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社宅が注目されている理由は?制度を導入するメリットと準備の流れを解説

社宅がある会社へ就職・転職を希望する方や、社宅の新設を考えている企業は多いかもしれません。近年、日本の給料が上がりにくい中で、給料以外の付加価値で差別化を図る企業が増えました。

その中で注目されているのが社宅です。社宅は従業員側・企業側双方にとってメリットがあります。そこで今回は社宅のメリットや準備する流れについて、利用者と雇用者の両面から解説していきます。

社宅とは?

社宅とは会社が保有している住宅です。社宅を従業員へ提供する仕組みは社宅制度と呼ばれ、多くの社員が利用しています。

社宅制度が浸透している大きな理由として、家賃の安さがあげられるでしょう。周辺の家を借りるよりも約2~5割程度で借りられるため、とくに子育て世帯は経済的にも安心です。

加えて収入が低い新入社員や、転勤で出費がかさみがちな社員に取っても喜ばれる制度と言えます。

社宅の目的

ここからは社宅の目的について解説します。

福利厚生制度の充実

福利厚生とは給料以外で、社員やその家族へ勤務の対価として提供するサービスです。社宅以外にも、社員食堂の利用やレジャー施設の割引制度などがあります。制度が整っていれば働くモチベーションへとつながるのも事実。そのため、就職や転職では福利厚生制度に注目する方が増えています。

また、制度を充実させるメリットは利用者だけではなく、企業側にも大きな利点があるのです。福利厚生は経費として計上できるため、節税効果につながります。給料を上げると企業も社会保険料の負担が大きくなるものの、福利厚生制度を整えても保険料の負担が大きくなることはありません。なぜなら福利厚生は給料扱いにならないからです。このような背景もあり、社宅の提供で制度を充実させる企業も増えています。

転勤対応のため

転勤は経済的負担が増長します。敷金や礼金を負担してくれる企業であれば良いものの、自費でまかなうとなれば負担は大きいです。加えて地方から都内へ転勤する場合、家賃は1.5~2倍近く上がるケースもあるでしょう。このような金銭的負担を最小限にするため、社宅を導入しています。

また、転勤時は経済的負担によるストレス以外にも、引っ越し時に大きな気苦労が伴うのも事実。例えば「家が空いているけど治安は悪そう」「周囲にフラッと買い物できる場所が無い」などの悩みがつきまといます。社宅は安心安全で暮らしやすい場所に建てるのが一般的。様々なストレスから解放され、仕事に集中できる環境を整えられるのも社宅の魅力です。

人材採用時のアピール

社宅に心惹かれる方はイメージ以上に多いのも事実です。例えば就職活動時、2社どちらに入社するか迷っている場合、最終的に社宅のある企業を選ぶ方は多いかもしれません。

社宅に住むメリット以外にも「資金に余裕のある企業だから将来的にも安心だな」「福利厚生が整っていて従業員思いの会社なんだな」などと感じます。社宅が備わった事実から波及し、その会社のイメージが良くなるのです。

結果的に社宅があれば、人材採用時に大きなアピールにつながります。実際に名の知れた企業は社宅を持っているケースが多いのも事実。もしくは後述する住宅手当を手厚くしています。

従業員が職場の近くに住むことができる

社宅は一般的に職場の近くに建てられます。徒歩数分で行けたり、2駅ほど離れた場所にあったり、通勤には困らないでしょう。ゆえに通勤時のストレスが大幅に軽減できるのはメリットです。

徒歩で会社に行けば、通勤ラッシュに巻き込まれる心配はありません。たとえ電車通勤だとしても、長時間人混みにいる時間は防げるはずです。結果的に朝からストレスなく仕事へ取り掛かれ、すがすがしい気持ちで一日を過ごせます。

また、通勤時間が短縮できれば、朝はゆっくり資格勉強や趣味の時間に使うのも良いでしょう。プライベートな時間が充実できれば、仕事へのモチベーションも一層上がります。

社宅と寮の違い

社宅と寮は両者とも「企業が提供している住宅」の意味です。福利厚生の一部として会社が提供している点も同様。安価な家賃で借りられる点も同じなため、違いがはっきり分からない方も多いでしょう。実際に2つの差はほぼなく、唯一違いがあるのは提供する対象です。一般的には家族向けを社宅、一人暮らしの対象は寮と区別しています。

そのような背景から、社宅は部屋が広いのも事実。2LDKや3LDKといった間取りも多く、3~4人家族でも安心して住めるでしょう。一方、寮は一人暮らしに向けたワンルームや1Kの間取りが一般的です。社宅と比べて部屋は狭くなるものの、寮には食堂やコミュニティスペースが備わっているケースもあります。

社宅制度と住宅手当の違い

社宅制度と住宅手当は似て非なるものです。住宅手当とは従業員の給料に手当を上乗せさせ、家賃負担額を軽くする手当です。社宅制度と同じく福利厚生の一部であり、高額な家賃を毎月支払う従業員にとっては重宝がられる手当と言えるでしょう。支給額は一般的に15,000~20,000円です。社宅制度と違い、自分の好きなエリアや好みの家に住めるのが大きなメリット。

一方、自分で家を探す手間が発生するのはデメリットでしょう。加えて住宅手当は金銭支給のため、所得税や社会保険料の対象となります。社会保険料にいたっては従業員と企業が折半であり、会社にも負担がかかるのも事実。そのような面から、近年は住宅手当から社宅制度へ切り替える企業も増えています。

社宅の種類

ここからは社宅の種類について解説します。

所有社宅

社宅と聞いてすぐに思い浮かぶのは所有社宅でしょう。所有社宅とは文字通り、企業に所有権がある社宅です。企業の保有物であり、立派な財産となります。登記料や借入金の利息は経費として扱うことも可能です。

また、いざとなれば所有社宅を賃貸住宅へと切り替えられるのもメリットでしょう。社宅制度を利用する従業員がいない場合、一般の方へ個別の貸し出しも可能です。それでも希望者がいなければ社宅を取り壊し、土地を販売する方法も考えられます。

このように企業側にとって、所有社宅は融通が利きやすいのです。一方で管理・修繕費が掛かったり、固定資産税が発生したりするデメリットも念頭に置いておきましょう。

借り上げ社宅

借り上げ社宅とは住宅を不動産会社経由で借り、社員へ貸し出す社宅です。企業側は毎月管理会社へ家賃を支払わなければならないものの、所有住宅にある管理費や修繕費などを負担する必要はありません。物件購入時にあるハードルの高さもないため、海外駐在者や国内異動者に向けて気軽に借りられるメリットも大きいでしょう。

さらに、所有住宅と同じく金銭支給ではないため、社会保険料の負担がほぼないのも利点です。このように所有住宅と比べて金銭面の導入障壁が低いため、最近では借り上げ社宅を採用する企業も増えてきています。

社宅のメリット

ここからは社宅のメリットについて解説します。

企業側のメリット

企業が社宅を導入する代表的なメリットは、採用活動へ好影響を与える点です。ここ数年の就職活動は福利厚生や働き方に注目する方が増えています。

以前までは企業に対する年収の高さが注目されていたものの「いかにプライベートも充実させられるか?」「仕事と趣味を両立できるか?」などにフォーカスする方が増加中。それは若者の仕事に対する価値観が時代とともに変わってきたからです。

そのため、福利厚生が充実した企業は自然と応募も集まりやすいでしょう。結果的に優秀な人材を採用しやすく、企業のイメージアップにつながります。

従業員のメリット

社員が社宅を利用するメリットは何と言っても金銭面でしょう。想定家賃よりも30~50%程度で借りられるのは嬉しい点です。

とくに20~30代の若い方にとって、仕事以外の面も充実させたいと考える方は多いはず。例えば「お金をためて海外留学してみたい」「できれば自分磨きにお金を多くまわしたい」「起業するための勉強費用が必要」など、夢や希望を持つ人もいるでしょう。

社宅を利用すれば、お金が貯まりやすい環境に身を置けるのです。結果的に夢が叶いやすくなるメリットもあります。さらに、従業員は新たに家を探す手間もありません。契約や手続きにかける時間や労力がなくなるため、仕事に集中できるのです。

社宅のデメリット

ここからは社宅のデメリットについて解説します。

企業側のデメリット

所有社宅の場合、社宅を自社で管理しなければいけないデメリットがあります。例えば外壁が老朽化したり、エレベーターが故障したりすれば、あらたにメンテナンス費用が発生します。さらに賃貸では発生しない固定資産税も頭に入れておく必要があり、金銭面において負担が生じるでしょう。

また、借り上げ社宅の場合においても、少なからず経済的負担が掛かります。例えば、退職後に次の入居希望者があらわれなければ、空白期間が発生。その間も家賃を支払わなければいけません。いずれにしても社宅を導入する際は、ある程度の費用が必要になるのは念頭に置いておきましょう。

従業員側のデメリット

社宅は会社側がエリアや間取りを決めて購入するため、従業員は自分好みに選べません。たとえ希望地域や好みの部屋でなくても、従わなければいけないのです。加えて、一般的に他の従業員も同じ社宅や寮に住みます。プライバシーの保護は徹底しなければいけない場面もあるでしょう。

例えば、恋人が自分の寮に来る場合、他の方に見つかる可能性もあります(社内規定で異性を入室させてはいけない場合もあり)。それが社内恋愛であると、最悪の場合は異動に発展するケースも。このように社宅や寮を利用する場合、行動面で制限されやすいのは覚えておきましょう。

社宅の家賃、課税

ここからは社宅の家賃と課税について解説します。

賃貸料相当額が基準

一般的に社宅の平均家賃は公表されていません。なぜなら、エリアによって額が大きく異なるため、平均値を出したくても出せない事情があるからです。

そして、もう一点重要なのは家賃を非課税とするケース。家賃を課税の対象外とさせるには非給与扱いとしなければいけません。

非給与扱いとさせるには賃貸料相当額が基準であり、その額の定義は「(その年度の建物の固定資産税の課税標準額)×0.2%」「12円×(その建物の総床面積(平方メートル)/3.3(平方メートル))」などです。社宅を貸し出す場合はこの算出式を把握しておきましょう。

給与として課税される場合

賃貸料相当額を課税しなければいけないのは無償提供する場合です。この場合は全額課税対象となるので注意しましょう。対策としては従業員から金額を受け取る方法。賃貸料相当額より低い金額を受け取れば、家賃と賃貸料相当額の差額が課税されるだけです。

また受け取り額が賃貸料相当額の半分以上である際、上記の差額は課税されません。このような事実を真に受け「じゃあ家賃を半分負担してもらおう」と考えがち。「賃貸料相当額=家賃」ではないため、半分負担では多すぎるケースもあります。一般的には1~3割負担が良いとされているため、前述した算出式と照らし合わせて決めていきましょう。

課税されないケース

前述したケースとは例外に課税されないケースがあります。それは看護師・医師・守衛などの長距離移動が困難な職業です。日本の中でもとくに国民から必要とされる仕事と言えます。例えば医師の場合、通勤に時間が掛かれば人の命を失いかねません。看護師も同様、命にかかわる仕事はそれなりの待遇が必要となるのです。そのため従業員へ社宅を無償で提供しても、課税はされません。

社宅を準備する流れ、ステップ

最後に社宅を準備する流れとステップについて解説します。

フロー1:物件探し

まずは物件探しからはじめていきましょう。所有社宅と借り上げ社宅によって踏むステップは異なるものの、いずれにしても不動産会社への依頼からスタートします。「どの場所に建てたい(借りたい)のか?」「部屋の間取りはどれくらいか?」「いつまでに社宅が必要なのか?」などを整理した上で、担当者へ相談していきます。

提案された物件と予算を照らし合わせ、条件に合う物件が見つかったら下見の開始です。また、物件探しの際は担当者との相性も確認していきましょう。今後長い付き合いが予想されるため、信頼の置ける担当者かどうかの確認も必要です。

フロー2:下見

物件の目星が付いたら下見をしていきます。まれに下見をせず購入してしまう方もいますが、一度自分の目で見てから判断するのが安全でしょう。なぜならホームページの情報と違っていたり、画面と実物では見え方が異なっていたりするからです。そのためにも部屋の雰囲気だけでなく、住宅周辺の環境もチェックする必要があります。

また、確認する際は日にちや時間帯をずらして見学するのもおすすめです。例えば方角によっては日の入り方が時間によって異なる場合もあるでしょう。週末に限って住宅周辺が騒がしく感じる瞬間もあるかもしれません。この先長く社宅制度を継続する予定があるなら、なおさら異なるシチュエーションで下見しておきたいところです。

フロー3:申し込み

下見をして希望通りの条件であれば、不動産会社へ申し込みをします。一般の方が家を借りる流れとほぼ変わりません(所有住宅の場合、企業は住宅ローンが利用できないのは念頭に置いておきましょう)。申込書に必要事項を記入し、審査をしていきます。住宅ローン審査とは異なるため、比較的通過ハードルは低いでしょう。

審査結果は数日、遅くても約1週間以内には結果が出ます。申し込みの注意点は「希望を出そうと思ったら先約があった」「必要書類を揃えるのに時間がかかった」などでスムーズに行かないケースも。スピード感を持った行動が必要です。

フロー4:内容調整

審査が通過すると内容調整に入ります。一般の方が家を借りる場合はこのステップはありません。企業が社宅として契約する際は会社の規定に沿って調整していきましょう。また、実際の引き渡しまでには、入居する従業員の住民票・本人確認証・認印などが必要になります。とくに住民票はマイナンバーカードがなければ、取得に時間がかかる場合も。前もって必要書類を準備してもらうよう、従業員への告知が不可欠です。

フロー5:契約締結

不動産会社と企業で内容の調整が完了後、契約を締結していきます。基本的には企業が窓口になって不動産会社とやりとりを行うものの、場合によっては従業員と不動産会社が直接やりとりするケースも。なぜなら保険関連は企業と従業員どちらが負担するかで、対応が変わってくるからです。

例えば火災保険は企業によって従業員が負担する場合もあり、その場合は不動産会社と従業員で直接やりとりを行います。火災保険についてはどちらが負担しても問題なく、トラブルを防ぐためにも事前確認を取っていきましょう。

フロー6:鍵の引き渡し、入居準備

契約が締結したら鍵の引き渡し及び入居準備を進めていきます。ここでポイントとなるのが家具や家電です。会社側があらかじめ用意するのか、あるいは従業員自身で準備してもらうのか。それぞれメリットが異なるため確認しておきましょう。

会社側が用意する場合、従業員の金銭的負担を軽減できる利点も相まって、採用でのアピールにつながります。反対に従業員自身で準備する場合、好きな家電や家具を揃えられるメリットがあります。入居準備に大きく関わる部分のため、社宅制度導入時はどちらを採用するか考えておきましょう。

メリット・デメリットを理解した上で、制度導入を検討しましょう

社宅制度は人材採用時のアピールや転勤対応のためにある制度です。とくに最近は年収ややりがいよりも福利厚生に目を向ける方が多いため、制度を導入しているだけでもアピールにつながります。社宅には所有社宅と借り上げ社宅があるものの、はじめて制度を導入する方は借り上げ社宅がおすすめです。物件や土地購入といった大きな出費がなく、比較的スムーズに導入できるのもポイント。ぜひこの機会に導入を検討してみましょう。