スキル評価とは?意味と手法、制度設計・運用の実践方法を解説

スキル評価は、従業員の能力や知識、経験を可視化し、適切な人材育成や配置に活用するための重要な手法です。
近年、ジョブ型雇用やスキルベース型への移行が進む中で、スキル評価の必要性はますます高まっています。
本コラムでは、スキル評価のそもそもの意味や、その手法、制度設計・運用の実践方法を解説します。
スキル評価とは
スキル評価とは、従業員の業務遂行に必要な知識や能力、経験の有無、達成度を評価し、分かりやすく可視化することをいいます。
従業員のスキルを可視化することで、個々の強みや課題を明確にし、人事評価や適切な人材配置、育成計画の策定につなげるなどの目的で活用されます。
本項目では、混同されやすい3つの手法との違いを解説します。
業績評価との違い
業績評価とは、売上や利益などの業績に対する貢献度で人材を評価する手法です。
スキル評価は業務遂行に必要な知識や能力、経験、達成度といった「能力」を評価対象にするのに対し、業績評価は「成果」を評価対象にしているという違いがあります。
スキル評価と業績評価は、どちらも人材の評価・育成に役立ちますが、対象や目的が異なるため、使い分けをすることが重要です。
人事評価との違い
人事評価とは、企業が定めた評価項目を従業員がどれだけ達成しているかを測定する手法です。
スキル評価は特定の能力のレベルを評価して育成に役立てるのに対し、人事評価は幅広い側面を総合的に評価し、人事管理の判断に役立てるという違いがあります。
両者には上記のような違いがあるため、それぞれを運用し連動させることで、より効果的な人事戦略が可能になるでしょう。
タレントマネジメントとの違い
タレントマネジメントは、組織全体の長期的な人材戦略として組織成長の促進を目的とするのに対し、スキル評価は、個々の従業員の現在のスキルや能力を評価・可視化する目的があります。
スキル評価は個人レベルかつ現状の視点で行うのに対し、タレントマネジメントは組織全体かつ中長期的な視点な視点で行うという違いがあり、正確なスキル評価が実施されることで効果的なタレントマネジメントが可能になるといえるでしょう。
スキル評価が重要となった背景
スキル評価が重要となったのはどのような背景によるものなのでしょうか。
近年、日本企業における従業員の評価が、年功序列や終身雇用を前提としたメンバーシップ型から、職務内容に基づくジョブ型に移行が進んでおり、今後は個人のスキルや専門性に基づいて評価・配置を行うスキルベース型の展開が拡大していくと想定されています。
このような背景により、個人のスキルや専門性を的確に評価する必要性が増し、スキル評価の重要性が高まっています。
スキル評価の5つのメリット
スキル評価を行うことにはさまざまなメリットがあります。
本項目では主な5つのメリットを解説します。
人材配置が的確になる
人材配置が的確に行うことができるようになることは、スキル評価のメリットのひとつです。
スキル評価によって従業員のスキルが可視化されることで、業務内容や部署・チームのニーズに合った、より的確な人材配置が可能になります。
これにより、業務効率化やミスマッチの防止、ひいては成果の最大化も期待することができ、組織全体のパフォーマンス向上につながります。
人材育成がスムーズになる
人材育成がスムーズになることもスキル評価のメリットのひとつです。
スキル評価によって従業員それぞれの能力や成長状況を把握しやすくなることで、それぞれに必要なスキルや、その習熟度が可視化されるため、レベルに応じた人材育成と組織全体の成長が可能になります。
計画的・戦略的な人材育成を行うためにも、スキル評価は重要といえるでしょう。
人事評価の公平性が高まる
スキル評価を行うことは、人事評価の公平性の向上にもつながります。
スキル評価では評価基準が明確に決められているため、主観的評価を減らすことができ、評価の公平性が高まります。
これにより、人事評価の公平性も高まり、従業員の納得感の向上にもつながります。
また、人事評価の公平性が高まることで組織内の信頼関係が強化され、エンゲージメントの向上にもつながるでしょう。
従業員の意欲が高まる
スキル評価のメリットのひとつとして、従業員の意欲が高まることもあげられます。
スキル評価を行うことにより、従業員は自らのスキルがどのように評価されているかを把握できるため、目標が明確になり、モチベーションや学習意欲が向上します。
また、スキルや評価の基準が明確化されることで、昇進・昇格の基準も明確となり、成長に向けて主体的にスキルアップを目指す動機づけにもなるでしょう。
組織のスキルギャップに対応できる
最後に紹介するスキル評価のメリットは、組織のスキルギャップに対応できることです。
スキル評価を通じて組織全体のスキルギャップが可視化されることで、組織に不足しているスキルや将来的に必要となるスキルが明確になります。
これにより、戦略的な人材育成や採用方針の見直しにもつながります。
また、社員の転職や退職などによる急な人材不足に対しても、組織全体のスキルギャップを事前に把握しておくことで、適切な人材配置や育成、採用などの対応を実施することができるでしょう。
スキル評価の5つの注意点
前項で解説したようにスキル評価には多くのメリットがある一方で、注意すべき点もさまざまあります。
本項目ではスキル評価を実施する際に注意するべきポイントを5つ解説します。
評価基準の策定にコストがかかる
スキル評価を適切に行うためには、業務ごと・職種ごとに異なる評価基準を策定する必要があります。
そのため、評価基準の策定のためには関係者とのすり合わせが必要になり、一定の時間や労力のコストがかかります。
初期にコストがかかることを認識したうえで、初めは基本的な評価基準を策定し、運用とともに徐々に修正・改善を行うなどの工夫が必要となってくるでしょう。
評価項目の設計が難しい
スキル評価では、適切な評価項目の設計が難しく、業務に即したスキルを定義できないと、実態とのズレが生じたり、評価が形骸化するなど、意味のない評価になってしまうおそれがあります。
そうなってしまった場合、現場に混乱を招く可能性があるため、業務内容に即した適切な評価項目を設計するための慎重な検討と見直しが必要となる点に注意しましょう。
評価が目的化するおそれもある
スキル評価は本来、人材の配置や人材育成に活用するための手段ですが、評価をすることが目的化すると、点数をつけるだけのプロセスで終わってしまいます。
そうすると、本来の目的である人材育成や業務改善につながらないおそれもあるため、スキル評価を行うことでどのような効果を生み出したいかといった目的を常に意識することが重要です。
評価者に評価スキルが求められる
スキル評価の精度や公平性を高めるためには、評価を行う管理職に評価スキルが求められます。
評価者のスキル不足により、評価の基準にばらつきが出ると、評価の公平性が下がってしまい、従業員の信頼感を損なうおそれがあります。
このような事態を防ぐために、管理職への教育やトレーニングを行うことも重要なポイントとなるでしょう。
従業員の不信感を招くリスクがある
スキル評価を実施する際には、「なぜそのスキルが求められるのか?」を明確に提示できないと、従業員の反発や不信感を招くリスクがあり、注意が必要です。
従業員の反発や不信感を招かないように、事前に評価の目的や背景、評価基準について丁寧に共有を行い、納得感を高めることが重要なポイントとなるでしょう。
スキル評価の代表的な手法
スキル評価にはさまざまな手法があります。
本項目では代表的な手法として、従業員のスキルを可視化するツールである「スキルマップ」と、曖昧な評価をなくす「ルーブリック評価」の2つを紹介します。
スキル可視化ツールのスキルマップ
スキルマップとは、従業員ひとりひとりの能力やスキルを可視化した表であり、企業が必要とする能力やスキルを表にしたうえで、従業員の足りない能力を把握したり、強みをさらに伸ばす効果があります。
スキルマップには決められた型はありませんが、一般的にマトリックス図で作成されることが多く、Excelで作成することが主流であるほか、厚生労働省やIPAもテンプレートを提供しているため、参考にしてみるとよいでしょう。
曖昧な評価をなくすルーブリック評価
ルーブリック評価とは、従業員のスキル達成度を「初心者」「中級者」「熟練者」など段階ごとに示した表を使って評価する方法です。
評価基準が明文化されているため、評価者によるばらつきや曖昧さをなくすことができ、特に数値化が難しいコミュニケーション力やリーダーシップなどのソフトスキルの評価に適しています。
スキルの適切な段階評価の考え方と意味
スキル評価ではスキルを段階的に評価します。
段階の分け方にはそれぞれ考え方や意味があり、本項目では3段階、5段階、6段階の3つの評価方法について解説します。
3段階評価の場合
3段階評価は「良い・普通・悪い」というシンプルな区分で構成されているため、判断に時間をかけずに決められることが特徴です。
細かい基準にとらわれずに全体的な傾向を把握しやすいため、多忙な現場でも導入しやすいというメリットもありますが、判断に迷った場合には評価が中央の数値に集まりやすいというデメリットもあるため、運用には注意が必要です。
5段階評価の場合
5段階評価は「良い・どちらかといえば良い・普通・どちらかといえば悪い・悪い」という区分で構成されます。
3段階評価に比べて評価の幅が広くなるため、より細やかな判断が可能になり、評価の精度が高まります。
一方で「どちらかといえば」という評価も含まれるため、基準の明確化や評価者間での基準のすり合わせが重要になる点には注意が必要です。
6段階評価の場合
6段階評価は、5段階よりも細かく評価をわけているうえ、中央の数値がないため、評価のばらつきや偏りを防ぐことができ、評価の曖昧さが解消されます。
より正確にスキルレベルを把握することができるため、公平性や納得感のある評価が可能になるでしょう。
一方で、段階が細かくなるため、評価者に対して評価基準を明確に説明する必要があり、評価者自身にも相応のスキルが求められる点には注意が必要です。
スキル評価制度を設計・運用するコツ
最後にスキル評価制度を設計・運用するコツを7つ解説します。
評価の目的を明確にする
スキル評価制度を効果的に運用するためには、評価の目的を明確にすることが必要です。
評価の目的が曖昧だと、評価が形だけのものになり、制度が形骸化する原因になってしまいます。
育成、配置、人事評価など、スキル評価を行う目的を明確にしたうえで、制度設計や運用を行うことが、効果最大化のために重要となるでしょう
必要なスキルを洗い出す
スキル評価制度を設計する際には、各職種・役割ごとに、成果を出すために必要なスキルを具体的に定義することが必要です。
この際、抽象的な表現ではなく、「○○ができる」など、行動ベースの表現(コンピテンシー)で定義することも重要です。
そうすることで、評価の精度と納得感が高まるため、スキル評価制度を設計する際には十分な洗い出しを心がけましょう。
評価基準を設定する
スキル評価制度を適切に運用するためには、スキルごとに段階を設定し、評価者の主観に偏らないように、それぞれの段階に対して明確な基準を設けることも重要です。
具体的な行動や成果に基づく明確な基準を設けることで、評価者の主観に偏らない、公平かつ一貫性のある評価が可能になり、従業員の納得感も高まりやすくなるでしょう。
評価者のガイドラインを作成する
スキル評価制度の運用において公平性を保つためには、評価者ごとに基準がぶれないよう、研修やガイドライン作成を行うことも必要です。
評価の基準や仕方を統一するための研修実施や、具体的な評価基準をまとめたガイドライン作成を行うことで、評価の属人化を防ぐことができ、評価の公平性や、従業員からの信頼性を高めることにつながるでしょう。
評価結果を人事戦略に活用する
スキル評価は、評価して終わりではなく、評価結果をもとに育成計画などと連動させ、採用や配置戦略に反映させることが重要です。
そうすることで、組織全体の生産性やパフォーマンスの向上につながるでしょう。
このようにスキル評価制度を運用するうえでは、評価するということだけでなく、評価結果を戦略的に活用することまで見据えて、運用していくことが重要となるでしょう。
制度は運用しながら改善する
スキル評価制度は、最初から完璧な設計を目指すのではなく、実際に運用しながら改善していくことが重要です。
評価者・被評価者双方からの定期的なフィードバックをもとに、制度の課題を柔軟に見直し、アップデートしていくとよいでしょう。
そうすることで、よりスキル評価制度の効果を高めることができるため、改善を前提として設計・運用を進めていくことが重要です。
スキル評価で企業全体の成長速度をアップさせよう
スキル評価は、個人の成長を促進するだけでなく、組織全体の成長スピードの向上を目指すうえで重要な仕組みです。
適切なスキル評価を行うためにも、自社に合った制度設計と運用を行うことが鍵となります。
当社が提供するスキルナビでは、スキル評価機能だけでなく、従業員が保有するスキルや資格の集約といった管理も可能なため、スキル評価を効果的に設計・運用することが可能です。
ご興味をお持ちの方は、下記よりお問い合わせください。
