要があります。このとき、一部業務の権限が「どこからどこまでの範囲」なのかが不明確では、認識のズレが生まれて大きなミスや損害につながりかねません。

上長も部下も、どの仕事のどの部分の権限を持つのかを明確に認識することが大切です。イレギュラーな対応など、どのようなシーンで上長へ相談して欲しいのかなどを事前に伝えておくと良いでしょう。

相手のスキルに合わない業務を渡さない

企業には、さまざまな性質やスキルを持った人が集まるため、人事担当者や管理職は一人ひとりの適性を見極めた上で業務を割り振る必要があります。

営業職で毎月の売上が多いトップランカーであっても、権限を持ってチームに指示出しをするのは苦手な人は少なくありません。個人プレーで一番能力を発揮できる性質を持っているからです。

また、仕事が早くて正確だからと権限委譲してみたら、判断力がなく意思決定に時間がかかりすぎたといった事例もあります。上長の指示を理解して実行するのが得意で、自分で優先順位や順序を考えるのが苦手な人は、権限委譲をされても思うように結果が出せないかもしれないのです。

権限委譲する従業員を選ぶ際は、本人の意向はもちろん、判断力の高さなどのスキルを慎重に見極めましょう。

改めて報連相を徹底する

上長から部下へ権限委譲をした際に起こり得るのが、業務の「丸投げ」です。権限は部下が持っているからといって、その判断に全責任を負わせるような対応は控えましょう。

上長は部下のサポート役として、相談に乗りながら正しい判断ができるように部下を支える必要があります。そのためにも、報連相(報告・連絡・相談)を徹底して、部下の状況や考えを把握するように努めましょう。

「失敗するのは当たり前」という気持ちで 

上長からすると、権限を持った部下が失敗するのではないかと心配で、つい口出ししたくなるものです。しかし、事あるごとに上長が意見をいうと、部下の思考力や判断力が伸びず、逆に反感を買ってしまう事態になりかねません。

権限を委譲してからは、部下自身の判断を尊重して過度に干渉しない心構えが必要です。「失敗するのは当たり前」という気持ちを常に持ち、部下の成長を見守りましょう。

エンパワーメントを実践している企業の具体例

エンパワーメントの導入には複数のメリットがある一方で、デメリットもあります。うまく活用できればメリットをしっかり享受できるため、自社に合った方法で導入を進めると良いでしょう。

実際にエンパワーメントを導入して成功した企業を2つ紹介します。

  • 株式会社星野リゾート

1軒の旅館業からスタートして、今や全国に宿泊施設等を展開する総合リゾート運営会社、株式会社星野リゾート。ビジネス業界では、エンパワーメント実践企業として知られています。

実践した施策は、誰もがリーダーや管理職になれる立候補制の採用です。

多くの企業では、通常業務の業績や勤務態度などから、人事担当者が管理職を選出する方法が採用されています。一方、星野リゾートは人事異動は任命せず、立候補者の中から話し合いで決められます。

従業員の自発的な行動と成長意欲をかきたてる仕組みによって、従業員一人ひとりが当事者意識を持って仕事に向き合えるようになりました。さらに、人材選出時の話し合いによって組織の団結力向上も実現したのです。

  • スターバックスコーヒージャパン

スターバックスコーヒージャパン株式会社は、日本各地にあるコーヒーショップ「STARBUCKS」の運営や、コーヒー関連商品の販売を手掛けています。

同社は人材育成の際に、徹底的に企業が掲げているミッションや理念を教育します。基本的な考え方が身についてから、権限委譲をするのです。それにより、従業員が会社の理念や行動指針を踏まえた上で、個人の自主性と創造性を発揮できるようになりました。

また、コーヒーショップ「STARBUCKS」のスタッフは、接客方法についてのマニュアルを持っていません。マニュアル通りではなく、目の前の顧客一人ひとりを思って接客してほしいという企業の思いが反映されています。これが高い顧客満足度をもたらしているといえるでしょう。

エンパワーメントを導入して企業の成長につなげましょう

部下に権限を委譲するエンパワーメントを導入すると、さまざまなメリットを得られます。社内の活性化や生産性の向上、次世代人材の育成など、企業が抱える多くの悩みの解決に役立つでしょう。

エンパワーメントの導入時は、いくつかの注意点があります。デメリットばかりが表面化しないように、事前の準備をしっかりして企業の成長につなげましょう。