技術継承・技能継承はなぜ進まない?原因と起こりやすい業界、方法をご紹介
多くの企業は人手不足の問題を抱えていますが、それと同時に技術承継・技能承継についても大きな問題を抱えています。
技術承継・技能承継はすぐにできるものではなく、長い時間をかけて経験を積み重ねながら身に付けなければいけません。
高い能力を持っている人材が高齢化している傾向にあるため、今すぐでも解決する必要がある問題の1つです。
本記事では進まない原因と起こりやすい業界・方法を解説するので、気になる方は参考にしてみてください。
技術継承・技能継承とは
技術承継・技能承継とは職人や技術者が持っている専門的な知識やノウハウを後継者に伝えることであり、継承できないと企業が業務対応できなくなる可能性が高いです。
一朝一夕で身に付けられるような技術ではないため、企業は現在できている業務も将来的には対応できなくなるかもしれません。
どれくらい技術承継・技能承継ができるかが、中長期的に安定した経営をするためには必要です。
技術の種類と継承しにくい技術
技術の種類によっては、簡単に継承できるものもあります。
例えばマニュアル作成やシステム作成をすれば簡単に伝えられるものもあれば、職人や技術者の経験や勘などが必要になる技術は継承が難しいです。
この経験や勘が大きく影響している技術を暗黙知と呼び、専門的な知識やノウハウが詰まっています。
少子高齢化で後継者がいない状態で熟練技術者が引退してしまい、企業内に対応できる人材がいなくなるケースは少なくありません。
技能継承と技術継承の違い
一般的には技能承継と技術承継は同じと考えられていますが、細かい部分まで確認するとかなり違います。
それぞれの違いについては、以下を参考にしてみてください。
- 技能承継
属人化されている能力や経験を指して、やり方について理解して再現するのが難しい。
- 技術承継
仕事などへの取り組み方であるため、方法や手段について理解すれば比較的誰でも再現ができる。
技能はどうしても感覚的な部分が大きいので承継するために時間が必要である一方、技術は方法や手段について理解できると対応可能です。
2007年問題
2007年問題は製造業者事業所の半分以上が技能承継・技術承継に問題があると回答したもので。
団塊世代が2007年に60歳になって定年退職するため、企業が抱えている労働力の減少や専門的な知識やノウハウの喪失が危惧されました。
実際には雇用延長などで一時的に問題は回避しましたが、根本的な問題については残ったままです。
技術継承・技能継承が課題になりやすい業界
業界ごとに求められる能力については異なっているため、業界によってはそもそも大きな課題になっていないことも多いです。
現在技術承継・技能承継が課題になりやすい業界として、以下の2つが挙げられます。
- 製造業
- IT業界
どうして課題になりやすいかについて解説するので、気になる方は参考にしてみてください。
製造業
製造業は専門的な知識やノウハウが求められる場面が非常に多いため、企業としては積極的に承継できるような取り組みをしているケースも少なくありません。
日本では古くから製造業は経済を支えてきた業界の1つですが、近年では若い人材不足が原因でなかなか進まないのが実態です。
また、ベテラン世代と若手世代でジェネレーションギャップがあるため、コミュニケーションが上手く取れないことも課題として挙げられます。
IT業界
IT業界はまだまだ新しい業界といえ、具体的にどのようにして技術承継・技能承継をしていくかについてのノウハウが蓄積されていません。
また、フリーランスやアウトソーシングで業務を回している企業も多く、個人の能力があれば会社に属する必要がないのも原因として考えられます。
リモートワークの発展で仕事する場所も選ばないため、現場レベルでの承継がなかなかおこなわれていません。
技術・技能を継承していく方法は?
技術・技能を継承していく方法について詳しい内容は企業によってさまざまですが、代表的な方法として以下の5点が挙げられます。
- 暗黙知を持っている熟練技術者に役割をセットする
- 暗黙知を言語化し、形式知に変換する
- ベテラン技術者と若手の結びつきを強化する
- 技術継承の進捗を企業全体で管理する
- 組織全体のDXを推進する
それぞれの内容を解説するので、参考にしてみてください。
暗黙知を持っている熟練技術者に役割をセットする
暗黙知とは職人や技術者の経験や勘などを活かした言語化が難しい情報であり、どうしても感覚的に伝える場面が多くなります。
しかし、感覚的に伝えるからと継承を諦めてしまうのではなく、熟練技術者に役割を与えて積極的に若手人材に伝えられるような環境整備が大切です。
役割を与えられると熟練技術者も指導を意識するようになるのに加えて、若手人材も誰に質問すればいいかについて把握しやすくなります。
暗黙知を言語化し、形式知に変換する
暗黙知を活かした業務は属人化している傾向にあるため、マニュアル作成やシステム作成によって言葉で表現できるよう形式知に変換するのが大切です。
また、マニュアルやシステムは一度作成して同じものをずっと使用するのではなく、後継者の意見などを取り入れながらアップグレードする必要があります。
具体的な数値や方法について記載して、誰が見ても内容について理解できるように工夫しましょう。
ベテラン技術者と若手の結びつきを強化する
ベテラン技術者と若手の間にはジェネレーションギャップが発生するため、結びつきを強化して気軽に相談できるような環境を整えます。
一人ひとりの性格や能力によって結びつきを強化する方法は異なりますが、基本的な方法としてはベテラン技術者と若手を同じ現場に入れてOJTをおこなえば効率的な指導が可能です。
忙しい状況ではなかなか若手を気に掛けることができない可能性もあるため、会社全体でベテラン技術者のサポートをします。
技術継承の進捗を企業全体で管理する
技術継承の進捗を企業全体で管理するためにも段階的に指導して、基礎的な業務から初めて徐々に応用業務について取り組むようにするのがおすすめです。
若手がどのような業務ができるようになったかを企業全体で把握すれば、育成具合に合わせながら指導内容を変更できます。
ベテラン技術者に技術継承を完全に任せるのは負担が大きくなるため、進捗について管理しながら会社側も研修などを検討しましょう。
組織全体のDXを推進する
組織全体のDXを推進して効率的な技術継承ができるように環境を整えて、若手の習熟度について把握しながら指導を進めていきます。
口頭での指導だけでは後から見直しが困難になるため、作業中の映像を共有していつでも見られるようにするなど、若手が一人でも見返せるように情報をまとめる方法も有効です。
DXを推進するためには、ITツールの導入が必要になる可能性が高いといえます。
技術継承の失敗事例
技術継承は多くの企業で課題として挙げられますが、失敗事例についても把握しておきましょう。
具体的な失敗事例として、以下の2点を紹介します。
- 予算とリソース不足によるモチベーション低下
- 技術のブラックボックス化による継承の不十分
すべての企業が陥ってしまう恐れがあるため、実際に高いモチベーションを保って技術継承をするためには対策する必要があります。
失敗事例①予算とリソース不足によるモチベーション低下
技術継承は短期間で完了するものではなく、中長期的な期間を見越して段階的に進めなければいけません。
高いモチベーションを保って取り組むのが効率を高めるために重要であり、十分な予算とリソースを確保して余裕を持たせます。
指導に当たるベテラン技術者に対して本来の業務に加えて育成も任せるのは負担が大きいため、就業時間内に指導の時間を設けるなどの対策が必要です。
技術継承も1つの業務として任せて、他の業務は調整するようにしましょう。
失敗事例②技術のブラックボックス化による継承の不十分
技術のブラックボックス化とは特定の業務を特定の人物しか対応できない状態であり、担当者が後継者を十分に育てていない状態で退職すると担当できる人物が居なくなります。
業務は基本的に複数の人物が対応できるようにしますが、どうしても専門的な知識やノウハウが必要になる業務は難易度が高いです。
継承が不十分になるケースが多いため、属人化している業務ほど早めの技術承継をしなければいけません。
技術継承の成功事例
技術承継の成功事例を参考にして取り組むのが効率的に進めるために重要といえ、具体的な成功事例として以下の2点を紹介します。
- 早いうちから形式知への変換に成功。大量退職を乗り切り無事引き継ぎ
- 組織のDX化により技術が見える化され、若手社員のベースが上がった
若手社員の育成が中心になりますが、効率が悪いとベテラン技術者が退職してしまう可能性が高くなるでしょう。
それぞれの内容について解説します。
成功事例①早いうちから形式知への変換に成功。大量退職を乗り切り無事引き継ぎ
暗黙知は直接的な指導が必要になる部分が大きいですが、形式知にすればマニュアル作成やシステム作成で誰でも指導できるようになるメリットも重要です。
大量退職が発生した後には一時的に企業の労働力が落ちてしまう恐れがありますが、形式知によって技術承継ができていると柔軟に対応できます。
定年退職による大量退職はあらかじめ予想ができるため、少しでも早いタイミングで形式知にできるように取り組みましょう。
成功事例②組織のDX化により技術が見える化され、若手社員のベースが上がった
企業全体の生産量や品質を高めるためには若手社員のベースが重要といえ、組織のDX化を進めて一人ひとりの技術習得状況を見える化します。
技術習得状況について把握するためには基準を設定して、品質の高さや1つの製品を作成するまでの時間などさまざまです。
また、若手自身もどれくらい技術習得できたかについて把握が難しいですが、見える化すればモチベーションを保つのにも役立ちます。
ベテラン社員の退職対策はお早めに
ベテラン社員が退職してしまうと企業全体の技術力が一気に落ちてしまう可能性も高いため、退職対策は早めにしておかなければいけません。
また、定年退職前には雇用延長を希望しているかについてもヒアリングして、具体的にどうやって技術承継・技能承継をしていくか対策しましょう。
退職対策ができていない状態では後継者が十分に育っていないケースが多いため、将来的にも安定した品質を保つためにもできるだけ早いタイミングから対策するのが大切です。
技術継承問題に取り組みましょう
技術承継・技能承継がなかなか進まない原因は企業によって異なりますが、ある程度共通している理由も存在しています。
成功事例や失敗事例についても把握して、どうやって取り組めば後継者を育てられるか企業は考えなければいけません。
ベテラン技術者と若手の間にはジェネレーションギャップが生じるのは当然であるため、お互いの結びつきを強化できるように工夫しましょう。