人事管理とは?導入メリットやシステムの選び方、労務管理との違いを解説

企業の目的達成や成長を目指すために欠かせないのが「人事管理」です。
近年では、働き方改革や人的資本経営の重要性が高まる中で、戦略的な人事管理への注目が集まっています。
本コラムでは、人事管理の基本的な定義から導入メリット、システムの選び方、労務管理などの関連用語との違いまでをわかりやすく解説します。
人事管理とは
本項目では人事管理の基本的な定義と、近年人事管理が注目されている理由について解説します。
人事管理の定義と目的
人事管理とは、企業の目標達成に向けて、従業員が最大限の成果を出せるように、企業に必要な経営資源である「ヒト」を適切に管理する仕組みのことを指します。
人事管理をおこなう目的は、従業員の採用や配置、育成、評価などの人事業務を適切に実施することで、個人と組織の成長を促進し、持続的な企業価値の向上を図ることにあります。
人事管理が注目されている理由
なぜ近年人事管理への注目が高まっているのでしょうか。
これには法改正や労働人口の変化など社会的な要因が考えられます。
本項目では大きく2つの理由を解説します。
労働環境の変化への対応
2019年4月施行の「働き方改革関連法」による労働基準法の改正のように、労働環境に対する法的な変化が進んでいます。
企業は、このような変化に対応し、従業員が働きやすい環境をつくることが期待されており、人事管理をおこなうことによって、労働環境の変化への対応を進めることが求められているため、注目が高まっています。
従業員の能力・スキルの最大化
将来的な人材不足や人材の流動性の高まりを踏まえ、従業員に選ばれる組織をつくることが企業にとっての重要な課題となっています。
そのために、従業員の能力・スキルを最大化する人材育成の取り組みが求められています。
従業員に選ばれる魅力的な組織をつくるためにも、従業員の成長を支援し、個々人の能力・スキルを最大化することが必要であり、そのための仕組みとして人事管理が注目されています。
労務管理や人材管理、タレントマネジメントとの違い
人事管理と似た言葉に、労務管理や人材管理、タレントマネジメントなどがあります。
本項目ではそれぞれとの違いについて解説します。
労務管理との違い
労務管理は人事管理に含まれ、従業員の勤怠管理や給与計算、社会保険業務、安全衛生の管理など、労働条件や労使関係に関する部分の管理業務を指します。
一方で、人事管理はこのような労務面の管理に加えて、採用や育成、評価、配置など、人事領域全体をカバーしており従業員の能力を引き出し、組織の成果に繋げる戦略的な役割を担います。
つまり、労務管理は人事管理を構成する要素のひとつと位置づけられます。
人材管理との違い
人材管理は、企業の目標達成に向けて、「ヒト」を管理し、人材配置や業務の効率化によって企業利益につなげることを指します。
人材管理により、各従業員が保有するスキルや資格の可視化をおこなうことで、企業が最適に人材資産を活用し、配置することや生産性向上につなげることができます。
一方で、人事管理は人材の活用だけでなく、給与計算や保険手続きなどの人事業全般の管理を指しており、人材管理は人事管理に含まれます。
人材管理については、こちらの記事をご参照ください。
タレントマネジメントとの違い
タレントマネジメントは、従業員ひとりひとりのが持つ能力やスキルなどを一元管理し、管理職層の業務遂行や育成をサポートする仕組みを指します。
そのため、組織全体の採用から労務、育成、評価までを含む包括的な概念である人事管理に対して対象範囲がより狭く、タレントマネジメントも人事管理の一部として位置づけられるといえるでしょう。
タレントマネジメントについては、こちらの記事をご参照ください。
人事管理の主な仕事内容
人事管理の仕事内容にはどのようなものがあるのでしょうか。
本項目では主な6つの内容を解説します。
配置・異動・昇進の管理
配置・異動・昇進の管理は人事管理の中でも組織運営に直結する業務です。
従業員ひとりひとりの適性やスキル、志向性を考慮しながら、配置計画を作成することや、異動や昇進の決定と通知をおこなうことも含まれます。
適材適所の異動や配置をおこなうことで、従業員のモチベーションや生産性の向上、組織全体の活性化につながります。
人材育成・研修
人材育成・研修も従業員の能力向上とキャリア形成を支援するための重要な人事管理業務のひとつです。
通常業務を通じて実施されるOJT(On-the-Job Training)や外部の研修・講座によるOff-JTの企画・運営を通じた人材育成や、キャリア面談や自己啓発支援を通したキャリア開発支援をおこないます。
OJTについては、こちらの記事をご参照ください。
採用・人材確保
採用・人材確保も企業の成長や事業戦略の実現に向けて、必要な人材を獲得するための重要な業務です。
自社の人員の過不足や求めるスキルを踏まえた採用計画を立案し、求人作成や求人媒体の選定、応募者対応、面接・選考の実施までをおこないます。
自社にマッチした人材を確保することは企業の成長や事業戦略の実現に直結するため、戦略的な取り組みが求められます。
人事評価
人事評価は、従業員の実績や行動、スキルなどを正しく把握し、公正に評価する仕組みづくりと運用を担う業務です。
評価制度の設計や見直しをはじめ、評価面談の実施やフィードバックをおこなうことで、従業員の成長やモチベーションの向上を実現します。
また、評価は昇給・昇進などに関わるため、透明性と納得感のある設計・運用が求められます。
組織のエンゲージメント向上
組織のエンゲージメント向上は、従業員が組織に愛着を持ち、貢献しようする意欲を高めるための取り組みです。
具体的には組織風土の改善やハラスメント対策、ダイバーシティ推進などが含まれます。
これらの取り組みを通じて、従業員が安心して働ける環境を整えることで、従業員の定着率や生産性の向上にもつながり、持続的な組織成長を実現する重要な役割を担っています。
エンゲージメントについては、こちらの記事をご参照ください。
労務管理・勤怠管理
労務管理・勤怠管理は、従業員が安心して働ける職場環境を整えるための基盤となる業務です。
具体的には、勤怠・残業・休暇の把握・管理をおこない、法律違反のない適切な労働時間の運用を徹底します。
また、就業規則の整備や見直し、労働関連の法改正対応も重要な業務となります。
法令順守を徹底しつつ職場環境を整えることで、従業員の信頼感や生産性の向上が図れます。
労働管理と勤務管理の違いについては、こちらの記事をご参照ください。
人事管理システム導入のメリット
人事管理は非常に多くの業務があるうえ、データ管理なども煩雑であり、近年では、人事管理の効率化と精度向上を目的に「人事管理システム」が導入されるようになっています。
本項目では、人事管理システム導入のメリットを解説します。
人材情報の一元管理
給与や勤怠、評価、スキルなどの従業員情報を集約することでアクセスが簡単になり、業務の効率化が図れます。
また、担当者が退職や異動する際にも、人材情報が一元管理されていることにより、業務の引継ぎがスムーズにおこなうことができ、属人化のリスクを軽減できます。
人事担当者の業務量軽減
勤怠管理や給与計算、休暇承認などの申請手続きといったルーティン業務の自動化をすることで、人事担当者の工数削減が可能となります。
これにより、人事担当者は煩雑な事務作業から改善され、採用戦略の策定や人材育成といった業務に時間をあてることができるようになり、組織全体の生産性向上にもつながるでしょう。
ヒューマンエラーの削減
手作業によるデータ入力・処理は、確認漏れや入力ミスなど、ヒューマンエラーの発生確率が高まりますが、人事管理システムを活用してデータ入力を自動化することでミスの削減につながります。
ミスを削減することによって、業務の正確性と信頼性が大きく向上するでしょう。
従業員の利便性向上
人事管理システムを導入することで、スマートフォンやPCを通じて勤怠入力や休暇申請、給与明細の確認が可能になります。
また、ワークフローの自動化により申請・承認のプロセスもスムーズになり、申請状況や結果の確認などの情報へのアクセスも簡単になります。
これにより、従業員の満足度や業務の効率化が期待できます。
戦略的な経営判断
人事管理システムを導入することにより、経営層が従業員の勤怠状況やスキル、評価などの情報をリアルタイムで確認することができます。
そうすることで、定量データに基づいた戦略的な意思決定が可能になり、データドリブンな組織運営の基盤が整うでしょう。
戦略的な経営判断をおこなうためにも、人事管理システムは重要といえるでしょう。
人事管理システム導入時の注意点
人事管理システム導入にはさまざまなメリットがある一方で、いくつかの注意点もあります。
本項目では人事管理システムを導入する際に注意するべきポイントを解説します。
初期費用・運用コストの負担
人事管理システム導入時には、初期導入費用や月額利用料が発生し、こうしたコストは、特に中小企業にとっては大きな負担となる可能性があります。
また、システムのアップグレードやメンテナンスなどに付随して追加費用がかかることもあるため、導入をする際には事前に費用対効果を十分に検討することに注意しましょう。
導入や運用にかかる手間
システムの選定から導入までには多くの時間と労力がかかるうえ、社内調整も必要となります。
また、導入後も効率的に運用するためには、従業員教育や運用ルールの整備が求められます。
これらの準備が不十分だと、システム導入の効果を十分に発揮できなくなるため、システム導入・運用においては手間がかかることに注意しましょう。
セキュリティリスクの懸念
人事管理システムでは、個人情報や機密情報を扱うため、不正アクセスや情報漏洩のリスクが常に伴います。
このようなリスクを防ぐためには、システムのセキュリティ機能だけでなく、社内のセキュリティ対策も重要です。
具体的には、社内でのアクセス権限の管理や情報取り扱いルールの整備・徹底などの対策を、十分に検討することが重要でしょう。
従業員トレーニングの必要性
一口に「人事管理システム」といっても、システムごとに機能や操作性にばらつきがあるため、ITに不慣れな従業員はうまく操作ができないおそれもあります。
誰でも正しく操作ができるように、従業員トレーニングの実施やマニュアルの整備が必要です。
これらの対応についても、人事管理システムを導入する際には事前に検討をすることに注意しましょう。
人事管理システムの効果的な選び方
人事管理システムと一口にいってもさまざまなシステムがあります。
本項目では人事管理システムを選ぶ際に注意すべきポイントを解説します。
自社の課題と導入目的を明確にする
自社の課題と導入目的によって重視すべき機能が変わるため、事前に導入目的を明確にすることが重要です。
例えば、勤怠管理の効率化を目的とする場合と、人材の育成や評価などを強化したい場合では、必要となる機能が大きく異なります。
導入目的が明確でないと、期待した効果を得られない可能性もあるため、人事管理システムを選ぶ際には注意が必要です。
必要な機能を整理する
人事管理システムには業務領域ごとにさまざまな機能があるため、必要な機能を整理することが重要です。
勤怠管理 | ・出退勤打刻 ・勤怠集計 ・シフト作成 ・勤務形態設定 |
給与計算 | ・給与/賞与計算 ・社会保険 ・税金自動計算 ・給与明細の電子配信 ・年末調整サポート |
労務管理 | ・入退社手続き ・雇用契約の更新管理 ・法改正対応支援 ・マイナンバー管理 |
採用管理 | ・応募者情報の管理 ・選考フロー管理 ・面接日程調整 ・内定者管理/書類回収 |
人事評価・育成管理 | ・研修計画/受講履歴の管理 ・スキルマップ作成 ・目標管理 ・評価管理 |
人事情報管理 | ・従業員基本情報の一元管理 ・経歴/スキル/資格の管理 ・社員台帳の作成 ・契約書等の文書管理 |
システムの使いやすさを確認する
システムの使いやすさも、人事管理システムを選ぶポイントのひとつです。
システムの操作が複雑な場合、現場での定着が進まず、期待される効果が発揮できないおそれもあるため、管理者と一般従業員双方の視点で直感的に操作できるかを確認することが重要です。
事前にトライアルやデモ画面で操作性をチェックし、現場で無理なく運用できるかを確認するようにしましょう。
クラウド型かオンプレミス型か選ぶ
クラウド型かオンプレミス型かも人事管理システムを選ぶうえでの重要なポイントです。
下記表のような違いがあるため、自社にあったものを選ぶようにしましょう。
項目 | オンプレミス型 | クラウド型 |
導入形態 | 自社のサーバーにシステムを構築・導入し、すべての管理とメンテナンスを実施 | インターネットを通じてベンダーのクラウドサーバーを利用し導入。メンテナンスやアップデートもベンダーが実施 |
初期費用 | 比較的高額 | 比較的安価 |
運用コスト | 保守・更新・セキュリティ管理にコストが発生 | 月額・年額の定額利用 |
カスタマイズ性 | 自社の要件に合わせてカスタマイズ可能 | ベンダー提供の仕様に準拠するためカスタマイズ性は低い |
導入スピード | 数か月以上かかることが多い | 数日~数週間で導入可能 |
他システムとの連携性を確認する
システムを利用する際の利便性や業務効率アップの観点から、会計ソフトや労務管理ツール、勤怠システムなど、既存の業務システムとスムーズに連携できるかどうかを事前に確認することも重要です。
連携性が高いシステムを選ぶことで、データの二重入力や手作業の手間を省き、ヒューマンエラーの防止や業務全体の効率アップにつながるでしょう。
セキュリティ水準を確認する
人事管理システムでは従業員の個人情報や労務データなど機密性の高いデータを扱うため、万全なセキュリティ水準が求められます。
ISMS認証(ISO27001)取得の有無や、データを保管するサーバーが国内にあるか海外にあるかなどをチェックし、信頼できるセキュリティ体制が整っているかを確認することで、安心してシステムを運用することができるでしょう。
サポート体制と実績を確認する
人事管理システムは導入して終わりではなく、運用中にもトラブルや不明点が発生する可能性もあるため、導入後のサポート体制が手厚いかどうかを確認することが大切です。
また、自社と同業・同規模の導入事例があるかどうかも重要な判断材料となるでしょう。
これらのサポート体制と実績を確認することで、安心してシステムの導入・運用を進めることができます。
人事管理システムの導入事例
今後の人事管理はどう変わる?
ここまで人事管理システムについて解説してきましたが、今後の人事管理はどのように変わるのでしょうか?
本項目では、今後の人事管理におけるトピックを5つ解説します。
データドリブン人事
データドリブン人事は、今後の人事管理において不可欠なアプローチです。
ビジネス全体でデータ活用が進む中、人事部門でも効率的な業務遂行のためにデータ活用が求められています。
人事部門が収集・分析したデータを基に、採用・育成・評価・配置などの人事戦略を策定・遂行するようにすることで、人材運用の精度が高まり、組織全体のパフォーマンス向上につながるでしょう。
人的資本経営
人的資本経営とは、企業が人材を資本として捉え、投資対象と位置づける考え方です。
近年では上場企業を中心に、人的資本の情報開示が義務化され、人材に関する戦略や施策が経営上の重要項目として扱われています。
これにより、今後は人事部門が単なる管理部門から、経営戦略に直結する部門へと役割がシフトしていくようになるでしょう。
タレントマネジメントの重視
労働人口の減少や採用難により、新規採用に頼るのではなく既存の人材をいかに活用するかが重要になってきています。
既存の人材を活用するためにも、従業員ひとりひとりの能力や適正を把握し、成果をあげる社員の見極めやキャリアパスの可視化がすることが今後より求められるようになるため、これまでに比べてタレントマネジメントの重要性はより高まっていくでしょう。
働き方の多様化
近年、リモートワークや副業容認、フレックスタイムなどの柔軟な働き方が一般化し、従業員ひとりひとりのライフスタイルや価値観に合わせた対応が重要になっています。
これにより、画一的な制度運用から個別最適なマネジメントへの意向が求められています。
人事管理においても、こういった働き方の多様化に合わせた制度設計や施策の実施が求められるようになっていくでしょう。
AIやHRテックの活用
今後の人事管理においては、AIやHRテックの活用が加速すると見込まれています。
たとえば、採用におけるAIマッチングの活用や、チャットボットでの従業員対応、勤怠データからの異常の自動検出などが挙げられ、市場規模・導入企業ともに増えています。
この傾向は今後も加速し、AIやHRテックの活用は人事管理において欠かせないものになっていくでしょう。
人事管理を見直して企業の成長を加速させよう
人事管理は、従業員の力を最大限に引き出し、組織全体の成長を支える重要な役割を担っています。
変化する労働環境や多様化する働き方に対応するためにも、自社にあった人事管理のあり方を検討し、人事管理システムの導入・運用を行うことで企業の成長を加速することができるでしょう。
この機会にぜひ、人事管理の見直しとシステムの導入を検討してみてください。