スキルマップ(スキル管理表)とは?導入メリットや運用方法を解説【テンプレート付】

人材育成や適切な人員配置、評価制度の見直しに取り組む企業が注目しているのが「スキルマップ(スキル管理表)」です。
従業員一人ひとりのスキルを可視化し、育成や配置に活かせるこのツールは、製造業をはじめとした現場系の企業で特にニーズが高まっています。
本記事では、スキルマップの基本的な仕組みから、導入のメリット、具体的な運用方法やテンプレート活用法までを詳しく解説します。
スキルマップ(スキル管理表)とは
スキルマップ(スキル管理表)とは、業務スキルと従業員の能力レベルを一覧化し、人材データを戦略的に活用するためのフレームです。
ISO9001の「力量管理」対応にも有効で、組織の生産性・柔軟性の向上に寄与します。
スキルマップ(スキル管理表)の定義
スキルマップ(スキル管理表)とは、業務に必要なスキルと、それに対する各従業員の習熟度を一覧で可視化する表のことを指します。
業種や職種に応じて必要なスキルを整理し、誰がどのスキルをどの程度保有しているのかを明確にすることで、育成計画の立案や人員配置の最適化、業務の属人化リスクの低減に役立ちます。
なお、スキルマップは「スキル管理表」や「技術マップ」とも呼ばれます。
対象となるスキル
スキルマップで可視化するスキルには、大きく3つの種類があります。
・テクニカルスキル:業務遂行に必要な技術や知識(例:機械操作、プログラミングなど)
・ヒューマンスキル:コミュニケーション力やチームワークなど、対人関係に関わる能力
・コンセプチュアルスキル:論理的思考力や課題解決力、経営的視点など、抽象的思考力
これらを業務内容に応じて具体化し、スキルマップの項目として設定します。
スキルマップ(管理表)の例
スキル管理表は「業務上必要なスキルを詳細に分類し、項目別にその社員がどれくらいのレベルで業務を遂行できるのか、数字や記号などで評価できるように一覧になっているもの」が一般的です。
- 社員がどのスキルを持っているか
- スキルの習熟度はどれくらいか
- それぞれの社員がスキルを発揮できる部署はどこか
- 不足しているスキルは何か
- 社員を今後どう育成すればよいか
などが一目でわかります。
また一人一人のスキルだけではなく、組織全体の人員配置のバランスやスキル総量も見えるため、部署ごとに人材の偏りがある場合、補充の優先度が適切に分析できます。例えば業務上必要な専門的スキルを習熟した人材が部署に一人しかいないなど、潜在リスクも可視化されます。
以下が、スキル管理表の一例です。

スキルマップ(スキル管理表)とISO9001の関係
ISO9001の「7.2 力量」では、組織は業務に必要な力量を特定し、教育・訓練・評価によってこれを確保することが求められます。
スキルマップは、この要求事項への対応手段として非常に有効です。
各従業員のスキルを明文化・可視化することで、組織全体の力量把握と維持・向上の仕組みを整えることができます。
スキルマップ(スキル管理表)の7つの導入メリット
従業員のスキルを可視化できる
スキルマップを導入すると、個々のスキルを一覧で把握できるため、従業員ごとの得意・不得意や、組織全体の強み・弱みを客観的に可視化できます。
属人化していたスキル情報を整理することで、育成・配置・評価のあらゆる場面で活用可能です。
目標設定が円滑になる
スキルを数値化・段階化することで、数値化された目標が設定しやすいため、上司と部下間で認識のズレが起きにくくなります。
中長期的なキャリアプラン設計や、定量的な目標設定がしやすくなるのも特徴です。
客観的な評価がしやすくなる
評価項目をスキルマップに基づいて設定することで、スキルに基づいた客観的な評価がしやすくなり、キャリア開発の道筋も示しやすくなります。
上長にとっては、感覚に頼らない公平な評価が可能になります。
評価と育成を連動させることで、従業員の納得感や成長意欲を高めやすくなります。
従業員に合った育成・配置が可能になる
部署や役職によって、業務上必要なスキル、伸ばすべきスキルは異なります。
部署や役職に応じたスキル管理表を作成することで、その部署・社員がどんな弱みを持っているのかを把握し、部署や社員に合った適切な人材育成や研修ができるようになります。
スキル習熟度や適性に応じた育成計画が立てやすくなるので、業務に最適な人材を配置し、従業員のパフォーマンス向上と組織の柔軟性強化につながります。
従業員のモチベーションアップにつながる
従業員にとっては自身のスキルや成長が可視化されることで、自己理解や達成感を得やすくなります。
また、会社がスキルを評価してくれているという実感は、従業員エンゲージメントの向上にも寄与します。
課題の可視化で業務改善がしやすくなる
スキルマップを実践し、上手く活用することによって、業務上のボトルネックや教育の空白領域が明らかになります。
このような情報は、業務フローの改善や人材戦略の再設計にも活かせます。
個人のスキルを可視化して弱みを把握し、人材育成などの具体策を明確化することで、組織全体の業務改善・レベルアップも可能となります。
組織におけるリスク管理が可能になる
技術・技能の伝承が進まず、特定の人に業務が偏る「属人化」は、特に製造業などで大きな経営リスクになります。
スキルマップを活用すれば、誰が何をできるかを明確にし、引き継ぎ・教育の計画を立てやすくなります。
スキルマップ(スキル管理表)のテンプレート
企業によってスキルマップの項目を統一しているケースもあれば、さらに細かく部署ごとに設定している場合もあります。
一般的にフォーマットはマトリックス図で形成されています。Excelなどで設計すれば、時間をかけずに誰でも簡単につくれるのが特徴です。「導入するのに費用がかかりそう」「つくるのに時間を要しそう」といった方も安心して運用することができます。
厚生労働省提供のテンプレート
厚生労働省は、中小企業でも活用できる職業能力評価シート形式のスキルマップのテンプレートを公開しています。
業務別・職種別に汎用的に使える構成で、スキルの棚卸や教育訓練の設計に活用可能です。Excel形式でダウンロードでき、自社向けにカスタマイズしやすい点も特徴です。
業務ごとに必要なスキルを定義し、従業員の保有スキルレベルを一覧で管理できる形式ですので、ご興味をお持ちの方は下記内容よりご利用ください。
IPA提供のテンプレート
IPA(独立行政法人情報処理推進機構)が公開する「情報システムユーザースキル標準(UISS)」は、企業のIT活用に必要なスキル体系を整理した指標です。
業務ごとに求められるスキルを明確化し、社内教育や評価基準の整備に活用できます。
Excelでスキルマップを作る方法
Excelでスキルマップを自作する場合は、以下のようなステップで進めます。
- 行に従業員名、列にスキル項目を配置する
- 各スキルに対して、評価基準を設定(例:5段階)
- 色分けなどで視覚的に管理しやすくする
業務内容に合った項目設計と、定期的な更新を前提に設計するのがポイントです。
スキルマップ(スキル管理表)作成の9ステップ
スキル管理表を作成して運用するまでには、8つの手順があります。
以下で、8つの手順を詳しく紹介します。
準備編
①作成目的を明確化する
まずは、なぜスキル管理表を作成するのか、どのように活用するのか、何を改善したいのかなど、目的を明確にしましょう。
②作成責任者を決める
スキル管理表を誰が作成するのかを決定します。組織全体のスキル管理表を社長が作成するのか、各部署ごとのスキル管理表を部署の責任者が作成するのかは、組織や業態により異なります。
どのような役職・階層の人が作成するのかをまず決定し、作成責任者を決定します。
③スキル項目を整理する
スキルの項目は粒度や定義が曖昧になりやすいため、「図面読解」や「安全管理」など名称を明確に付けて整理しましょう。
設計編
評価基準を決める
厚生労働省ではスキル区分を4段階に分け、「レベル1~レベル4」と分類しています。
自社に合わせて評価段階を増やしても問題ありませんが、段階を細分化しすぎるとかえってわかりにくく、評価がしにくくなります。
自社の役職制度などと(1)で決めた段階を合わせ、合わない部分があれば微調整を行いましょう。
フォーマットを作成する
整理したスキル項目と設定した評価基準をもとに、誰が見ても分かるようスキルマップを構造化・一覧化して作成します。
運用編
テスト運用・ブラッシュアップする
これまでに作ったスキル管理表を組織内でテスト導入し、組織内のフィードバックを回収します。
ここで不要な項目や不足している項目がないかを調査し、フィードバックを反映させ、スキル管理表の調整を行います。
マニュアルを作成する
スキル管理表の使い方や見方、記入方法、評価基準など、見た人がスキル管理表を詳しく理解できるようなマニュアルを作成します。
マニュアルには、誰が評価するのか、誰がスキル管理表を管理するのかも制定し明記します。
各従業員のスキルマップを作成する
マニュアルまで出来上がった後は、評価をする人が社員一人一人のスキル管理表を作成していきます。
組織への定着を図る
社員への通達・定着化を図ります。例えば、社宝で通知したり、会議で会議資料として実際に用いたりします。
スキルマップ(スキル管理表)運用の5つのコツ
スキルマップは作成して終わりではなく、継続的な運用が成果を左右します。
現場で形骸化させず、評価・育成に活かすためには、実務に即した工夫とルールが欠かせません。ここでは、運用を定着させるための5つのポイントを紹介します。
①評価者を明確にする
誰が社員の評価を行うのかを明確にします。管理職が評価を行う場合もあれば、担当が評価したものを管理職が確認する場合もあります。
誰が評価するとどうなるのか、メリット・デメリットを分析し、社内状況に合わせて評価者を検討することが重要です。
②スキル項目は業務と連動させる
スキルマップに設定するスキル項目は、抽象的な能力ではなく、実際の業務と直結した内容にすることが重要です。
たとえば「リーダーシップ」などの抽象的スキルだけでなく、「設備点検の手順理解」や「製造ラインの異常検知」など、業務プロセスごとに必要なスキルを具体的に整理しましょう。
これにより、評価・育成・配置の指標として実務に活用しやすくなります。
③具体的な評価基準を設定する
スキルマップにおける評価は、単にスコアやランクを付けるだけでは不十分です。各レベルで期待される行動や成果を具体的に明文化することで、従業員は評価結果に納得しやすくなります。
また、どのレベルを目指せばよいかが明確になるため、育成目標の設計やフィードバックの質向上にもつながります。評価基準は運用初期から精緻に設計しておくことが重要です。
④スキルマップを定期的に更新する
スキル管理表を定期的に更新します。業務内容が変わったり組織構造が変化すれば必要なスキルも変わるためです。
半年ごとや人事異動ごとなど、更新するタイミングを決めておき、その都度スキル管理表を更新します。
⑤評価後のアクションを決める
スキル管理表での評価後、どのように弱みを強化し強みを伸ばしていくのか、人材育成の方針を検討します。
複数名が同じ課題を抱えている場合、セミナーや勉強会を開く手もあります。
スキルマップ(スキル管理表)の導入事例
スキルマップの導入事例について解説します。
株式会社富士通マーケティング
株式会社富士通マーケティング(以下、富士通マーケティング)はソフトウェア開発からコンサルティングまでを手がける、情報通信サービス会社です。
その中でも無線工事やネットワーク施工を行うコンストラクション事業本部において、スキルマップが導入されています。コンストラクション事業本部は業務の幅が広く、内容も複雑であるため、評価がスムーズにいきませんでした。
以前までの評価基準は資格の有無が中心だったのも、正当に評価しきれていなかった状況を物語っています。
そこで富士通マーケティングではスキルマップを導入しました。大項目は「能力ユニット」、中項目は「能力項目」、小項目は「職務遂行のための基準」で分けています。
例えば大項目には「施工管理」、中項目には「段取り打ち合わせ」、小項目には「打ち合わせの内容を正確に把握し、上司や同僚に報告している」とあります。
評価基準は1~5にとどまらず、3.5や4.2のように小数点をつけているのもポイントです。これによって個々の課題が明確になり、育成方針がはっきりしました。
トヨタ自動車株式会社
トヨタ自動車株式会社(以下、トヨタ自動車)は誰もが知る日本を代表する自動車メーカーです。
育成方針は「多能工」の輩出であり、多能工とは一人が複数の作業を担う社員です。元来トヨタ自動車では単能工(一人がある作業に特化)を採用していましたが、多能工の効率性の良さに注目して導入を開始しました。
とはいえ、従業員増加と多能工の採用をきっかけに、人事評価は困難を極めていたのも実情です。社員が増えれば評価にかける時間が増えます。
多能工の導入によって評価項目が多くなれば、さらに評価に費やす時間は増えるのです。そこでトヨタ自動車はスキルマップを採用しました。
トヨタ自動車のように従業員数が多い企業では、スキルマップによって評価業務の効率化と公平性が向上しました。
これにより、業務効率はアップし、社員のモチベーションは上がっていきました。
株式会社星野リゾート
最後は、株式会社星野リゾート(以下、星野リゾート)を紹介します。星野リゾートはホテル・旅館・スキー場などを経営する総合リゾート会社です。
星野リゾートは現在のトヨタ自動車と同じく、多能工社員の育成にこだわっています。もともと単能工社員の育成に注力していましたが、生産性向上のために多能工育成へと切り替わりました。
星野リゾートの多能工社員は一人で調理・フロント・ハウスピーキングを行います。ホテル業界における多能工は効率化を図れるものの、一人の業務負担が増えるデメリットもあります。
星野リゾートはスキルマップによって全社員のスキルを可視化し、育成に役立てたのです。スキルが上がれば、たとえ業務量が増えてもスムーズにこなせます。
その狙いは成功し、星野リゾートは人事面における問題が解消されました。現在はチームワークがより向上し、売上は年々上がり続けています。
スキルマップ(スキル管理表)で人材育成を強化しよう
スキルマップ(スキル管理表)は、従業員一人ひとりのスキルを可視化し、評価・育成・配置のあらゆる場面で活用できる有効な手段です。
属人化しがちなスキル管理を仕組み化することで、組織全体のスキルレベルを底上げし、中長期的な人材戦略を支える基盤にもなります。とはいえ、スキルマップの設計や運用には一定の労力やノウハウが求められます。
そうした課題を解決するのが、スキル管理クラウド「スキルナビ」です。テンプレートをもとに自社に合わせた柔軟な設計が可能で、スキルの可視化から評価・育成まで一気通貫で支援します。スキルマップをもっと効果的に活用したい方は、ぜひサービス紹介ページをご覧ください。