コラム

人事関連でお役に立つ情報を掲載しています。ぜひご活用ください。

  1. トップ
  2. コラム
  3. 人事労務・人事戦略
  4. 裁量労働制とはどのような働き方?メリットやデメリット、他の制度との違いを解説

裁量労働制とはどのような働き方?メリットやデメリット、他の制度との違いを解説

裁量労働制という言葉を耳にしたことのある人は多いのではないでしょうか。しかし、具体的にどのような制度で、他の制度とどのように違うのかを正しく理解している人は多くありません。

これまで重視されていなかったものの働き方改革の推進などを背景に、導入を検討する企業が増加すると予想されています。今回は、導入手順をはじめとする制度の詳細を解説します。

裁量労働制とは

従業員の働く時間総数に関連する制度の一つです。従業員の労働時間を、従業員それぞれが裁量を持って決められる点が特徴です。実働がどれほど短くても長くても、企業は働き手と雇用契約を結ぶ際に決めた時間数だけ働いたとして、働き手に規定の給与を支払います。

例えば、仕事に従事する時間の総数を、1日7時間とみなして勤務をスタートした場合を取り上げてみましょう。このとき、1日の実働数が3時間であっても7時間であっても、日給は7時間分となります。

つまり、時間よりも仕事の成果を重視する考え方を持った働き方だといえるでしょう。従業員が自由に時間を管理できるため、仕事を効率的に進めるほど時給換算した給与額が高くなります。

この制度の特徴は、残業などの「時間外労働」という考え方がありません。就業時間に関する取り決めや法律の範囲内で、従業員の裁量権が認められている新しい働き方だといえます。

裁量労働制と他制度との違い

4つの制度との違いを説明します。

高度プロフェッショナル制度(高プロ)

「高プロ」と省略されることも多い「高度プロフェッショナル制度」は、専門的な知識を持つ職種を対象にしている制度です。具体的な職種としては、コンサルタントや研究者、証券アナリストなどが当てはまります。

専門知識を持つプロフェッショナルであり、かつ年収が1075万円以上という一定の収入を得ている場合に適用される点が特徴です。裁量労働制との共通点は、働き手本人が労働時間に関する裁量権を持っているところです。

裁量労働制と高度プロフェッショナル制度との違いは、賃金の割増があるかどうかです。前者では深夜や休日に働くと賃金の割増対象となるのに対し、後者は割増賃金の支払いはありません。

割増賃金がない高度プロフェッショナル制度では過度な労働をしやすい環境になるため、休日を確保することが求められます。企業によっては、独自に労働時間の上限を設けたり定期的な健康チェックの機会をつくったりしています。

事業場外みなし労働時間制

みなし労働時間制の一つである「事業場外みなし労働時間制」は、事業場外で仕事をする職種に適用されます。事業場外とは企業のオフィスから離れた場所を意味しており、自宅やサテライトオフィスで就業する場合や、直行直帰してオフィスにいかない場合などが該当します。

一般的にはオフィスに出社して仕事をするので、上司などの監督下で業務を進めます。そのため、どのくらいの時間働いたかを把握できますが、就業場所がオフィス以外の場所では把握が難しくなります。そこで一定の労働時間を決めて、従業員が裁量を持って就業できるようにしたのがこの制度です。

みなし労働時間を決めて勤務する点は裁量労働制と共通していますが、こちらは職種の制限がない点が違いの一つです。また、上司などの目が行き届かない業務だけが制度の対象となる点も違いだといえるでしょう。

みなし残業制度(固定残業代制度)

みなし残業制度という言葉は多くの人が聞いたことがあるでしょう。これは固定残業代制度とも呼ばれ、使用者である企業と労働者の間で、契約時に取り決めた残業代を固定で支払う制度です。

この制度と相性の良い業務として、営業職が挙げられます。オフィスに立ち寄らずに直接顧客のもとに訪問する方が都合の良い場合や、直行直帰をすると企業が出退勤時間を管理しにくい場合に適した制度だといえるでしょう。

仮に残業が0時間だとしても規定の額が支払われるため、裁量労働制と同じように一定の時間働かなくても働いたとみなされます。

両者の違いは、労働時間全体を対象とするか、残業時間のみを対象とするかです。また、この制度では、あらかじめ取り決めた時間総数を超えて勤務すると、超過分の残業代が支払われます。

フレックスタイム制度

働き方改革や新型コロナウイルス感染症の感染拡大を背景に注目を集めている新しい働き方の一つに、「フレックスタイム制度」があります。これは、企業がそれぞれ規定したコアタイムに出勤していることを条件に、出社と退勤の時間を従業員自身が自由に決められるものです。

コアタイムとは、従業員全員が仕事をするべきとして会社が決めた時間帯を意味します。どの企業でも必ず設定されているわけではありませんが、会議やチームでの作業がしやすいという理由でコアタイムを設定している企業は多いでしょう。

この制度を導入したときの従業員のタイムスケジュールの一例を紹介します。1日の就業時間を8時間と定めており、コアタイムが14時から18時としている企業について考えてみましょう。

このとき、従業員は遅くても14時には仕事を始めなければなりません。もし14時に仕事をスタートしたら、所定労働時間は8時間なので休憩時間を含めると終業時間は23時になります。反対に午前中から働きたい人は9時に出社すると、休憩時間を含めて18時に退社できます。

裁量労働制との違いは、あくまでも労働時間を基準にして給与が支払われるところです。裁量労働制は、働く時間帯も時間数も働き手が任意で決められますが、フレックスタイム制度は所定の労働時間やコアタイムが決められ、その時間内で出退勤時刻を働き手が決めます。

裁量労働制の仕組み

詳しい仕組みを解説します。

労働時間の取り扱い

労働時間の取り扱いが従業員個人に委ねられている裁量労働制。労働時間とは、具体的に何を指しているのでしょうか。

裁量労働制で従業員が裁量権を持って決められるのは、出勤・退勤の時間、仕事を始める時間や終わる時間、休憩のタイミングなどです。

これらを働き手自らが決められるといっても、みなし労働時間などは契約時に企業との合意の上決定されます。契約上重要な事項なので、決定事項に関しては労使委員会を設置して、委員会の合意を得ること、働き手本人の同意を得ること、労働基準監督署への届出が必要です。

従業員が裁量権を持つ時間に、残業時間は含まれない点には注意が必要です。そもそも裁量労働制では残業という概念がなく、事前に決められた労働時間に沿って給与が支払われます。そのため、時間外労働をしても追加の給与の支払いや賃金の割増は基本されません。

企業はそれぞれの従業員の働き方や適用されている制度などを正しく把握して、規定に従って支給額を計算することが大切です。

その他の取り扱い

裁量労働制は事前に会社と従業員が合意の上で決定した、みなし労働時間の範囲で労働します。総労働時間によらず給与が支給されるため、残業代が支給されない点が特徴です。

しかし、従業員が事前に取り決めた時間数を超えて勤務した場合の給与や休日に出勤した場合などに関しては、例外として割増賃金の支給が必要です。これは、36(サブロク)協定と深い関係があります。

36協定とは、労働基準法第36条で定められた「時間外・休日労働に関する協定届」を意味します。労働者と企業が合意していれば何時間でも働ける現状を踏まえ、従業員の過度な労働を防ぐために締結が必要として誕生した協定です。

36協定では、例えば「22時以降かつ翌朝の5時の間に働いた場合は深夜手当が支給される」や「法で定められた休日に働いたら、休日手当を支給する」などの例外的な割増賃金の支給が認められています。

また、みなし労働時間が1日8時間以上または週に40時間以上になる場合にも36協定を結ぶ必要があります。

裁量労働制で固定残業代を取り決めしていない場合、休日手当の割増率は法定外休日で25%、法定休日で35%と決められているので注意しましょう。なお、時間外の深夜労働をしたときの残業代は50%となります。

企業は法律を遵守しながら、例外的な賃金の支払いに関して正しく取り扱うことが求められます。

裁量労働制の対象となる業務、職種

対象範囲について解説します。

2種類の裁量労働制(専門業務型裁量労働制、企画業務型裁量労働制)

裁量労働制はコアタイムや規定の労働時間がないので、従業員にとっては働きやすさが増す魅力的な制度に感じられるでしょう。企業にとっても事務的な手間が減り、人件費の想定がしやすいといった魅力があるので、積極的に導入する企業が増えています。

しかし、裁量労働制はすべての業種や職種で適用される制度ではありません。適用範囲となるのは労働者自身が裁量権を持ちやすい業種のみです。

また、具体的な業種によって専門業務型裁量労働制と企業業務型裁量労働制に分類されている点も注意しましょう。

2つの制度について解説します。

専門業務型裁量労働制

対象職種は厚生労働省により規定された専門性の高い職種です。研究職や開発職、クリエイティブ職、士業などの19種類の業種がこの制度の適用範囲となります。ただし、具体的な業務内容によっては適用範囲外と判定される場合があるため、事前に確認しておきましょう。

適用される職種は以下の通りです。

  • 研究または開発職(新商品や新技術に関する研究開発)
  • 情報処理関連の分析や設計業務
  • 出版、芸能関係の取材や編集
  • デザイナー各種
  • テレビ番組や映画など、制作物のプロデューサーまたはディレクター
  • コピーライター
  • システムコンサルタント
  • インテリアコーディネーター
  • ゲームソフトの制作者
  • 証券アナリストまたは金融商品の開発者
  • 大学に勤める研究者や教授職
  • 公認会計士
  • 弁護士
  • 建築士
  • 不動産鑑定士
  • 弁理士
  • 税理士
  • 中小企業診断士

企画業務型裁量労働制

この制度は、企業の運営上で中心となる企画の立案や調査などを担当する職種を対象としています。平成12年4月から施行された制度であり、平成16年1月1日には制度の導入要件や手続きが緩和され、より多くの企業がこの制度を利用しやすくなりました。

適用される職種は以下の通りです。

  • 企業の経営に関する現状や環境を調査し、分析および計画を立てる業務
  • 企業組織の問題点などを調査分析し、より良い組織を編成する業務
  • 人事労務を担う部署にあり、人事制度の課題の洗い出しや改善を行う業務
  • 人事労務を担う部署にあり、社内業務の内容や必要なスキルを調査分析し、従業員の教育や研修計画を立てる業務
  • 企業の財務状況を調査または分析し、財務計画を立てる業務
  • 広報に関する部署にあり広報手法などの調査を行い、企業の商品やサービスの広報活動を企画、立案する業務
  • 企業の営業活動に関する課題などを調査し、営業方針や営業活動に関する計画を立てる業務
  • 生産企画を担う部署にあり、業務の効率化や原材料の調達について調査分析し、企業の生産計画を立てる業務

専門業務型裁量労働制と企画業務型裁量労働制の違い

裁量労働制は制度を適用できる職種の違いなどから、2つに大別されます。人事担当者は制度の違いを把握した上で、自社での導入が可能なのか、導入する場合の要件や制限を確認することが大切です。

この2つの違いをより詳しく紹介します。

  • 対象とする業務の特徴

専門業務型では、労働者が裁量権を持つ方が効率的に業務が進む職種や、時間配分等の指示を出しにくい業務が対象です。反面、もう一方の制度では、企業運営の根幹となる経営全般に関わる業務が対象となります。

  • 事業場

対象とする職種が勤務する事業場であれば問題なく導入できる専門業務型に対し、企画業務型では企業が運営する上で重要な意思決定が行われる事業場でのみ導入が認められます。

  • 対象となる労働者

専門業務型では、指定の業務を担う従業員なら誰でも対象となります。もう一方の制度は、指定の業務を担う従業員であることに加えて、従業員本人の同意が得られることが条件です。

  • 導入のための要件

専門業務型は7つの項目を定めた労使協定を結び、企業の管轄の労働基準監督署に届け出る必要があります。定める項目には、制度が適用される業務の範囲や具体的なみなし労働時間、協定の有効期間などが含まれています。

その一方で企画業務型の場合は、社内で組織した労使委員会の構成員のうち、5分の4以上の人が制度の導入に賛成することがまず必要です。対象業務の範囲やみなし労働時間、従業員本人の同意に関する取り決めなどを決議し、決議内容を管轄の労働基準監督署に届け出ることで導入できるようになります。

  • 届出や報告方法

導入にあたっては、導入に関する届出が必要です。通常は協定の締結について労働基準監督署に届け出るだけで問題ありませんが、企画業務型の場合は報告義務もあることに注意しましょう。

具体的には、委員会で決議した内容を届け出てようやく制度の導入が認められます。そこからさらに、導入後の労働時間の現状や労働者の健康を守るために実施している施策についての報告を、半年に1回行うことが求められるのです。

裁量労働制の導入におけるメリット

5つのメリットを紹介します。

人件費が想定しやすい

みなし労働時間をあらかじめ決めて、その範囲内で勤務する働き方の裁量労働制は、企業にとって人件費を想定しやすいメリットがあります。基本的に時間外労働に対する給与の支払いが発生しないため、一般的な勤務形態よりも人件費がわかりやすくなります。

企業運営にかかるコストの中でも人件費は特に重要であり、コストが高くなりがちです。企業が経営状況やコスト削減を考える上でも、人件費を想定しやすくなる裁量労働制の導入が良い効果を生むでしょう。

労務管理の負担が軽減できる

企業にとって大きな負担となりやすいのが、労務管理です。労務管理で管理する対象は、労働時間や休日、福利厚生、賞与や手当など幅広く、従業員の働き方や法律などによってさまざまな状況に対応することが求められます。

特に、従業員それぞれの残業時間は毎月異なるため、従業員の数が多いほど給与計算にかかる時間的、人的コストは大きくなるでしょう。

そこで効果的なのが裁量労働制の導入です。この制度では休日や深夜の労働以外で、時間外労働に対する賃金の割増が行われません。そもそも残業時間という概念がないため、みなし労働時間から給与計算するだけで良いのです。

さまざまな業務に追われる労務管理担当者の負担を軽減できる点は、大きなメリットだといえるでしょう。

拘束時間の短縮に繋がる

裁量労働制は、仕事をした時間数よりも成果を重視する制度です。そのため、みなし労働時間よりも実働した労働時間が少なくても問題ありません。

これは労働者にとって、拘束時間が短くなるというメリットにつながります。業務を効率的に進め、短時間で仕事を完了させれば、後は自分の自由な時間として使えるので、ワークライフバランスが実現しやすくなるでしょう。

仕事に従事する時間が短くなっても給与が減らないため、従業員が仕事に前向きに取り組み、より短時間で業務を遂行しようと努力できるようになります。

自分のペースで仕事ができる

裁量労働制の対象となる職種のほとんどが、業務の時間配分や順序について指示がしにくいものです。従来の働き方では、所属部署の考え方や上司の指示に従って非効率になりがちだった業務が、裁量労働制の導入により効率化する可能性があります。

従業員本人が持っている専門性を十分に発揮して、自ら裁量権を持って仕事をできる環境を整えると、従業員が自分のペースで仕事を進められるようになるでしょう。

従業員それぞれが自分らしく進められる効率的な方法を考え実行することで、企業としての成果が生まれやすくなります。従業員にとっても、ライフスタイルに合わせた働き方が実現できるので働きやすさを実感するでしょう。

優秀な人材の獲得が期待できる

裁量労働制は働き方改革の推進を背景に、導入する企業が増えている制度です。なぜなら、裁量労働制は時間的な制約がなく、従業員本人が裁量権を持って自由なスタイルで働けるためです。

働きやすさの向上が期待できる制度なので、裁量労働制を導入している企業は求職者からの人気が高まりやすいでしょう。そのため、優秀な人材が応募しやすくなり企業の成長に大きく寄与します。

また、従業員が働きやすい環境を整えられるため、従業員満足度が向上します。その結果、優秀な人材の流出を防ぐこともできるでしょう。

裁量労働制の導入におけるデメリット

デメリットは5つです。

制度導入の負担が大きい

導入するハードルが高い点は企業にとって大きなデメリットだと感じられるでしょう。導入時の流れとしては、まず社内に労使委員会を設置しなければなりません。そのためには委員会の構成員の選定や、委員会運営におけるルールの策定などが必要です。

委員会を設置したら、委員会内で制度の対象となる業務範囲やみなし労働時間数、従業員の健康維持のための施策など、複数の項目について決議することが求められます。

その後、労働基準監督署へ制度導入に関する決議内容の提出を行います。そこまでして初めて制度が導入できるため、導入までの時間は長くなりがちです。さらに、委員会の運営をする人的コストの投入が必須なので、制度導入に踏み切りにくいのが現状です。

長時間労働が常態化する可能性がある

裁量労働制はみなし労働時間を決めて働くので、勤務時間が短時間になっても給与が減額されません。しかし、勤務時間が長くなった場合も、休日や深夜の勤務ではない限り、割増賃金は支給されず一定の給与が支払われます。

労働時間によらず給与が支払われる上、働く時間が従業員各自が決められる自由度の高さから、長時間労働が常態化するおそれがある点は裁量労働制のデメリットです。

2013年に労働政策研究・研修機構が実施した調査によると、裁量労働制で働く従業員の月平均労働時間が一般的な従業員を上回っているという結果でした。

企業は、過度な労働を規制する環境がない現状が原因で、従業員の肉体的・精神的健康を損なう可能性がある点に留意して制度を導入する必要があるでしょう。

基本的には残業代が出ない

従業員にとって大きなデメリットは、残業代が出ないことです。みなし残業時間を基準として給与が支払われる裁量労働制においては、業務にかかった時間は重視されません。休日労働や深夜残業は例外ですが、基本的に残業代が支払われないため、業務遂行に時間がかかると従業員の負担が大きくなるでしょう。

これは、従業員が「これだけ働いているのに給与が低い」と感じやすくなり、仕事に対するモチベーション低下の原因となります。

業務量と従業員の業務スピードのバランスが取れていなければ、従業員のやる気が低下して業務効率が落ちたり、離職を招いたりするので注意が必要です。

不法適用被害

裁量労働制は「残業代を支払わなくても良い」という理解から、労働者への不法適用を実行する企業が存在します。残業代を支払わずに人件費を削減しようとする誤った考え方のために、制度を悪用するのです。

実際には従業員本人が裁量を持って働けないような業務に制度を適用することで、企業本位の働き方を強要するなど、不法適用被害が報告されています。

企業は制度の対象業種を正しく理解し、不適切な制度利用をしないようにしなければなりません。企業によって、従業員の健康が害される可能性を考慮した運用を心がけましょう。

チームでの仕事がしにくい

裁量労働制は、従業員が各自で働く時間を設定できるため、業務内容によってはチームでの仕事がしにくいと感じられるでしょう。

例えば、対面またはオンラインでの打ち合わせが必要だったり、細かな確認が必要でリアルタイムのやり取りが必要になったりした場合、自由な時間で動く従業員同士が時間を合わせるのが困難になるでしょう。

時間の制約がない点はメリットですが、従業員間でのコミュニケーションをスムーズに行うためにも、フレックスタイム制によるコアタイムの導入も視野に入れて、導入する制度を検討することをおすすめします。

裁量労働制の導入方法

2つの制度の導入方法を紹介します。

専門業務型裁量労働制の場合

導入するまでには、5つの手順を踏まなければなりません。すべての手順を行っておかなければ、企業が専門業務型裁量労働制を導入できないため注意して進めましょう。

事前にしっかりと準備できればスムーズに制度の導入が完了し、制度導入のメリットをいち早く享受できるようになります。

具体的な導入方法を解説します。

手順1:労使協定を締結

まずは労働者と使用者との間で、業務に関する決まりごとをまとめた「労使協定」を締結します。これは、1つの企業ごとではなく制度を導入予定の事業場ごとに必要な点に注意しましょう。

この協定の締結において、内容が不十分だったり手続きに不備があると、協定を締結していても制度導入が認められない場合があります。不備のないようにしっかりと確認しながら進めることが大切です。

協定に含めるべき内容は以下の項目です。

  • 制度の対象となる業務の範囲
  • 業務の遂行手段や時間配分について、従業員に具体的な指示をしない旨
  • 具体的なみなし労働時間
  • 従業員の健康に配慮した具体的施策
  • 従業員からの苦情があった場合の具体的な措置
  • 協定の有効期間(基本的に3年以内が一般的)
  • 企業が講じた具体的施策を従業員ごとに記録し、有効期間終了後3年間は保存する旨

これらの項目は必ず協定に含めましょう。上記以外にも、対象の従業員と一般の従業員で条件が異なる項目があれば記載しておくと安心です。

一般従業員と異なる項目としては、時間外労働の取り扱いや休憩時間、休日労働や深夜労働をした場合の割増賃金の額などが挙げられます。

このとき、社内に労使委員会を設置しておけば委員会による決議が協定の締結に代えることができます。

手順2:協定届を作成

次は、「専門業務型裁量労働制に関する協定届」の作成が必要です。これは労働基準監督署に届け出る際に必要な書類なので、行政機関はこの届けを参照して制度導入の可否を確認します。

協定届には、「事業の種類」「事業場所」「業務の種類」「協定で定める労働時間」などの項目に記載が必要です。

具体的な記載方法については、厚生労働省が公開している記載例を見てみると分かりやすいでしょう。

手順3:就業規則を変更する

意外と見落としやすい工程に、就業規則の変更があります。協定を締結しても就業規則には反映されていません。そのため、就業規則の加筆や変更が必要ではないか確認することが重要です。

労使協定は、罰則の対象にならないことを証明する効力を持つ書類です。しかし、従業員を従わせる効力はないため、従業員の行動規範となる就業規則を更新する必要があるのです。

専門業務型裁量労働制を導入すると業務の始業時間や終業時間が変わり、従業員からの苦情やトラブルが発生しやすくなります。トラブルを未然に防ぐためにも就業規則を最新の状態に保つように心がけましょう。

就業規則へ含めたい項目例は以下の4つです。

  • 会社は従業員の業務内容によって専門業務型裁量労働を命じる場合がある
  • 専門業務型裁量労働制で勤務する場合、始業や終業時間が例外となる
  • 専門業務型裁量労働制で勤務する場合、休憩時間の定めに例外がある
  • 休日や深夜労働の際は申請が必要である

就業規則の変更にあたっては、具体的な記載文例を確認しながら慎重に内容を検討する必要があります。社労士や弁護士など、専門家に確認を取りながら内容を決定すると確実でしょう。

手順4:行政機関へ提出

協定届および内容を改めた就業規則は、従業員へ周知してから労働基準監督署へ届け出ます。

協定届は企業が一括して提出するのではなく、原則として事業場ごとに提出しなければなりません。一方、就業規則の変更届は企業の本社が一括して提出することが可能です。

手順5:雇用契約書を更新

各種届出を労働基準監督署に提出しても、制度の導入が認められただけで実際の導入には至っていません。最後に、制度の対象となる従業員との契約書更新を行いましょう。

雇用契約書の内容に、裁量労働制について締結した協定の内容を追加します。協定届と契約書の内容に齟齬が生まれないように、しっかりと確認を取りながら契約書を作成しましょう。

企画業務型裁量労働制の場合

導入までの手順は6段階に分けられます。専門業務型との違いは、制度導入後の報告義務があるかどうかなどが挙げられます。

具体的な手順について解説します。

手順1:労使委員会を設置

まず対象者がいる事業場に、労使委員会を設置します。この委員会は各種労働条件を調査し、適切な条件か審議する役割を持っています。

委員会の構成員には、労働者側と使用者側、両方の代表者が含まれていなければなりません。どちらか一方の代表者のみで構成されていると、決議内容に偏りが生まれやすいので注意しましょう。なお、構成員の人数に制限はありません。

設置する際の要件を紹介します。

  • 委員会構成員の半分以上が、事業場の労働者の過半数を代表する労働組合や労働者個人から、任期とともに指名されること
  • 委員会における会議は、毎回議事録を作成すること。作成した議事録は保存され、委員会に属さない従業員に対しても広く周知されること。

手順2:労使委員会での決議

社内における制度の具体的な内容を決める段階に入ります。詳細を決議するためには、その会議に出席している5分の4以上の人による賛同が必要です。

決議の内容が適切か判断するためにも、委員会内で十分な情報を共有しておくようにしましょう。例えば、制度の対象者候補の現在の雇用形態や評価制度などです。現状や課題点などを周知してから決議に臨むことで、公正な判断をしやすくなります。

基本的には以下の項目について決議すると良いでしょう。

  • 対象となる業務範囲
  • 対象となる労働者の範囲
  • みなし労働時間数
  • 従業員の健康や福祉を確保するための具体的な施策
  • 従業員からの苦情に対する措置の内容
  • 従業員個人から同意を得る場合や同意を得られなかった場合の取り扱いについて
  • 決議内容の有効期間(おおむね3年以内が一般的)
  • 従業員ごとに制度導入後の実施状況を記録及び保管すること

手順3:就業規則を変更する

従業員の働き方が従来とは大きく異なる制度なので、始業時間や就業時間、残業などの取り扱い方も大きく変わるでしょう。そのため、制度の導入にあたっては就業規則を最新の状態に変更する必要があります。

労働時間や給与の計算方法、割増賃金に関する記述など、新しい制度に関する情報を網羅的に記載し、従業員とのトラブルを防ぐようにしましょう。

手順4:行政機関へ届け出る

委員会で決議した内容は、所定の様式に従って提出します。提出先は所轄の労働基準監督署になります。このときの記載例は、厚生労働省が公開している記載例にならうと分かりやすいでしょう。

この制度は、委員会による決議だけでは導入できません。届け出を提出してようやく制度の導入が認められるため、必ず行うようにしましょう。

このとき、就業規則を変更した場合は一緒に改正届を提出するとスムーズです。

手順5:同意を取得

制度を導入後、実際に労働者に適用するためには、対象労働者本人の同意が必要になります。

同意を得る際は、制度の詳細を十分に説明し、書面での確認も行いましょう。具体的な手続きの流れや方法は、労使委員会で決議した内容に従うことが大切です。

制度の内容を聞いた上で、従業員から同意が得られない場合もあるでしょう。このとき、同意しなかった従業員に対して、解雇や減給などの措置を取ってはなりません。不当な扱いをしないように留意し、同意しなかった場合の扱いも委員会の決議内容に従いましょう。

手順6:導入手続きと報告

従業員の同意が得られたら、本格的に制度の導入がスタートします。ここで、事前に委員会で決議していた「従業員の健康と福祉を確保するための施策」や「苦情があった際の措置」などを実行します。

また、委員会で決議した日を起算日として、起算日から半年に1回は、実施状況を労働基準監督署に報告しなければならない点も重要です。

裁量労働制で残業代が発生する場合

みなし労働時間を設けて勤務する裁量労働制においては、残業代が発生しないのが原則です。しかし、例外として追加の給与を支払う必要がある場合があります。

間違って給与の未払いが発生しないように、どのような場合が例外なのか把握しておくことが大切です。例外について、具体的に紹介します。

時間外手当(みなし労働時間が8時間を超えるケース)

労働基準法では、従業員が働く時間数の上限を定めています。法で定められた基準にならい、企業は従業員に「1日に8時間、1週間に40時間」以上の労働をさせてはならないとされています。

そのため、裁量労働制で1日に8時間以上就業するとみなす場合は注意が必要です。法定の時間総数を超えた分は、残業として扱われるため時間外労働に該当するためです。

また、時間外の労働をした場合があると、給与計算のための労務上の手間が増えるといったデメリットを感じるかもしれません。時間設定は十分に注意して設定するようにしましょう。

しかし企業や職種によっては、みなし労働時間が8時間を超える場合があるでしょう。このとき、時間外労働分の割増賃金を計算して、過不足なく給与を支払う義務が発生します。

労働基準法の第37条では、残業したときなどの割増額は1時間あたりの給与に25%加算した額を支払うように規定しています。

具体的な計算式は「時間外に働いた時間数×単位時間あたりの給与額×25%」です。単位時間あたりの給与額は月ごとの支給額と月ごとの勤務時間総数を用いて導き出せるでしょう。このときの計算式は「(365日-年間休日数)×1日の勤務時間÷12」です。

なお、月に60時間以上の時間外労働をしたときは、割増率が25%から50%に引き上げられるので注意しましょう。

実際の数値を当てはめて計算してみます。仮にみなし労働時間を1日10時間としている企業で、時給換算1400円の従業員が勤務する場合についてです。この従業員は1日10時間働くので、法で定められた時間よりも2時間分多く勤務しています。そのため、割増分の給与を追加で支払う必要があるでしょう。

このときの1日あたりの割増賃金の額は、「2×1400円×1.25」より「3500円」だとわかります。

深夜手当(深夜残業の割増賃金)

一般的な勤務形態と同じく裁量労働制でも、深夜に勤務した際は賃金の割増が必要になります。労働基準法において深夜労働に当たる時間帯は「22時から翌朝の5時まで」です。この時間内に業務に従事した従業員には給与の割増が必要になるので注意しましょう。

この場合の支払額は、該当時間帯内で勤務した時間数と従業員個人の単位時間あたりの給与額から算出されます。基本的には25%分の金額が上乗せとなります。「単位時間あたりの給与額×深夜帯の労働時間数×0.25」の式で割増分の支払額が算出できるでしょう。

ここで注意しなければならないのは、時間外労働との関係性です。時間外労働が22時から5時の間に行われた場合には、深夜手当と残業手当の両方を重複して支払う義務があります。つまり、時間外に勤務した際に上乗せとなる25%と深夜に勤務した際に上乗せされる25%の両方を加算して給与を支払う必要があります。そのため、実際に適用される割増率は50%になるのです。

例えば、時給換算した給与額が1500円の従業員が法定労働時間の8時間を超えて、深夜23時から2時まで業務に従事した場合の割増額を計算してみましょう。

この勤務は深夜帯に行われている上、8時間を超えての勤務になるため、賃金が50%割増となります。そのため、従業員に手当として支払うべき賃金の額は「1500円×3時間×0.5」より「2250円」だと計算できるでしょう。

なお、深夜手当と似た言葉に「夜勤手当」があります。前者は法律で定められた支払義務のある手当です。後者は必ずしもすべての企業が採用する必要はなく、企業が任意で設ける福利厚生の一つです。混同しやすい言葉ですが、意味が異なるため使い分けに注意して取り扱うと良いでしょう。

休日手当(休日労働の割増賃金)

休日労働も賃金を割増で支払うべき対象となります。ここでいう休日とは、労働基準法で休日として定められている日のことで、企業が労働者に必ず与えなければならないとされています。

法律では、企業は従業員に週に1回の休日を与えることが義務づけられています。しかし、必ずしも週に1回ではなく、4週間に4日以上の休日があれば良いとされています。これらの法定休日に勤務する場合に、賃金を割増で支払う制度が適用されます。

割増率は基本的に35%とされており、労働時間数に応じた賃金の支払いが求められます。具体的な割増分の金額の計算式は「単位時間あたりの給与額×休日の労働時間数×0.35」です。

例えば、時給換算した給与額が1200円の従業員が、法定休日に13時から17時まで勤務したとしましょう。このときの労働時間数は4時間です。これより、割増額は「1200×4×0.35」から「1680円」だとわかります。

なお、状況によって割増率が合算される点に注意が必要です。休日の勤務と深夜帯にあたる7時間の範囲内での勤務が重なった場合、それぞれの割増率である35%と25%が合算されて割増率は60%になるのです。

裁量労働制の「比較データ問題」とは

昨今取り上げられる問題について解説します。

問題点

裁量労働制が注目された背景には、政府が推進する「働き方改革」があります。2018年1月の第196回国会答弁において、安倍晋三元首相は「裁量労働制の労働者は一般の労働者に比べて労働時間が短い」と発言しました。これにより、裁量労働制の導入が働き方改革につながるとしたのです。

しかし、発言の根拠とした調査データに400箇所以上の不備が見つかったことで、安倍元首相は発言を撤回。「比較データ問題」として世間に大きく取り上げられる事態となりました。

今後の動向

比較データ問題の発生により、2018年3月には働き方関連法案から裁量労働制の適用範囲の拡大に関する記述が削除されています。野党からは「定額働かせ放題」だと批判の声が多く、従業員の過度な労働を助長することが懸念されているのです。

2021年6月25日には正しい調査結果が発表されており、政府はこの結果をもとに「裁量労働制の在り方について検討していく」としています。

自社に適した制度の導入を

専門性や独自性を持つ職種の人に対して適用される裁量労働制。管理しにくい労働時間の裁量を従業員本人に委ねることで、柔軟な働き方を実現できる制度として注目を集めています。

しかし、適用範囲外の職種で裁量労働制を導入すると過度な労働を招きやすくなります。さらに、残業代を支払わなくても良いとして悪用する企業がいるのが問題視されています。企業は適切な運用方法に則って、裁量労働制を導入することが大切です。

裁量労働制は対象範囲によって、専門業務型裁量労働制と企画業務型裁量労働制に大別できます。導入方法や要件が異なる点に注意して、自社に適した制度の導入を進めましょう。

新しい制度を導入するのは容易なことではありません。労働者の心身の健康を保つためにも、しっかりと準備をして着実に進めていくことをおすすめします。