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労働基準法に違反するとどうなる?違反事例と通報方法を解説

近年は日本政府による働き方改革の推進の影響を受けて、労働者がより自由で無理なく働けるような仕組みづくりが重要視されています。こうした社会の変化は、従業員が自身の働いている労働環境を見直すきっかけになっているといえるでしょう。

企業の人事や労務の担当者にとって、労働基準法は無視できない法律です。労働環境の見直しが求められる現代では、その重要性がさらに増しています。労働基準法に違反した場合、厳しい罰則が科せられることがあるため、基本的な知識や違反行為に当たるものが何かを把握しておくことが大切です。

もし労働基準法に違反した場合、どのような罰則があるのか、どのような場合にペナルティの対象となるのか、事例とともに詳しく解説します。

労働基準法とは

労働三法の一つである労働基準法は、働き手を保護することを目的に制定された法律です。労働する契約内容や労働時間、休暇や休憩時間、賃金など、労働にかかわるさまざまな条件について最低限守るべき基準を示しています。その他、妊産婦の扱いについての条件も含めた計12章と雑則および罰則で構成されています。

労働基準法が制定されたのは、戦後の1947(昭和22)年のことです。制定の背景には、戦前の日本の勤務条件が、あまりに会社側に有利であったことが挙げられます。働く意思のある人は、生活するためにも会社側からの不利な労働条件に従うしかなかったのです。

また、戦後の日本を立て直し再建を図るために一人ひとりの労働力が必要不可欠であったことから、最低限の労働条件を担保し、日本の再建に協力する労働者を確保することも狙いでした。

法律の内容は、時代の変化に合わせて改正を繰り返しています。企業は法律の変化を把握し、柔軟に対応することが求められているといえるでしょう。

労働基準法に違反した企業への罰則と違反例

具体的な違反例と、罰則を紹介します。

労働に関する違反例

労働者は、労働者の意思に反する労働を強いられることはありません。日本国憲法第18条で奴隷的な拘束を禁じているため、それに準じた規定が労働基準法第5条で定められました。

第5条では、心身の自由を奪うような暴行、脅迫および監禁などの手段で労働者を拘束し、強制労働させることを禁止しています。

また、労働者の心身の安全等を考慮して、18歳未満の人が坑内で働くことや、妊娠している女性、産後1年未満の女性が重いものを運ぶことや、有毒ガスを吸う危険性のある場所で働くことも禁じられています。

違反した場合は、1年以上10年以下の懲役、または20万円以上300万円以下の罰金刑を科せられるため注意しましょう。罰則については第117条で定められています。

労働時間・残業代に関する違反例

日本企業で正社員として働く場合、「フルタイム勤務=8時間」というイメージを持っている人が多いでしょう。これは、労働基準法第32条により、1日の労働時間は8時間までと定められているからです。

法で定められた労働時間は、働き手の過労や精神的負担などを軽減するために過度な労働を予防するものです。そのため、8時間までという1日の労働時間の上限に加え、1週間の労働時間は40時間までとしています。

会社と従業員の双方が合意しない限り、「1日8時間・週40時間まで」の労働時間を超過して労働させることは原則禁じられています。しかし、36協定という協定を締結することで、定められた労働時間を超過して働くことができます。

ただし、36協定を結び合意の上で法定労働時間を超えて勤務する場合は、賃金の割増が必要になります。具体的には、時間外労働(残業)と22時から5時の深夜帯の労働に対しては25%、休日の労働に対しては35%の割増賃金を支払います。

違反した場合は、第119条により6ヶ月以下の懲役、または30万円以下の罰金になります。違反事例が起こりやすいため、刑事罰を受けないためにも従業員の労働時間の管理や賃金計算はミスや漏れのないように行いましょう。

有給休暇に関する違反例

年次有給休暇を付与する条件は、労働基準法第39条で定められています。企業は、「雇い入れ日から6ヶ月継続して勤務し、全労働日の出勤率が8割以上」である場合に有給休暇を10日以上付与しなければなりません。

従業員は、付与された10日間の有給休暇を数日にまたがって連続して取得することも、1日ずつあるいは半日などに分割して取得することも認められています。従業員が希望した有給を取得するには、条件が定められている場合があるので注意しましょう。

雇用関係を結んだ年の取得日数は10日とする会社がほとんどです。日数は勤務した年数に応じてプラスされ、勤続年数が更新される度に基本的に1日ずつ増える仕組みです。また、勤続年数が3年6ヶ月を超えると、それ以降の付与日数は2日ずつ増加します。

労働基準法の改正によって年5日の有給休暇取得が義務化され、企業は従業員一人ひとりの有給取得状況を正確に把握しておくことが求められるようになりました。これに違反した場合は、30万円以下の罰金が科せられます。

また、従業員が希望したにもかかわらず休暇を取得させなかった場合や、取得したのに賃金を支払わなかった場合なども法律違反となります。6ヶ月以下の懲役や30万円以下の罰金に処される可能性があるため、休暇日数の扱いや休暇申請時の対応について社内にしっかりと周知しておきましょう。

賃金に関する違反例

賃金については労働基準法第24条で定められています。企業は従業員一人ひとりに対して、月に1回以上一定期間ごとに、賃金全額を通貨で直接支払うことが求められます。不足していた場合は賃金未払いとなり、違反対象になるので注意しましょう。

「①月に一回以上、②一定の期日で、③通貨で、④直接、⑤全額を支払う」という条件は「賃金支払いの5原則」として知られています。

ただし、従業員個人の預貯金口座へ賃金を振り込むケースは、同意を得た場合に限り可能となるので違反ではありません。

違反した場合は、第120条に則り30万円以下の罰金刑となります。給与を小切手で支払ったり、全て払わずに中抜きしたり、労働者本人ではなく代理人に支払ったりすると違反の対象になります。

従業員にとって賃金は、生活に直結する重要な要素です。従業員が不安なく働き続けられる環境を整えるためにも、企業は法律を遵守しなければなりません。違反対象とならない事例も含め、法律の内容をしっかりと理解しておきましょう。

差別に関する違反例

労働基準法第3条と4条では、労働者の国籍や信じる宗教、信条や性別などによって差別することを禁じています。企業はいかなる理由があっても、労働者に賃金や労働時間などで差別的な扱いをしてはならないのです。

これに違反すると6ヶ月以下の懲役、または30万円以下の罰金が科せられます。

妊娠・出産等に関する違反例

労働基準法第63条から67条では、妊娠中や出産直後などの女性を守る法律が規定されています。ここには、生後1年に満たない乳幼児を育児中の人も対象に含まれています。

違反となるのは、出産前や出産後の休暇を否認して労働を強いたり、妊娠中の女性に残業を強制したり、幼い子どもの育児に従事する人に十分な時間を与えない労働環境などです。

これに違反すると、1年以下の懲役または50万円以下の罰金刑に処されることが第118条で定められています。

解雇・雇止に関する違反例

解雇や雇用の停止については、企業と労働者の間で特にトラブルになりやすいので、事前に違反事例を把握していざという時に冷静に対処できるようにしておくことが大切です。

企業は労働者を解雇する場合、30日以上前に予告することが義務付けられています(第20条)。30日に満たない日数で解雇する場合には、日数分の解雇予告手当を支給する必要があります。数日の違いで、会社にとって予定外の出費となりかねないので従業員を解雇する場合は注意しましょう。

ただし、解雇は会社がいつでも自由に行えるものではありません。客観的に納得できる理由がなければ解雇は認められないと労働契約法第16条で規定されています。例えば、1回ミスをしただけ、出勤初日の勤務態度が悪かったという理由は認められず、不当解雇と認定される場合があります。

違反すると6ヶ月以下の懲役か、30万円以下の罰金刑に処される場合があります。従業員の解雇や雇止を考えるなら、従業員本人に決定事項として予告する前に、十分な話し合いの時間を設けたり、職場環境の見直しをしたりするとトラブルに発展せずに問題を解決しやすくなるでしょう。

労働災害に関する違反例

働いていると耳にする機会のある「労災」とは「労働災害」のことで、勤務中または通勤中に起きた怪我や病気を指します。労働基準法の第8章災害補償では、第75条から88条までの13条にわたって労働災害に関する法律が詳細に規定されています。

従業員は業務関連で怪我をしたり病気を患ったりした場合、休業補償や療養補償を受け取ることができます。労災により障害が残った場合は障害補償が受けられ、もし死亡した場合は遺族補償や葬祭料などを受け取る権利があります。また、労災が起きた場合、企業は防止義務・補償義務・報告義務があります。

労働災害に対する補償は企業が決められるわけではありません。補償金額の算出方法など、法律に準拠して対応しなければなりません。労働災害が発生した場合、会社側は刑事責任、民事責任、行政上の責任、社会的責任を負う可能性があります。

労災の原因が会社にあるとされた場合、損害賠償責任が発生することもあります。日頃から労災が発生しないような労働環境づくりに努め、必要に応じて労災保険に加入しておくことをおすすめします。

労働条件・就業規則に関する違反例

企業は労働者との労働契約を結ぶ際に、労働条件を明確にすることが求められます。第15条では、「使用者は、労働契約の締結に際し、労働者に対して賃金、労働時間その他の労働条件を明示しなければならない」と規定されており、雇用関係を結んだ後のトラブルを未然に防ぐ狙いがあります。

第120条では、労働条件の明示を怠った場合には、30万円以下の罰金刑を科すとしています。

意外と一般に周知されていないのが、就業規則に関する法律です。企業は就業規則を作成する義務があり、作成した就業規則は従業員がいつでも見れるような状態にし、周知することが求められます。

就業規則を作っていない、更新しても社内に知らせていない、確認できない場所にあるなどは違反の対象となるので注意しましょう。

18歳未満の未成年の労働に対する違反例

第63条、64条では、18歳未満の未成年が坑内で労働することが禁じられています。18歳未満の未成年、年少者を保護するための法令は数多く、変形労働時間制やフレックスタイム制、時間外または休日労働の適用が廃除されたり、心身に害がある業務への従事が禁止されたりしています。

もしも18歳未満の未成年を坑内で働かせた場合、罰則として1年以下の懲役刑または50万円以下の罰金刑に処されます。

未成年者を雇用する場合は、労働条件に問題がないか確認した上で雇用契約を結び、法律を遵守した対応を心がけましょう。

遺族に対する補償の違反例

第79条には、労働者が死亡した場合の補償について明記されています。従業員が業務上で死亡した際は、企業は遺族に葬儀代などの葬祭費を支払う他、遺族の生活補償をするように定められています。

遺族に対する補償額は、平均賃金の1000日分を遺族補償として支払うように労働基準法で決められています。これに違反すると、6ヶ月以下の懲役か30万円以下の罰金が科せられます。

労働基準監督署に通報した場合の流れ

通報時の流れを解説します。

通報前の準備

労働基準法に違反していると疑われる場合、従業員は労働基準監督署に通報することができます。ただし、通報する前の準備として、違反している証拠集めが必要です。

証拠となるのは客観的に見ても事実だと認められる内容のものであることが大切です。賃金に関する違反であれば、給与明細や銀行の入出金明細が必要になるかもしれません。同意のない時間外労働を強いられているなら、労働時間を確認できるタイムカードやパソコンのログなどを準備しましょう。不当解雇であれば、解雇予告通知書や予告時の発言を録音した音声などがあると良いでしょう。

簡単なメモ書きやささいなメール1通が証拠になり得るので、トラブルにつながりそうなものは証拠として提出するか、通報する前に弁護士などの専門家に相談しておくと抜かりなく用意できるので安心です。

社内に労働環境について相談できる窓口があるなら、通報前に相談してみましょう。会社によっては労働組合があるので、労働環境改善に役立つかもしれません。

通報する方法

厚生労働省が発表しているデータによると、令和2年度に行政機関に寄せられた労働問題に関する相談件数は、129万782件でした。多くの人が労働環境や労働条件に対する悩みを抱えていることがわかります。

労働基準法に違反していると感じた場合、労働者はどのような対応を取れるのでしょうか。通報する場合の3つの方法を紹介します。

  1. 労働基準監督署に直接出向く

     もっとも速く確実な方法が、直接出向いて担当者に通報することです。労働基準監督署は全国にあるので、自分が働いている会社の所在地を管轄しているところがどこなのかを確認してから出向くようにしましょう。厚生労働省のホームページでは、全国に配置されている労働基準監督署の所在地と、開庁日、開庁時間を公開しています。

  2. 専門機関に電話で相談

     直接出向くのは勇気が必要ですし、出向くために十分な時間を取れないといった場合は、「労働条件相談ほっとライン」という専門機関に電話すると良いでしょう。相談窓口として、相談内容に応じた対応方法のアドバイスなどを得ることができます。

  3. 専門機関のメール窓口に連絡

     電話相談はあくまでもアドバイスのみに留まりますが、「労働基準関連情報メール窓口」であれば労働基準監督署へ直接出向かずに通報まで行うことができます。メールで連絡できるので開庁時間などを気にせず通報できるでしょう。ただし、労働基準監督署が具体的な対応をしてくれるか不明瞭なので、メールで連絡してから直接通報すると確実です。

多くの人が通報する時に気になるのが「会社にバレるかどうか」ではないでしょうか。労働基準監督署の担当者は、守秘義務があるので業務上で知ったことを口外できません。そのため、通報者の希望があれば、誰が通報したのかを秘密にしたまま通報できるのです。

通報後の流れ

通報を受けて、労働基準監督署が違反の可能性があると判断すると、対象の企業への立ち入り調査が行われるでしょう。

立ち入り調査では、賃金の支払状況や支払いの方法、勤怠管理など、通報内容に合わせて詳細な調査が実施されます。調査の一環として経営者や従業員一人ひとりへのヒアリングが行われる場合もあるでしょう。

もしも労働基準法違反が確認されたら、労働基準監督署は対象企業へ「是正勧告」を行い、問題点の改善を求めます。

その後の再監督による調査で改善が確認できないと、検察庁への告発がなされ、法律違反事件として送検される事態となります。裁判所でも違反性が認められると刑罰が科されるため、是正勧告を受けた企業は、速やかに労働環境の改善に取り組むのです。

【2019年】労働基準法改正について

1947年に労働基準法が制定されてから、社会情勢や時代の変化、働き方の変化に合わせて数回の労働基準法改正が行われてきました。2019年には、日本政府が「働き方改革」を推進していることを背景に、新たに改正が行われています。

改正後の労働基準法で変化した3つのポイントを解説します。

  • 長時間労働に関する規制

改正前は36協定を締結していれば法定労働時間以上の労働に関して上限は設けられていませんでした。しかし、長時間労働を防ぐために「月に45時間まで、年間360時間まで」という上限が加えられ、有給休暇を最低5日間消化することが義務付けられています。

  • 柔軟な働き方を推進

働く意欲のある人が自由に好きな仕事に就けることを目的に、フレックスタイム制や在宅勤務を認めることを推進しています。

  • 雇用形態の処遇の差を改善

正規雇用と非正規雇用の間に生まれていた給与や福利厚生の差をなくし、雇用形態にかかわらず業務内容や責任が同じなら待遇も同じになります。

労働基準法の対象者と例外

労働者を守るために制定された労働基準法ですが、「労働者」の対象はどのように定められているのでしょうか。

労働基準法第9条で「労働者」とは、「職業の種類を問わず、事業又は事務所(以下「事業」という。)に使用される者で、賃金を支払われる者をいう」とされています。

つまり、どの職種や業種に従事していても、会社に所属して賃金を受け取っている人は皆「労働者」であるといえます。これは、雇用形態で区別されることがありません。正社員、派遣社員、契約社員、パートタイム勤務者やアルバイトなど、どのような働き方をしているかは関係なく労働基準法の対象となるのです。

ただし、労働者となるのは会社と労働者の間で労働契約を結んでいる時に限られるので注意しましょう。業務請負契約や業務委託契約を結んでいる場合は労働者に該当しません。

また、「農業や畜産業、養蚕業、水産業に従事する者」「管理監督者の地位にある者または機密の事務を取り扱う者」「監視または断続的労働に従事する者で、使用者が行政官庁の許可を受けた者」は、労働時間や休日に関する一部の規制が適用されません。例外がある点も踏まえて、法律を遵守した管理を徹底することが大切です。

労働基準法を理解してトラブルを防ぎましょう

労働基準法は働く人を等しく守るために大切な、最低限守るべきルールを明確化しています。会社は労働基準法を守り、差別することなく法律で定められた通りに賃金を支払い、労働時間を管理し、従業員が無理なく働ける環境をつくらなければなりません。

もし労働基準法に違反した場合は、罰金や懲役に科せられるため、法律の内容を網羅してトラブルを未然に防ぐように努めましょう。