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ISO30414とは?11項目の詳細と導入目的を徹底解説!

ISO30414とは?

会社が持つ経営資源は「ヒト、モノ、カネ」と言われますが、経営資源のうち「ヒト」は教育するほど会社の利益につながるとされています。労働人口の減少が問題になっている昨今においては、会社が保有している人材をいかに教育し最大限活用できるかが重要です。

人材育成への投資の重要性を把握し、投資状況と得られた効果を明らかにするためには、ISO30414を知る必要があるでしょう。日本国内でも注目を集めているISO30414の概要と導入すると得られるメリットや目的を解説します。

ISO30414とは?

言葉の定義について解説します。

ISOとは

そもそもISOとは、「International Organization for Standardization」の略称であり、「国際標準化機構」という非政府機関を指します。国際標準化機構の本拠地はスイスのジュネーブにあり、商取引に関わるルールを策定し規格化しています。

例えば、品質マネジメントに関わる「ISO9001」や環境マネジメントに関わる「ISO14001」などの国際的に用いられるガイドラインを発表しています。国際的な基準を自社に導入することで、グローバル化や激化する国際競争に対応が可能になるのです。

ISOが制定した国際規格をISO規格と呼び、ISO規格は「ガイドライン規格」と「要求事項規格」の2種類に分類されます。要求事項規格はISOが定める要求事項を満たしているかを第三者機関の監査により確認され、要求事項を満たしている時は認証証明書が発行されます。そのため、要求事項規格の導入は社内外に良い印象を与えることでしょう。一方ガイドライン規格には認証制度が設けられていません。そのため、ISOが定める国際規格に準じるかどうかはあくまで各企業の自主的な判断によります。

「ISO30414」もまたISOが定めるガイドライン規格のうちの一つです。これは2018年12月に発表された人的資本の情報開示のために参考になる項目が記載されています。11領域49項目にわたってガイドラインを制定しており、このガイドラインに沿うことで世界中の会社が同じ基準で人的資本の現状を把握できます。

人的資本開示とは

ISO30414は人的資本の情報開示のためのガイドラインです。人的資本(Human Capital)は、人材が持つ知識やスキル、経験などの総合的な能力が、会社の財産・資本であるとする概念を指します。経済学で用いられる言葉であり、人的資本を開示することは各企業の人材戦略を社内外に公表することを意味しています。

経済産業省は会社の人材を重要な資本であると考え、人材資本経営を重視しています。人材が持つ能力や個性を最大限に発揮させて、長期的な目線での企業価値向上の実現が期待できるのが人的資本経営であり、その効果を得るために人的資本の情報開示が注目を集めているのです。

米国証券取引委員会(SEC)は2020年8月、上場企業に対して「人的資本の情報開示」を義務づけると発表しています。こうした動きも背景に、アメリカではさらに人的資本経営が主流になると考えられており、この動きは日本にも到来することが予想されます。

ISO30414が注目されている理由

3つの理由を紹介します。

ESG投資やSDGsの浸透

国際化に伴い、世界的に環境問題や人権問題が話題になっています。持続的な成長をするためにはESGやSDGsへの取り組みが重要になりますが、企業が社内の人材をどのように有効活用してそうした取り組みを行うかに注目が集まるようになりました。

「ESG」とは「Environment(環境)」「Social(社会)」「Governance(ガバナンス)」の頭文字からなる言葉で、会社経営において重要な要素です。会社が国際社会で生き残り持続的な成長をするためには、短期的目線ではなく長期的な目線で環境問題や社会問題を捉える必要があるでしょう。ビジネス単体よりもビジネスを含む包括的な問題に目を向けて社会貢献する意思が求められているのです。

さらに、「サステナビリティ」として持続可能な社会の実現も重要視され始めています。2015年に国連サミットで採択された「Sustainable Development Goals(持続可能な開発目標)」は「SDGs」と略され、耳にする機会が増えた言葉です。貧困問題や平等な教育機会創出など、世界各国が協力して問題解決に取り組むべき計17項目の目標が掲げられています。

「SDGs」は日本国内外の会社にとっても重要な目標であり、SDGsの考え方に沿って各社が目標を定めて取り組んでいます。SDGsへの取り組みを実施していることは、社内外へ好印象を与えるのです。ESGはSDGsの取り組み方を客観視する指標になり、人的資本の情報開示によって「Social(社会)」と「Governance(ガバナンス)」に良い影響がもたらされるでしょう。

コーポレートガバナンス・コードの改訂

2018年6月、「スチュワードシップ・コード及びコーポレートガバナンス・コードのフォローアップ会議」においてコーポレートガバナンス・コードが改訂されたことも、ISO30414が注目される理由の一つです。

「コーポレートガバナンス(Corporate Governance)」とは、企業経営を監視する仕組みのことです。会社は経営者ではなく資本を出資している株主のものであるという考え方に基づいて、社内外に対して透明度が高く公正で、迅速かつ果断な意思決定を行うことを推進しています。例えば、取締役と執行役を分けて配置する、社外取締役を任命する、社内ルールを明確化するなどがこれに当たります。そして「コーポレートガバナンス・コード」は、上場企業の実効的なコーポレートガバナンスの実現に必要な原則をまとめたものです。

「スチュワードシップ・コード及びコーポレートガバナンス・コードのフォローアップ会議」は、上場企業のコーポレートガバナンス強化を目的とする他、投資家と各企業が健全な関係性を築くために開催されました。金融庁と株式会社東京証券取引所が主導して詳細を取り決めています。

改訂後のコーポレートガバナンス・コードには、「事業ポートフォリオの見直しや、設備投資・研究開発投資・人材投資等を含む経営資源の配分等に関し具体的に何を実行するのかについて、株主に分かりやすい言葉・論理で明確に説明を行うべき」と記載されています。そのため、各社は人材投資に関する資金の使い方を明確にする必要があるのです。

人的資本の重要性の高まり

2020年9月、経済産業省は「持続的な企業価値の向上と人的資本に関する研究会報告書」を発表しました。その中では、会社が存続し続け企業価値を高めるためには、効果的なビジネスモデルや事業展開だけでなく、人材戦略も重要であると記載されています。

人材戦略とは、人的資本を活用するための戦略です。社内の人材を最大限活用する戦略を練って実行すると、各企業は激化する競争社会を生き残るための競争力を身につけ、さらに市場価値を高めることができるでしょう。

また、前述のコーポレートガバナンス・コードの改訂とともに投資家と企業の対話ガイドラインも策定されていますが、この中にも人的資本への投資について記載があります。このことからも、会社運営において人的資本に投資して自社のために活用することがいかに重要視されているかが分かるでしょう。人的資本の重要性が認知され、人材育成や人材獲得に対する取り組みに注目が集まるようになったことも、ISO30414が普及している背景にあるのです。

ISO30414導入の目的とは?

導入する目的は4つです。

人的資本の状況を把握するため

ISO30414は人的資本の現状を把握するために有効です。従来までは教育制度や研修制度を作って実行しても、人材育成へ投資した結果が会社の利益にどんな影響を与えたかを図る指標がありませんでした。そこで ISO30414を参照し自社の状況把握に努めることで、それまで明確に表現できなかった人的資本の現状を客観的な数値として正確に把握できるようになるのです。

ISOの発表においても、ISO30414は人的資本が組織(会社)の成長に関する貢献度を明らかにすることが目的であると明記されています。

会社の人材を資本であるとする考え方は日本国内でも既にあり、総合報告書に記載されています。総合報告書には、法的に開示するよう決められている財務情報以外の非財務情報もまとめるため、社内の人的資源情報も含む知的財産や企業統治に関わる情報も確認できます。

しかし、総合報告書の記載方法や評価基準に定めはなく表現があいまいになりやすいという課題がありました。定量的なデータでの表現が難しい人的資本は、定性的かつ抽象的な表現になる傾向が強く、報告書に記載してもそれが実際にどの程度のデータなのかという基準がなかったのです。

ISOにより人的資本の情報開示ガイドラインが発表されると、世界共通の明確な基準に則った人的資本評価が可能になりました。客観的なデータに基づいた評価を行えるようになり、会社は過去の状況との比較検討ができるようになった他、各社が情報開示することによって他社との比較検討も可能になったのです。

企業経営の持続可能性のサポート

世界共通のガイドラインに準じることで、日本国内に留まらず世界各国の企業の人的資本情報を確認できるようになります。情報共有が活発化し、国際的にも通用する人材戦略を打ち立てられると、これからの競争社会で生き残る力を高められます。

さらに、情報を開示すると会社の透明性が高まり社外からの信用を得やすくなります。それは将来的に、投資家による投資行動につながったり、求職者の就職先を選ぶ際の判断材料になるでしょう。資金の確保や優秀な人材の獲得は持続的な会社経営のために欠かせません。ISO30414は企業経営の持続可能性のサポートをする意味でも、導入するメリットがあるのです。

戦略人事の実行

戦略人事の実行も、ISO30414が策定された目的の一つです。会社が国際社会で長期的に存続していくためには、効果的な人材戦略の実行が重要になります。

例えば、会社に必要なスキルを持つ人材を獲得する採用活動や、求めるスキルを身につけるためセミナー開催などを実施する人材戦略は、少なからずコストがかかります。そのためコストに見合ったリターン(利益増大など)が得られたかどうかが企業の成長に大きな影響を与えます。

しかし戦略的な人事の重要性を理解していても「どの施策がどの程度会社に影響を与えたのか」「なぜ影響が出たのか」を数値化し、正しく分析するのは難しいでしょう。ISO30414はこの問題を解決するために人材に関わる会社の現状を定量化します。

データから客観的に会社の現状を把握することは、人的資本が会社に与える影響を明確にして自社の課題点や改善点を見つけることにつながります。そうすると各社は課題点を解決した上でより効果的な人材戦略を実施できるようになるでしょう。

HRテクノロジーの推進

「HRテクノロジー(またはHRテック)」とは、「HR(Human Resources)」と「Technology」を掛け合わせた造語です。主に人事や労務領域で用いられるシステムやIT技術を指しており、ISO30414はHRテクノロジーの推進にも役立ちます。

HRテクノロジーの活用によって、効果的な人材戦略を打ち立てたり、従業員の満足度向上につながる制度を導入したり、職場環境の改善をして生産性を向上させたりすることができます。

しかし、導入するメリットが大きい反面、個人情報を扱うため情報漏洩の危険性やプライバシー侵害のリスクを有しているのが問題でした。ISO30414は人材資本の開示に関するガイドラインなので、そうした個人情報にも配慮した情報開示のために参考になるでしょう。正確に従業員の個人情報を把握し、安全な範囲で活用・情報開示すると安心してHRテクノロジーを導入できるようになります。

ISO30414に記されている49項目

11項目を紹介します。

コンプライアンスと倫理

「コンプライアンスと倫理(Compliance and ethics)」に関する領域が記載されています。苦情や懲戒処分の数や種類などが含まれます。直訳すると「従う」といった意味を持つ「コンプライアンス」ですが、ビジネスの場面においては「法令遵守」の意味で用いられます。法律や条例などの定められた決まりを守るだけではなく、社会的・倫理的に問題ない行動規則を守ることがコンプライアンスです。

具体的には、以下の5つの項目です。

  • 提起された苦情の種類と件数
  • 懲戒処分の種類と件数
  • 倫理・コンプライアンス研修を受けた従業員の割合
  • 第三者に解決を委ねられた紛争
  • 外部監査で指摘された事項の数と種類

これらは社会的信用を測る上でも重要な指標となる領域であり、企業として重点的に取り組む必要があるでしょう。

コスト

「コスト(Costs)」は「費用」を意味しており、人件費や採用費などの人事領域のコストを項目として挙げています。これは人的資本にどれだけ金銭的な投資行動をしているかを明らかにする上で重要な指標です。

具体的には以下の項目が含まれます。

  • 総労働力に対するコスト
  • 外部労働力に対するコスト
  • 総給与に対する特定の職務が占める報酬割合
  • 総雇用に対するコスト
  • 1人当たりにかける採用コスト
  • 社内外からの採用1人当たりにかけるコスト
  • 離職費用

ダイバーシティ

「ダイバーシティ(Diversity)」は「多様性」という意味を持っています。性別や国籍、宗教、趣味や嗜好などの多種多様な属性の個人が、同じコミュニティや組織の中にいる状態を指す言葉で、グローバル化に伴って注目度も増してきた言葉です。

具体的には、以下の項目に分けられます。

  • 年齢
  • 性別
  • 障がい
  • その他
  • 経営陣のダイバーシティ

多種多様な考え方や経験、スキルなどを持った人が在籍していると会社はより多様性に富み、柔軟な事業展開を実現できるでしょう。個人の持っている能力を最大限活用して自社の成長につなげるためには、偏見や差別をせずに社内の多様化を目指す必要があるのです。

リーダーシップ

「リーダーシップ(Leadership)」は、会社の指揮を執る立場にある人のデータを定量化します。社長やCEOなど経営陣に着目している点が特徴です。

具体的な項目は以下の通りです。

  • リーダーシップに対する信頼
  • 管理職1人当たりの部下数
  • リーダーシップ開発

数値化が難しいと感じられる経営陣への信頼度は、従業員へのアンケートや対面でのミーティングを通して知ることができるでしょう。会社の方向性を決め、会社が成長を続けるためには優れたリーダーを育成することも重要です。

組織文化

「組織文化(Organizational culture)」は組織風土と言われることもあります。組織文化をデータ化することは難しいため、特に意識して管理を行っていない企業も多いでしょう。

しかし、組織文化は従業員へのアンケートを実施するなどによってデータ化が可能になります。また、クラウドシステムやAI、ビッグデータなどを使ったHRテクノロジーが組織文化領域で役立つでしょう。組織文化に関わる各項目を数値化し、会社の人的資本が抱える問題点を可視化してくれます。

具体的には以下の項目に分けられます。

  • エンゲージメント/満足度/コミットメント
  • 従業員の定着率

組織の健康、安全、福祉

「組織の健康、安全、福祉(Organizational health、safety and well-being)」領域では、従業員の安全性を保証する目安が記されています。さまざまある業種の中でも工場や工事現場での作業が多い製造業や建設業では特に重視される指標です。

下記項目のうち、「健康・安全研修の受講割合」では会社が安全面に関する人材教育にどれほど投資したかが分かります。受講割合が大きいほど、従業員にとって魅力的かつためになる研修を実施しているといえるでしょう。

具体的には以下の項目が含まれます。

  • けが等の労災により失われた時間
  • 労災の件数(発生率)
  • 労災による死亡者数(死亡率)
  • 健康・安全研修の受講割合

生産性

「Productivity(生産性)」は会社の成長に直接関わる重要な指標です。事業の売り上げや利益率などを測るため、会社がどれだけ成長したかを定点観測する際にも役立つでしょう。

具体的には以下の2項目が挙げられています。

  • 従業員1人当たりEBIT/売上/利益
  • 人的資本ROI

採用・異動・離職

「採用・異動・離職(Recruitment, mobility and turnover)」領域は数多くの項目に分けられています。人的資本の活用において、優秀な人材を獲得すること、必要なスキルを持つ人材を適切なポジションに配置すること、優秀な人材の流出を防ぐことなどは最重要課題だといえます。

以下の項目に着目して社内の人材の動きを把握し、自社の問題点を洗い出すと良いでしょう。

  • 募集ポジション当たりの書類選考通過者
  • 採用した従業員の質
  • 採用に至るまでに要する平均日数
  • 重要ポストが埋まるまでの平均時間(期間)
  • 将来必要となる人材の能力の評価
  • 内部登用率
  • 重要ポストにおける内部登用率
  • 重要ポストの割合
  • 全空きポストのうち、重要ポストの空席率
  • 内部異動数
  • 幹部候補の準備度(従業員層の厚さ)
  • 離職率
  • 自発的な理由による離職率(自主退職)
  • 退職の理由

スキルと能力

「スキルと能力(Skills and capabilities)」では人材育成のために会社がどれだけ積極的に取り組んでいるかが推察できます。会社からの働きかけだけでなく、従業員がどれだけ参加しているのかといった意欲も確認できるため、求職者が就業先を選択する際にも重要な指標であるといえます。

具体的な項目は以下の通りです。

  • 人材開発・研修の総費用
  • 研修への参加率
  • 従業員1人当たりの研修受講時間
  • カテゴリー別の研修受講率
  • 従業員のコンピテンシーレート

後継者育成

「後継者育成(succession planning)」は、持続的な会社経営のために欠かせない要素の一つです。この指標では、中長期的な視点から経営者候補の成長度合いを測ることができるので、計画的に後継者育成に取り組めるようになります。

具体的には以下の項目で確認できます。

  • 内部継承率
  • 後継者候補準備率
  • 即時継承する場合の後継者の継承準備度
  • 今後1~3年、または4~5年以内に継承する場合の後継者の継承準備度

労働力確保

「労働力確保(workforce availability)」では各社が保有している労働力を数値化することができます。フルタイム勤務やパートタイム勤務の他にも、委託契約者などの外部労働力も含めて定量化するので、会社全体としてどれだけの労働力を確保しているかが確認できます。

具体的には以下の項目に分けられます。

  • 総従業員数
  • フルタイム勤務者およびパートタイム勤務者の総従業員数
  • フルタイム当量(FTE)
  • 独立事業主など、臨時の労働力
  • 派遣労働者など、臨時の労働力
  • 欠勤状況

ISO3041が活用できる組織

4種類の組織において有効です。

上場企業

上場企業とは、証券取引所で株式を売買できる企業のことですが、上場企業にとってISO30414の重要度は高いといえるでしょう。なぜなら、上場企業は世界規模の事業展開をしていたり、アメリカ市場に進出している場合が多いからです。

例えば、東京証券取引所におけるプライム上場企業になるために満たすべき基準は以下のような項目があります。

  • 株主数800人以上
  • 流通株式数2万単位以上
  • 時価総額100億円以上
  • 流通株式比率35%以上
  • 2年間の利益総額が25億円以上、もしくは売上高100億円以上かつ時価総額1,000億円以上
  • 純資産額50億円以上

これらの厳しい基準をクリアした企業は会社規模も事業規模も大きく、一般的に社会的信用性も高いため、国際基準に則った経営が求められるのです。

ISO30414に沿った人材資本の情報開示を実施しておくことで、今後ガイドライン規格から要求事項規格になった場合でも落ち着いて対処できるでしょう。また、アメリカ市場に上場している場合は、人的資本の情報開示が既に義務化されています。ガイドラインに沿った対応をすると安心です。

上場や資金調達を目指している企業

もちろん、非上場企業においてもISO30414は無視できないガイドラインです。上場や資金調達を目指している企業にとっては、資金を出資してくれる株主や投資家の存在は重要でしょう。株主や投資家たちは人的資本に強い関心を持っているため、適切なガイドラインに沿った人的資本の情報開示を行うことで資金調達が容易になる可能性があります。

人的資本を効果的に活用し、社内の人材の能力を最大限に発揮できる環境づくり、会社の事業展開に合わせた優秀な人材獲得などの戦略的な人事に取り組むことが大切です。

中小企業

中小企業とは、中小企業基本法によって定められた事業規模の会社を指しており、業種別に基準となる数値が定められています。事業規模の判別には、資本金の額や出資総額・従業員の総数が用いられます。

中小企業庁が定める業種別の定義を一部紹介します。

  1. 卸売業

    資本金の額または出資総額:1億円以下の会社
    常に活用する従業員数:100人以下の会社および個人
    ※どちらかに当てはまる場合

  2. 小売業

    資本金の額または出資総額:5千万円以下の会社
    常に活用する従業員数:50人以下の会社および個人
    ※どちらかに当てはまる場合

  3. サービス業

    資本金の額または出資総額:5千万円以下の会社
    常に活用する従業員数:100人以下の会社および個人
    ※どちらかに当てはまる場合

上場企業などと比べると比較的従業員数が少なく事業規模も小さいのが中小企業であるといえます。ISO30414は対応が必ず必要なわけではないため、直近で資金調達の必要がない比較的小さな会社にとっては注目度は低いかもしれません。しかし、アメリカでは人的資本の情報開示が義務化されたように、今後日本で情報開示が義務化されないとは限らないのです。

国際化が進む昨今では中小企業も海外企業との商取引の機会は増えるでしょう。その場合、ISO30414への対応を求められる可能性もあるのです。

また、中小企業が長期的に存続し成長を続けていくためにもISO30414は効果的です。人的資本を効果的に活用することは会社にとって重要な課題であるため、ISO30414を参考に自社の現状把握に努めると良いでしょう。

行政機関や自治体

人的資源の活用に関して課題を抱えているのは、会社だけでなく行政機関や自治体も同じです。国際標準化機構は「行政機関や自治体においても、組織の現状把握と成長のための戦略を打ち立てるために、ISO30414が有用である」と記載しています。ISO30414は複数人が所属する組織であれば、あらゆる機関において効果が期待できるガイドラインだといえるでしょう。

2021年には日本にデジタル庁が新設されたように、行政機関では民間人材からIT技術者の採用が為されています。政府機関での民間人材の活躍は今後も期待されるでしょう。同様に、各自治体においても民間人材の採用や活用が行われる可能性があります。

ISO30414の導入状況は?

ISO301414は日本だけの規格ではありません。そのため、日本よりも早くISO301414の導入が進んでいる国は多く存在しています。

世界でのISO301414の導入状況

2018年12月に制定された「ISO 30414」は、その後どのように導入が進んでいるのでしょうか。

アメリカでは、2020年8月に米国証券取引委員会が非財務情報の開示に関する要求事項を改訂し、上場企業に対して人的資本情報の開示を義務化しています。

また、ドイツでは人事領域に関するレポートを出して投資家に説明する企業も増えています。

人的資本開示は今後必須になってくる対応

人的資本に関わる国際的な基準を規定した「ISO30414」は、世界各地で導入されています。世界的に社内の人材活用に注目が集まっている今、日本国内の企業においても対応が求められるようになるでしょう。

ISO30414を参照して適切な人的資源の活用と情報開示を行うことで、会社の人材管理が容易になる他、資金調達がしやすくなるなどのメリットが得られます。数値化しにくい人的資源に関わる情報のデータ化ができると会社の成長が見込めるでしょう。会社の持続性や生産性を高めるためにも、企業規模や事業規模に関わらずISO30414に沿って早めの対応がおすすめです。