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人時生産性とは?正しい算出方法と人時生産性向上のための具体的な方法

人時生産性とは?

働き方改革が推進される昨今の風潮やグローバル化に伴う国際競争の激化に対応するために、「生産性向上」が課題となっている企業が増えつつあります。

生産性を図る指標は複数ありますが、中でも従業員個人に焦点を当てた「人時生産性」に注目が集まっています。

今回は人時生産性とは何か、具体的な算出方法と向上のための方法を紹介します。

人時生産性とは?

そもそも「生産性」とは、投入した時間や金銭、労力などのインプット量に対してどれだけの成果(アウトプット)が得られたかを測る指標です。そして、「人時生産性(にんじせいさんせい)」とは、従業員一人当たりの単位時間当たりに生み出した粗利高を意味しています。

算出された数字が大きいほど従業員の生産性が高く、会社全体の生産性向上に寄与しているといえるでしょう。人時生産性は評価対象を労働力に絞っている点が特徴です。

人事生産性を算出し、生産性向上を目指していくことは今後の競争社会を生き抜く上でも重要です。なぜなら、国境による制限もなく世界的に各社が競争する国際競争が当たり前の時代に突入しているからです。

会社がしっかりと世界に通用する競争力をつけているか、成長を続けているかを確認する意味でも参考になる値なので、適切なサイクルで人時生産性の評価と分析、検証、改善策の実行をしていくと良いでしょう。

労働生産性との違い

「生産性」というと、一般的には「労働生産性」のことを指します。労働生産性とは、会社が投入した労働力全体に対してどれだけの利益を得られたかを測る指標です。

労働力としては従業員の総数を基準としたり、従業員全体での労働時間を基準としたりするため広い意味で用いられます。それに対して人時生産性は従業員一人が一時間当たりに生み出した成果を算出する指標であるため、より厳密に正確な数値が得られるのです。

ただ、会社全体の生産性を求める際には数ある指標のうち一つだけを参照するのではなく、複数の指標を組み合わせて総合的に判断する必要があるでしょう。あらゆる視点から生産性を分析して会社の課題点や生産性向上への糸口を見つけ出すと効果的です。

人時売上高との違い

スタッフ1人が1時間で、どのくらいの売り上げになったかを表したのが人時売上高です。人時生産性と異なる点として、素材やマンパワーをどのくらい消費したかを念頭に入れているかです。後者は1人が1時間のなかで作り出した成果を中心に計算しますが、前者は単純に売り上げだけを考慮します。

その点から、同じ職種間での生産性を比べるときにも役立ちます。どちらも考え方は違いますが、会社がプラスアルファの価値を作るために、ビジネス戦略の構築をする材料として活用されているのです。

どちらかの考えに偏るのではなく、2つの視点から抽出されたものを解析し、全体的に判断することが大切です。

生産性が注目されている理由

生産性向上が課題となっている背景には、時代の変化が関係しています。現代において生産性が注目を集めている理由は、大きく分けると以下の2つが挙げられるでしょう。

  • 労働人口の減少

労働人口とは「15 歳以上の人のうち就業者と完全失業者を合わせた人の数」を指しますが、少子高齢化の影響もあり労働人口は減少の一途を辿っています。1995年頃には8000万人を突破していた日本の労働人口が、2060年には4793万人になると予測されているのです。総務省が発表する今後の日本の人口割合を見ると、2060年には65歳以上の高齢者が全人口の38.1%を占めるとされており、世界的にも珍しいほどの超高齢化社会に突入するのです。

今後も減少が続く労働人口に対応するためには、限られた労働力でより効率的に成果を生み出すことが重要です。そのために、生産性を測ることに意義があるのです。

  • 働き方改革の影響

2019年4月1日、厚生労働省により働き方改革関連法案の一部が施行されました。働き方改革では長過ぎる労働時間の改善や、正規雇用と非正規雇用の格差をなくし、人種や年齢によらず就業できる、「多種多様な働き方を選択できる社会の実現」を目指しています。

この改革によって各企業には短時間でより成果を上げる必要性が浮上し、生産性向上に注目が集まるようになりました。主要な先進国の中でも労働生産性が最下位に位置している日本において、生産性は全社的な課題なのです。

人時生産性の算出方法

人時生産性は「従業員全員での粗利益高÷総労働時間」で算出されます。この値が高いほど従業員一人の時間当たりの粗利率が高いといえるでしょう。

もちろん、従業員全体ではなく個人単位での算出も可能です。ただし、多くの仕事は個人ではなくチーム単位で進めていたり、各部署が複雑に関係したりして利益を生み出しているため、個人単位での算出が必ずしも適切ではない場合もあると理解しておく必要があります。

具体的には以下のように求められます。

Q.粗利高200万、従業員全体の総労働時間が200時間の場合の人時生産性は? 

計算式に数値を当てはめてみると「200万÷200時間」で計算できます。これより、この会社の人時生産性は「10,000円」であると分かるでしょう。

さらに、2社を比較してみます。

Q.以下のA社とB社ではどちらの方が、人時生産性が高いといえるでしょうか。

  • A社の従業員は30人、それぞれが40時間ずつ勤務して、売上高が400万円、粗利益高が240万円
  • B社の従業員は30人、それぞれが100時間ずつ勤務して、売上高が600万円、粗利益高が400万円

成果のみに着目するとB社が多くなっています。しかし、計算してみるとA社の人時生産性は2000円、B社は約1333円になります。これにより、A社の方が生産性が高く、効率的に業務を進めていると判断できるのです。

注意が必要なのは、労働時間と粗利益高の数値を正確に把握しておかなければ計算結果も間違った数値になってしまうということです。計算結果と実際の数値に差があると、会社の現状を正しく理解することが難しくなるでしょう。

特に労働時間は、勤怠管理体制が整備されていないと把握しにくい数値です。また、把握しきれないサービス残業などが発生しないように、業務量や職場の働きやすさ改善に取り組むことも重要です。

業種別にみる人時生産性の分析結果

得られる生産性は一定ではなく、職種によって異なります。中小企業庁によると、職種ごとの平均的な値は以下のような結果でした。

  • 製造業:2,837円
  • 小売業:2,444円
  • 宿泊業:2,805円
  • 飲食業:1,902円

このように、飲食は製造と大きな差が出ており、他の職種のなかでも低い値です。ゴールを設定するときは、あらかじめ上記のような職種ごとの特徴をよく考えることが重要です。

人時生産性の向上が求められる理由

生産性を測る指標の中でも、特に人時生産性の向上が必要なのはなぜでしょうか。

公益財団法人日本生産本部が発表した2021年度版の「労働生産性の国際比較」によると、日本の時間当たり労働生産性は49.5ドルであり、OECD加盟38カ国中23位でした。さらに、一人当たり労働生産性は78,655ドルと、OECD加盟38カ国中28位という下位に位置しています。

日本の生産性は世界的に見てもかなり低く、労働時間の短縮や効率化に対する意識改革や取り組みも不十分なのが現状です。それを受けて日本政府が働き方改革を推進したり、業務の自動化が取り沙汰されているなど、日本国内でも世界水準に近づけるための対策が徐々に取られているのです。

人時生産性向上は、従業員一人ひとりの作業効率化を把握するために有効な指標です。人時生産性を定期的に算出して変化を確認しながら、一人が単位時間当たりに生み出す成果を最大化すると良いでしょう。

人時生産性を低下させるロス

生産性が下がる際は、どのようなロスが原因なのでしょうか。ここではおもなロスについてご紹介します。

生産ロス

製造の場で発生する差損を指す言葉です。生産ロスが発生する原因は1つだけではありません。品物を運ぶ作業をはじめとした製造以外の業務に手間がかかったり、商品として扱えない物の修正を行ったりなど、その原因はさまざまです。

このロスを改善するためには、どのプロセスが差損の原因になっているのかを明確にする必要があるでしょう。

例えば「品物を運ぶのには時間がかかって当たり前」という固定概念があっては、その差損に気づかないでしょう。業務全体のロスを理解するためにも、各仕事をあらためて振り返り、配分量を設定し直すことが第一です。

管理ロス

管理する際に発生する待ち時間を指す言葉です。管理チームが作成した生産や修理といったプランが、調整不足や突発的な問題の発生でストップしてしまうときに起きます。そのため、資材待ちや命令待ち、リペア待ちなど、さまざまなロスに派生します。

これは実際の作業上で発生したものではなく、管理側の問題でもあるでしょう。このロスはコントロールできない範囲が広いため、プランの立て直しに難渋するケースが多いです。

動作ロス

配属されているスタッフの動きや仕事の仕方、割り振りのミスなどから発生するロスを指す言葉です。

作業の動きが効率的ではなかったり、材料を配備する環境が良くなくて時間がかかったりなど、ムダな工程が原因であることが多いです。そのため余分に時間をかけてしまい、その分生産性が下がってしまいます。

自動化しないことによるロス

ロボットや機械でオート化できる仕事を、わざわざスタッフが行っていることで発生するロスを指す言葉です。ムダな工程をかけているので、労力と時間の両方に余計なコストがかかってしまいます。自動化が可能な新しいソリューションを取り入れることは、初期は時間や研修に時間がかかるでしょう。

しかし、短期的な目線ではなく中長期的に考えると、徐々に費用対効果は高くなります。

編成ロス

流れ作業の設定が不良なために発生するロスを指す言葉です。とあるプロセスにかかる時間がムダに長くなっている場合、次の作業のスタッフが待つ時間が長くなります。

あらかじめムダが発生しないような配属・設定を実施し、なるべくロスを最小限にする努力をする必要があるでしょう。

人時生産性を向上させる方法

3つの方法を紹介します。

適切な人員配置

人時生産性が低い場合、従業員個人の特性やスキルを活かしきれていない可能性があります。適切な人員配置を行うと、個々の能力を最大限に発揮できる環境が整うでしょう。個人の潜在的な能力を見出して適切な業務を割り振れば、パフォーマンスの質が良くなる上、従業員自身のモチベーション向上につながります。

その際に注意すべきは、適切な管理体制が構築されているかという点です。従業員を適切に配置しても、不要な工程や時間的ロスになる仕事が多ければ従業員にとって負担になります。ムダが多い職場環境では、せっかく上がったモチベーションを下げてしまいかねないので注意が必要です。

人件費や労働時間の削減

人時生産性は一時間当たりの従業員一人が生み出す成果を表す指標であるため、数値を改善するためには労働時間を短縮し、限られた労働時間の中で数多くの業務をこなす必要があるでしょう。したがって、業務のムリ・ムダ・ムラは極力排除することが求められます。

現実的に不可能なスケジュール設定や業務量は、従業員にムリを強いることになり残業時間が増大します。ムダの多い業務では本来しなくても良いことにばかり時間を取られるので結果的に労働時間が長くなるでしょう。さらに、優秀な従業員一人もしくは一つの部署に業務が偏っているといったムラのある状態も望ましくありません。

RPAの導入

RPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)の導入も効果的です。AIなどのIT技術を活用したシステムによって、業務を自動化するのです。これまで人間が行っていたデータ入力業務などをRPAに任せることで、人的ミスがなくなります。

さらに、業務の自動化によって空いた時間はより重要な業務のために使えるようになるので、業務の効率化が期待できるでしょう。

人時生産性の改善事例

十数店舗を展開しているスーパーマーケットの「株式会社さえき」では、倉庫に品物が雑にまとめられていました。さらに、在庫で不足している品物を補充しに倉庫へ移動する際に、時間がムダであると感じていました。このような課題を解決するために、作業工程の見直し、ムダな仕事の排除、仕事の画一化を実行。具体的な内容は、以下の通りです。

  1. 品物のサイズによって分類
  2. 売場に補充できる棚を追加
  3. 倉庫で使用する台車に決まりを作る

これらの内容を実施した結果、ムダな移動時間や台車を用いる作業が少なくなり、年間で150時間の労働コストの軽減につながりました。細かいムダを発見し、少ない設備の開発によって大きく生産性を高められた事例でした。

まとめ

労働人口の減少や働き方改革を背景に昨今注目を集めている人時生産性は、生産性の中でもより具体的かつ厳密に労働力と成果の関係性を明らかにする指標です。

世界各国と比較しても低い水準にある日本の生産性を向上させるためには、各社が生産性向上に取り組み自社の競争力を上げていく必要があります。業務の自動化や効率化を図り、人時生産性を高めていきましょう。